第十三話 覇者、虚空を咲かす
「エミレっ、今ので何体目っ……!?」
「んーざっと、15匹目くらい?」
「ぜぇ……はぁ……まじ、かよ。」
荒い息をあげながら、シルアは汗をぬぐう。
目の前には、切り刻まれた魔物、もとい――ネズミ。しかも、大きめ。
「さすがは、迷宮だね。
魔物が次から次へと、バンバン出てくる。」
「エミレ、来たことあるの?」
「あるある。ドウアって、やたらにこういう迷宮が多いから。
ここはね、魔物の巣だとか、はたまた古代遺跡が眠っている場所だとか、いろんな噂があるんだ。」
エミレは、血の付いた剣を軽く振り、ネズミの死骸を道の端に寄せると、スキップをしながら迷宮の奥へ進む。
そこへ――
「「「そうなんですよね!!まさにこの世のロマンっていうか!!
いやぁ、俺たちも1度は来てみたかったから、ホント来れてよかったです!!」」」
背後からぴったりと張り付いてくる――奇抜な3兄弟、破裸痢爺。
リーゼント探しの依頼人である。
「いや、なんでついてきたんだよ!?マジで!?」
はっと我に返って、シルアはツッコミを入れる。
ラヤ:「いやぁ、俺、リーゼント落としたんですよ。迷宮――の前の森で、ですけど!」
パヤ:「慌てて、取りに戻ったときにはもう、リーゼントはその場所にはなくて……。」
リヤ:「でも、俺たちその時にみちゃったんです。あの――忌々しい、ハダカネズミを!」
ラヤ:「あいつ、お兄ちゃんの毛を咥えて……」
パヤ:「とんでもないスピードで……」
リヤ:「この迷宮へと帰っていったんです!!」
ラヤから始まり、パヤ、リヤへと続いていく会話のバトンリレー。
……なんとも言えない、ラブリー、いや、――ハゲリ―なコンビネーションだ。
「ハダカネズミって、ハダカなのがコンプレックスでありとあらゆる毛を集めるって習性があるらしいもんね。
なかなかに特殊だよね~」
軽口を叩いたまま、エミレはどこからともなく現れたネズミを一刀両断する。
目線すらくれずに、だ。どうやら、気配だけで位置を察しているらしい。
「「「エミレさん、スゲェ!!」」」
破裸痢爺一同、盛大な拍手。
なぜか、アフロたちがその拍手に連動してウェーブするように揺れているのは、スルーしておこう。
「ふふふ、ほめるにはまだ早いぞ……諸君。
なにせ、私はしがなき覇者なんだ。こんなので驚いてちゃ、旅のお供も成り立たないよ。」
まんざらでもない顔で、ツインテールをばさばさと手でなびかせる、エミレ。
……対抗意識燃やすな。
「そうだそうだ。エミレの強さなんて僕は見慣れたもんね。」
シルアは、ブルドッグのような顔をして、伸びた髪を指で巻く。
……お前もだ、シルア。
「あれ、もしかして」
ふと先頭を進むエミレが、立ち止まって、前を指さす。
そこには――
「「「あれは、俺たちのリーゼント!?!?」」」
があった。
しかも、ご丁寧にわかりやすく、一段高くなった台座の上ににセッティングされて。
「「「おー!リーゼントおかえりいい!!
探したんだぞっ、まったく手間をかけさせっやがって……」」」
破裸痢爺3兄弟はどてどてと、涙を流しながらリーゼントに駆け寄る。
「おい、お前らそれ絶対……」
シルアが何かを言いかけるが、その感動的な泣き声に阻まれる。
ラヤ:「ああ、俺のリーゼント――もう離さない。」
パヤ:「ばか、叱るかよ。俺たちが悪かったんだからよ……」
リヤ:「よく……ここまで、ひとりで頑張ったな。これで、やっと……」
「「「俺たち、破裸痢爺(真の姿)に戻れる!!」」」
うわーんとリーゼントを掲げて、3人は泣き崩れる。
掲げられたリーゼントは、きらきらと誇りを纏い、輝く。
「「さぁ、兄ちゃん(弟よ)、リーゼントを……」」
パヤとリヤは、リーゼントをラヤに近づける。
「ああ」
ラヤは、天明を受けるかのように跪く。
「「「合体、俺らのリーゼント!」」」
そっと、ラヤの上にリーゼントが供えられる。
その姿、まさに復活の儀。
直後――
「「「おおおおおおっ!!封印されし力が、みなぎるうう!」」」
ラヤを真ん中に、破裸痢爺の背後に電撃が走り、地面が盛り上がる。
「なんか、フォルムチェンジしてないか!?」
「わぁぁ、すごい!!これが、まさに!進化の瞬間だよ!」
羨望のまなざしで3人衆を見据えるエミレ。
そこに現れたのは、以前の姿とは似つかぬ覚醒した姿をした、3人の漢。
「「「参上!!われら、破裸痢爺(改)!!
