第十一話 覇者、運命(自称)の出逢いを果たす
SIDEショーン
「コラーレーの町に、ついたどー!!」
エミレ、シルア、そして、リュドエールルの2人と1剣による奇妙な旅路は、エピネスの町の森から、ついにコラーレーの町へと辿り着く。
さすがは、『冒険者の町』と呼ばれているだけあって、エピネスの町とは、明らかに町の規模が大きい。
建物は隙間なくびっちりと立ち並び、その大半が、宿屋や、酒場、防具屋、武器屋などと、いかにも冒険者向けの施設ばかり。
そして、行きかう人々の服装もさまざまで、
重厚な鎧に身を包んだ人もいれば、身軽な服装の者もおり、中にはローブに身を包んだ人もいた。
だが、その全員に共通しているのは、腰や、背中に武器らしきものをぶら下げているということ。
いわば、ここでは戦うことは日常茶飯事。
だからこそ、町を歩くと様々な声が耳に入る。
勝利に沸く声や、酒場で仲間と語り合う楽し気な声、商人の呼び込み……
けれど、いつでもそのすぐ隣では、傷を負った冒険者のうめき声や、仲間を失った人の悲痛な嘆きが付きまとっていた。
常に、希望と絶望が入り乱れ、同じ時を流れる――そんな異様な空気がコラーレーの町を取り巻いている。
それでも、いや、だからこそ。
この混沌ともいえる空気さえも人々に活気ととらえさせる、冒険のロマンがこの町にはうずめいていた。
そんな空気に魅了され、酔ったものが、ひとり。
「おおおおおおおお!!なんだこれは!!」
「ああ……それはね、カエルの卵の色を変える『専門家』お手製の薬だよ。ただし、生まれてくるおたまじゃくしには、なんの効果もないけどね」
「わぁぁ!!その役に立ちそうで立たないのいいね!!じゃあ、これは?」
「ああ、それはね、柔らかい素材でできた剣さ、これなら、間違えて仲間を刺しても問題ないからね!どうだい便利だろ?」
「えーなにそれ、ちょーすごいじゃん!!え、これほしい!!7ピグとかでどう?」
この誤って味方に刺しても安全な剣にした結果、敵に刺しても安全な剣になってしまい――
もはや剣という役目を背負うことをやめた代物を本気で買おうとしているバカである。
「ちょちょちょちょ、エミレ!ストーップ!」
シルアは、町の空気に圧倒される暇もなく、エミレの背中を引きはがす。
「え、なんで。これは、天下の逸品だよ!だって、仲間を刺しても死なないって画期的すぎじゃない!?」
「いや、それって言いかえると敵を刺しても死なないってことだからね!?
絶対にいらないよ、それ。」
「シルア、なんで、そんな悲しいこと言うの……」
エミレは、シルアに全否定されたことがショックだったようで、顔を曇らす。
「あ、エミレ、そんな顔しないで……えーっと、ごめん?」
エミレのあまり見ない表情に戸惑うシルアは、とりあえず謝る……が、これが最大の選択ミスであった。
瞬間、エミレは、顔をぱぁと明るくし――
「つまり、これ買ってもいいってことだよね!
はい、おじさん、7ピグ!」
素早く、硬貨を渡して、剣を受け取る。
これぞ、エミレ奥義、必殺噓泣き落とし。
「あああああ、エミレがっ、変なガラクタをっ、買ってしまったあああ」
「ひゃっほーい!これでまた、一歩覇者に近づいたね!!
この武器さえあれば、敵の無血開城だって夢じゃないよ!」
某名画のような、げっそりした表情で悲痛な声を上げる少年と、
宝を手に入れたという歓喜の雄たけびをあげる少女。
……そう、まさに、これこそが、この町を作っている、勝者と敗者の空気なの、かもしれない。たぶん。
「ケケン!」
そんな空気に浸る2人を見かねたリュドエールルは、先へとせかす。
「はっ!そうだよ、エミレ、こんなことしてる場合じゃないから!」
「え、あ、はは~ん、もしかして、行っちゃうの?シルアよ。」
「どこに?」
「ぼいーんなお姉さんのところへ」
「行かないしっていうか!エミレ、言っとくけどそんなところに行くためのお金今ないからね!?」
「あれ、そうだっけ?」
「そうだよ!!この3日間の旅路で、宿屋にぼったくられて、お金ほぼないって言ったじゃん!」
「あ、そうじゃん……」
チャリンと財布が、空しそうに音を奏でる。
エミレはシルアの言葉が終わるころには、顔面蒼白になっていた。
「今、私たち、総額20ピグもないんだ……」
「いや、今、エミレが変なのを買ったから、残金はあと11ピグです。」
「はっ、こうしてはいられない!このままでは、路上覇者生活がはじまってしまううううう」
そう叫ぶと同時に、エミレはものすごいスピードで町の中心――冒険者ギルドへと走り始める。
どうやら、覇者の名において、路上生活を行うというのは屈辱的であったらしい。
「ちょ、まってよ、エミレ!」
シルアも慌てて、彼女の影を追うが、到底追いつかない。
「カキャン……」
呆れた1振の鳴き声は、夢が渦巻く町のにぎやかさにもみ潰されていくのであった。
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「はぁはぁ、エミレっ、はやっい、よ。」
息を途切れさせながら、シルアは言葉を紡ぐ。
「いやぁ、覇者だからね。しゃーない!!
