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第九話 覇者になる旅の始まりは、思い出と人々の罵倒から

SIDEシルア


「やっぱり……噂はほんとだったんだ」


ぽつりと放たれた呟きが、石の波紋のように広がり……


「っざけるんじゃねぇよ」

「俺たちが一緒に過ごした日々も茶番だったっていうのかよ!?」

「どうせ、今日だって、その連れでも使って、町で騒ぎを起こすつもりだったんでしょう?」

「なんで、信じていたのに……」

「どうせ連れのガキでも使って、今日もまた何かするつもりだったんだろ」


怒り、憎しみ、悲しみ、困惑――そういった、感情が無秩序に、氾濫した川のようにあふれ出す。


そして、それはただ真っ直ぐと、エミレへ向かう。


そのどれもが、理不尽な産物に過ぎないのに、己の心に流されるがまま、激しくうねる。


だが、彼女はそのどれもを受け入れ、肯定し、認める。

当然だと言わんばかりに。優し気な笑顔を浮かべたまま。


そんな光景が、僕には到底耐え切れなかった。


なぜ、エミレが、噂を肯定して、町の人々の罵詈雑言の的になるのかわからなかった。


ただ、許せなかった。明らかに嘘とわかる内容を、本人が証拠もなく肯定したその返事ひとつで、ここまで責めることのできてしまう彼らが。


気付けば、僕の手は、リュドエールルを握っていた。

ただ、怒りのままに、感情が赴くままに。

……そうだ、殺せばいいんだ。


このまま、全員を――殺そう。

そうすれば、すべて解決する。

エミレに罵詈雑言を吐く奴らの顔も声も金輪際出くわすこともなくなれば、また平和になるから、大丈夫。


そうしたら、エミレも傷つかないで済む。

彼女が、今受けている苦痛を帳消しにすることができる。


僕は剣を引き抜こうとした。

僕にはこの手を止めるほどの理性などもうない。


――が、突如、僕の身体は金縛りにあったかのように動かなくなる。


身体はまったく動かなくて、脳が無駄に働いて、それがまた惨めだった。


原因はすぐに分かった――リュドエールルだ。


なんで、止めるんだよ。お前だって、わかるだろ、僕の気持ち。

エミレはなんにもやってないのに、あいつらになんで責められないといけないんだよ。


僕は必死になって、リュドエールルを説得しようとする。

けれども、剣も身体も梃でも動かない。


その代わりに――


「キュビィン」


僕の頭に直接リュドエールルの澄んだ、金属音が響き渡る。

まるで、何かを伝えるかのように。


瞬間、僕の視線は導かれるように、ある一点に吸い寄せられる。


……屋根の上に、それはいた。


――クローブだ。


あいつは、思い通りとでも言わん様子で、屋根の上にひっそりと立っていた。

そして、そのフードの奥に眠る視線はただ一点――エミレに注がれている。


僕は、やっと気づいた。エミレが悪者になろうとしている『理由』に。

……僕らは嵌められたのだ、クローブに。


クローブの目的は、おそらく、エミレ――彼でいう巫女様に、誰も関わらせないこと。

そのために、今回彼は、()()()()()()を立てたのだ。


ひとつめは僕の暗殺計画。だが、これは僕が呪印(シジル)に覚醒したことにより、阻止された。


そして、ふたつめの作戦。

それは――町人によって、エミレを町から追放させること。

そうすれば、彼女はより孤独を極めるだろう。


町人たちは、そのためだけに、クローブの作戦に利用されただけの駒だったのだ。

ただ、噂に、目の前の感情に、流されているだけの操り人形。


だけれど、クローブにとっては、町人たちは、確実に邪魔な存在。

もし、エミレが抵抗して、この策にはまっていなかったら、

――被害はより、深刻なものになっていたかもしれない。


きっと噂で済まされなかっただろう。

場合によっては、村人を大量虐殺することだってあり得る。