世界にはびこる悪を打ち消し、風紀を乱す者!!」」」
背中にはマントがつけられ、より全身の筋肉もビルドアップ。
そして、中央に立つのラヤの頭には――左右対称の堂々たるリーゼントが鎮座している。
……ただし、下はスカート。
その姿はまるで――
「「うさぎじゃねーか!!」」
そう、ハゲリ―なうさぎ。
だが、言い終えたその時、
ゴゴゴゴッゴゴゴゴゴ――
とてつもない勢いで、地鳴りが鳴り響く。
その発信源は――破裸痢爺(改)の下。
そこには――突如として、地面を張って現れた超巨大ハダカネズミ。
大きさざっと、30m。
おびただしいほどの瘴気を纏い、目には鋭い狂気を宿していた。
その姿は、猫。
天敵をも、物語れる風格をもったネズミに恐れるものは何もない。
しかも、その風格を支えるように頭頂に生えた――4段牙。
「だから、罠って言ったじゃん……」
呆れたように、シルアが息を吐く。
ハダカネズミが爪を引き立てるように咆哮を奏でる。
そのあまりの勢いに破裸痢爺(改)は硬まる。
「おいおいおいおい、マジかよ、こんなの聞いてねえよ」
「リーゼントが4段って……俺たちの比にならねぇよ」
だんだんと鉄球が落ちるかのように、ラヤとリヤは沈むが、
「おい!弟たち、こんなんでひよってるんじゃねぇよ!!」
パンとバットのような声が響く。
「お前ら、恥ずかしくねぇのかよ。
俺たち、エミレさんたちがいねぇとここまでやってこれなかったんだぜ?」
パヤは、震える足を手で支えながら立ち上がる。
「なのによ……俺たちが、リーゼントめがけて突っ走ったせいで、こんなバケモンを起こしちまった。
おめえらはよ、それでも……破裸痢爺(改)の1員かよ!!」
キッと、ハダカネズミを見据えて叫ぶ。
「自分たちでやったことにはケジメをつける……それが俺らの掟だろうが!!」
瞬間、ラヤとリヤの目に青春が宿る。
「「そうだな、兄ちゃん。
こんなくそみてぇなドブネズミ相手にビビるなんて、俺たちどうかしてたよ……!!」」
3人は寄り添いあいながら、1本の柱となる。
そして――
「「「いくぞっ、破裸痢爺ビーム!!」」」
即座、彼らの髪が変化する――その姿は、天へと向かうひとつの塔。
その塔はまるで、目の前にいる怪物を浄化するかのように真っ直ぐと伸びる。
だが、その掟は――
ジュウウウウ!!!!!
ドブネズミの牙によって、あっけなく引き千切られる。
そんな人形劇により怒りが頂点に達したネズミは、対抗するかのように、リーゼントから光線を発した。
それは、遥かに強く、押しつけがましく、残酷であった。
3人は、再びへたりと座り込む。前回よりも深く、そして、重く、悲劇的に。
「「「ああ……俺らじゃ、だめだったんだ」」」
彼らは全てを受け入れ、諦め、折れる
――はずだった。
「ったく、本当はここで使いたくないんだけど。」
放たれた、その本塁打に地面が撫でられる。
「まぁ、しょうがない。――これも覇者ゆえかねぇ」
気付いた時には、少女は、敗者の前に有った。
「創無花――虚空よ、咲け。」
読んでくださり、ご覧いただき、ありがとうございます!
どうも、ルアンですっ!!
投稿が遅くなってしまい、申し訳ありません。ついにエミレの能力「創無花」が解放されたよん!!!!
カッコよく決めたかったので、技名で区切りを入れました。悪しからずw
これからもギャグとシリアスを行き来しながら進んでいきますので、応援よろしくお願いデスᕦ(ò_óˇ)ᕤ
今日は、リーゼント×2=ウサギを証明してくれた、次男の裸爺のイラスト書いたよ!(下手だけどねww)
ではでは、また次の話にてお会いしましょ~またねっヾ(≧▽≦*)o
あとがき全文はこちら↓(もしくは上のシリーズ一覧から!)
https://ncode.syosetu.com/n9016kh/14
今日もふざけているのでシクヨロ!笑