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第十四話 シルア、バッターになる

創無花(クレア・ニイロ)――虚空よ、咲け。」


その言葉ともに、エミレの前に1輪の『無』が咲く。

けれど、それは花とは名ばかりの、美しい色も香りも花弁も持たぬ、『空白』だった。


だからこそ、最初は誰もその存在に気づくことなどなかった。

しかし、エミレの目の前まで迫ったドブネズミの光線が、その花に触れた時――


ふわり、と。

音も、跡形も残さず、その閃光は消えた。


破壊でも、力で打ち消したわけでもなく、ただ最初から、なかったかのように。

その存在自体を否定するかのように、傲慢に、そして、いかにも無関心といわんばかりに。


――消え失せた。


そこには、非情さを隠すかのように、先ほどと同じような空間が広がっているだけ。


だが、この場にいた全ての人間が、怪訝な表情で動きを止めた。


それは、悟ったからだ。


――エミレが今したことは、明確に世界の理に反することだ、と。



しかし、今そんなことにいちいち気を取られている暇はなかった。


ギャオオオオオ……


閃光は消えても、()()()()()()は消えていない。


「なに呆けてるの、ネズミの王はまだいるよ」


エミレは、鋭い視線で叫ぶ。


「あっ、う、うん」


シルアは、戸惑いながらも、リュドエールルを構える。

その姿を見たエミレは、指示を飛ばし始める。


破裸痢爺(パラリヤ)3兄弟は、下がって安全なところへ!」


「「「すみません、エミレさん!

  ……頑張ってください。」」」


「うん、任せて。

 それで、シルアは、まだ戦えるね?」


「もちろん」


「じゃあ、ネズミの注意を引いて。

 その隙に私が攻撃するから」


エミレは、簡潔に、淡々と指示を送る。

そこには、いつもの飄々とした姿はなかった。

そのことが何よりも、破裸痢爺(パラリヤ)を守りながら、得体のしれないネズミの王と戦い始めるという状況の深刻さを示していた。


シルアは、指示通り、走りながら剣を振り回し始める。

すると、ハダカネズミは、シルアに向かって、尻尾を鞭のようにしならせて攻撃する。


それに対して、シルアは、跳躍したり、地面に転がったりと派手に交わす。

来い――と言わんばかりに。


その小賢しいようすに、怒りを覚えたハダカネズミは、シルアをめがけて、光線を放つ。


「リュドエールル!任せた!」


即座、シルアは――剣を大きく振りかぶる。

その目の前には、すべてを焼き払わんとする光源が……


「キャルケイ!?」


そんな絶体絶命の状況をやっと理解したリュドエールルが、暴れ始める。


「大丈夫……リュドエールルなら、できる!!」


キラキラした目で、剣を見つめるシルアはガッツポーズを決める。


「キャリピンナ!!!」


そんな投げやりを食らったリュドエールルは、ふざけるなとでも、言いたげな声色でシルアに突っかかる。

剣体をぷるぷると震えさせ、恐怖と怒りを滲ませる。


が――

しょうがないなと言わんばかりに、リュドエールルはシルアの身体を構えさせる。


仁王立ち。


足は地に根を張り、腰は深く落とし、

顔の右側にはリュドエールルを握った両腕。


そこには、閃光を跳ね飛ばす1本のバット()


「いっけえぇぇぇぇ!!」


シルアは、リュドエールルを光線へと力いっぱい振りかぶる。


ドゴゴゴゴゴゴゴ……!


刹那、ハダカネズミから放たれた光線は、リュドエールルにより跳ね飛ばされ、まっすぐと逆方向へ――。


その軌道はまっすぐとハダカネズミの方へ向かう。


その姿、まさに――

スイング。


魔球(ビーム)は、ハダカネズミの額を貫く。


――ジュウウウゥゥゥ!


ハダカネズミの悲痛な叫びが響き渡る。


と同時に、巨大な影が地面に落ち、盛大な砂ぼこりが舞う。


シルアが目を開けると……

そこには、4本の物体が。


それは、枯葉のように、土を纏い焼け焦げた姿で、ぐしゃりと折り曲げられていた。

きっとこれは、元リーゼント――。


なんとも哀れな姿である。


「おおう!ナイス、シルア!!ホームランじゃん。」


エミレは、手を叩きながら飛び上がる。


しかし、当の本人は――


「痛いって、リュドエールル!」

「ギャゲビ!!!」


猛烈なほどのデッドボールをリュドエールルから受けていた。


だが、洞窟の中心には、静かながらも、まだ巨大生物が生きながらえていた。


「さあて、そろそろ、トドメかな」


エミレは、黙りこくったハダカネズミを見据える。

すると、ハダカネズミは一瞬、瞠目する。

まるで、内から湧き出たものに抵抗するように。


(あれ、ハダカネズミ思ったより怒ってないな……なんでだろ)