……そんなことより、ここが冒険者ギルドであってるよね?」
彼らの目の前には、町のどの建物よりも、豪華に設備された大きな建物があった。
その豪華な扉の上には、誇らしげに『冒険者ギルド~コラーレー本部~』と書かれていた。
「おっほお!すごい威圧感。お城みたい~!」
「すご、冒険者ギルドって、こんなにも大きいんだ……」
エミレが胸を躍らせながら、扉を押すと、ギィと音を立てながら、扉が開く。
建物の中は、石造りの壁が広がっており、床には赤色のカーペットが全面に敷かれている。
その中でも、真っ先に目に入ってくるのは、掲示板に張り付けられた大量の依頼書。
難易度別に、掲示板が分けられており、その報酬額も安いものでは10ピグから高い物なら1000ピグまでと青天井である。
そして、正面には受付。
そこには、清潔感溢れる制服に身を包んだ女性たちが立っており、依頼志願をする冒険者の対応にせわしく追われていた。
「盛り上がってるね!!」
「ふかふかな、床……」
煌びやかなギルドの様子に、エミレはせわしくあたりを見渡しながら、
シルアは床の感触を靴で確かめながら、しばらく呆然とする。
「ん?」
が、突然、エミレのアホ毛が、ピョンとある1点を指し示す。
すると、彼女は血走った目で、アホ毛の向く方向へ顔を動かす。
「……あ、発見……!!
やはり、私のぼいんセンサーに陰りはなかった!」
「いや、どういうセンサーだよ……」
引き気味のシルアを無視して、エミレ、いやイノシシはまっすぐと獲物に飛びつく。
そして――
「ねぇねぇ、おねーさん!!私に雇われない?どおどお?」
エミレは突如、受付のカウンターの女性に声をかける。
目の前には、眼鏡をかけた、美女Withぼいん。
彼女の髪は天の川のような群青色で、長く、その瞳には、髪を照らすような黄色い光を宿している。
女性は無表情で、近寄りがたい雰囲気が漂うが、
エミレはそんなことはつゆほども気にせず、笑顔で彼女の手を握る。
「……」
2人を包むのは、運命の沈黙。
永遠のように感じられるその見つめ合いは、
「失礼ですが、冒険者様?
あなたのおつむはぶち壊れているのでしょうか。
勧誘をするのなら、まず名乗ってくださいな。」
女性の口から、抑揚のない声で、冷たく、つららの様に言葉が吐き出されたことで終焉を迎える。
と同時に、エミレの手は、パシとはたかれる。
「はうっっ!!」
刹那、エミレの心臓は貫かれる。もちろん、心理的な意味で。
「ハフッケ」
同時に、リュドエールルも。
((夜空のような儚げな見た目に反して、その内面は、絶対零度のクゥルビュウティー、あかん……完全に惚れた!!))
「わ、私はっ!エミレって言いますぅ!えっとぉ、隠居中だったしがなき覇者ですぅ!
あの、そのぉ、よろしければっ、おねえさんのお名前も教えてくれませんか?」
顔を赤らめ、身体を蛇のようにくねくねさせながら、エミレはゆっくりと言葉を紡ぐ。
これぞ、エミレ奥義、お願い。
シルアで実証通り、エミレは残念ながら、世界トップレベルの美少女なのでそれなりの効果はある、はず……
だったが、女性は微動だにせず、虫を見るような眼でエミレを一蹴する。
「あ、貴方に名乗る必要性は感じないので結構です。
それで、クエストの依頼でも受けたいのですか?」
完全なるノーダメージ。
(なんと、私の奥義が効かないなんてッ!!でも、その視線はおいしい。じゃなくて、こうなったら……)
くううと唇をかみながら、エミレは次の策を思いつく。
「今このギルドで依頼されている、1番難しい依頼をお願いしますっ!!」
エミレの声は、広いギルドの室内で、盛大に響き渡る。
まるで、窓を蹴り割ったかのように。
瞬間、
(はい。エミレ、やると思った~詰んだ~)
シルアは悟り、
「おい、また新人がばかやっているぞ」
「どうせすぐ、依頼なんてほっぽって、すぐ逃げるよ。」
「けっ、めんどくさ。誰か止めてくれよ。」
ギルド内の冒険者たちは、一斉に騒がしくなる。
そんな中、椅子をゆっくりと引いて、立ち上がる人影が3つ――
「「「おいおい、ツインテールのおじょおちゃん。ちゃっくら、俺らのマイハニーにならねぇか?」」」
――エミレに突如プロポーズをした3人衆とは一体!?
覇者の運命の出逢いによる、荒波はまだはじまったばかりだッッ!!
読んでいただき、ありがとうございます!
どうも、脳が焼けてるルアンです(*- -)(*_ _)ペコリ
今日は頭がポンコツなので文章がいつも以上に飛んでるかも!……それも味だと思って許してネ!
ついにコラーレー編突入!毒舌おねえさんとエミレ奥義(お色気ver.)が炸裂しましたね笑
次回、キャラ&能力一覧出す予定なのでぜひ~!そして300PV間近…本当にありがとうございます!!
ではでは、また次の話でお会いしましょ~またねっ!(@^^)/~~~
あとがき全文↓(もしくは上のシリーズ一覧から!)
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