エミレは、疑問を覚えつつも、ハダカネズミの膝へと跳ねる。


――ギャグウウ


遅れて反応したハダカネズミは、バタバタと足を暴れさせる。

が、時すでに遅し。


次の瞬間、エミレの1振りで、ハダカネズミの膝関節ははじけ飛ぶ。


そして、


「シルア、最後キメちゃって!」


エミレは真後ろへ、声をかける。


そこには、シルアが。


彼は頷き、スポンジのように呼吸をすると――


紅雪龍牙(レ・スリズィエ)!」


リュドエールル()から放たれた龍牙が、ハダカネズミの体心を嚙みちぎる。

飛び散った鮮血は、龍牙に命を芽吹かせ――桜を咲かす。


だが、その1木は、勝利を告げると、儚く消え、彼方へと戻っていく。

また呼んでね、とでも言いたげに。


対するハダカネズミは、穴の開いた風船のように徐々に体がしぼんでいく。

そして、どこからか微かな声が聞こえる。


()()、お前さんか――エミレ。)


その言葉にシルアはすぐさま反応する。

(今の声――またって言ってなかった?

 エミレは前もこの迷宮(ダンジョン)に来たことあるのかな。)


迷宮(ダンジョン)よりも、より深くひっそりと佇むひとつの疑問。


けれど――


シルアはちらりと、エミレを見つめる。

彼女は、金木犀のように明るく笑っていた。


(今、エミレが笑っているならそれでいい。

 僕は、ただそれを守りたいだけだから――)


シルアは、前を向きなおすと、霞を消し払うように頷く。


そんなシルアの決意を後押しするかのように……


「「「倒したぁぁ!!」」」


破裸痢爺(パラリヤ)3兄弟の声が弾ける。

ものすごい勢いで、彼らは、エミレとシルアに迫る。


「「「やぁ、エミレさんもシルアさんも超絶かっこよかったです……!

  特に、あのシルアさんのよくわかんないけど、綺麗な花!あれ、なんなんですか!?

  あんな花、木こりの俺らでも見たことないですよ!」」」


そうして、2人の手を握ると、破裸痢爺(パラリヤ)ブンブンと腕と髪を振りながら、語り倒す。


((あっ、木こりだったんだ……ええ、割とまともな職業なの!?

  じゃあパヤの決めゼリフで言ってた、内定ってなんやったん!?))


苦笑いしながらも、2人はあははと相槌を打つ。


破裸痢爺(パラリヤ)は、その後も2人を滝のように褒めちぎっていたが、

ふと、パヤが。


「でも、俺たち不甲斐なくって……」


と顔を伏せる。


先ほどの気分と打って変わって、空気が下へと沈殿する。


「そうっす、俺たち、自分たちの興味本位で迷宮(ダンジョン)に潜り込んで……」


「その結果、ネズミの王様を起こしてしまって……焦って、から回って、足引っ張って……」


ラヤとリヤが、弱弱しく言葉を紡ぐ。

だが、そんな勢いとは裏腹に、3人は、拳を強く握る。


懺悔をするかのように。


 「「「なのに、助けてもらってばっかりで……」

   でも、だから、俺たちっ!!」」



刹那、破裸痢爺(パラリヤ)の目の前に、大きな残像が過ぎる。


ザバッ――


深紅の血潮が、弾け出る。


「「えっ」」


エミレとシルアの声が重なる。

そして、その視線の先には……



胸元に深い、引っ掻き傷が刻まれた破裸痢爺(パラリヤ)がいた。

抉れたその切れ目からは、ひとしずく、血が落ち、ピリオド(終点)を打った。

読んでいただき、ご覧いただき、ありがとうございます!

どうも、ルアンですっ……これだけ言わせて、ぱらりやぁぁああ(´;ω;`)

そんな思いを込めて、ルアン画伯の絵を飾っておくよ。。

挿絵(By みてみん)


切り替えよ。。。

次回はプロローグ投稿予定&初期話を少し手直しします(内容変更なし)。

そして、なんとPV500目前、本当に感謝です!ありがとうございます……!

これからも楽しんでくれると本望でございますわヨ!

ではでは、またねっヾ(≧▽≦*)o


野球がわからないルアンが書いたあらすじはこちら↓(もしくは上のシリーズ一覧から!)

https://ncode.syosetu.com/n9016kh/15/

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