町ひとつ崩壊させてまで、巫女様だからと、エミレを()()の存在へともたらしめる。

クローブは、そのくらい平然とやってのけるだろう。

実際、あいつはそのために僕を殺そうとしたのだ。


だからこそ、エミレは……悪者を演じているんだ。

町を守るために。

無関係な人は、誰も巻き込まないように。

村を出る最後のその時まで、覇者(ヒーロー)であり続けるために。


それを理解したとき、改めて自分の愚かさを痛感させられる。


……僕は、今、この手でエミレの想いを踏みにじろうとしていたのだ。

リュドエールルがいなければ、今頃どうなっていたことか――


「……守るどころか、傷つけてたなエミレを」


そのつぶやきは、すぐに町人たちの声によってかき消され、僕の思考は現実へと引き戻される。

今は、そんな自分を責めている暇はないのだ。


何よりも確実に、エミレを守るために、排除しなければいけないものがある。


「クローブ、お前だけは、なにがあろうと許さねぇ」


その声はリュドエールルに、そして僕の心の芯に、どこまでも強く鳴り響いた。



でも……今はその時じゃない。

悔しいが、ここは村から出ないと、エミレの思惑通りに事が進まない。

無傷で終わらせよう、エミレが悔いなく、このエピネスの町を去れるように。


その思いが呼応するかのように――


「でていけ、お前らなんていたら困ることばっかりだ。」

「そうだ、きえろ!二度と姿をみせるな!」

「私には子供がいるの……この子たちを傷けるならでていって!」


町の人たちは、僕たちに出て行けと、叫び始める。


「はいはい、わかってますとも。あーあ、次はもっとうまくやんないとな~

 ま、なにはともあれ、もう君たちに用はないから。」


エミレは飄々と、ふてくされたような物言いをする。


だが、最後のひとことを発する前に――彼女はなにかを噛みしめるかのように、一拍空ける。


そして……


「さようなら」


その声は、一見、何かをあきらめたように聞こえた。

だが、同時に、やり切ったという達成感に満ち溢れていた。

まるで、すべてを終えた者のような、そんな不思議な重みを孕んでいた。


そんなエミレの様子を多少なりとも感じ取ったかのように、町の空気は静まり返る。

彼らだって、心のどこかではわかっていたのかもしれない。


――けれども、もうここまで来てしまったら、引き返せない。


「……ふざけんな、ただで済むなんて思ってないよな!」


静寂を引き裂くような(怒号)が放たれる。


「そうよ、怪我のひとつでも負わせてやらないと気が済まないわ!」

「軽々とでていきやがって、虫が良すぎるだろ」

「もう二度とこの村に近づくな」


町の人々の怒りは、彼らを群衆から暴徒へと変えていく。

石が飛び、食べ物が飛び、暴言が飛び……


エミレは、一切振り向かなかった。


たとえ、小石が当たって、血を流そうと、

食べ物が当たって、服が汚れようと、

いくらひどい言葉を浴びせられようと。


「そう、それが『正しい』。」


彼女は、ただ、僕にだけ、聞こえるようにひとこと放つだけだった。


――未だに、この言葉が、この時の彼女の姿が、僕は忘れられない。



****


「……シルア、君はいいの?

 村ひとつ丸ごと、破壊しようとした、殺人未遂犯と一緒に居て?」


村をでて、森の奥に入ったころ、エミレは、振り返って僕に尋ねる。

その言葉は、軽いのに、どこかすがるようで――無意識に、僕は、彼女を引き寄せたくなった。


「ばか。たとえ、エミレが殺人犯でも、なんでも、僕はついてくよ。

 ――だって、目指すんでしょ?世界の覇者。」


抱き寄せる代わりに放った言葉は、ぶっきらぼうになってしまったけれど

……僕は、手を差し出す。


すると、エミレは、目を見開いて、そして、向日葵のように微笑む。

だが、その笑顔にほんの少しの陰りがにじむ。


だから。


――こんどは僕から。


触れそうで触れない距離にある彼女の手を引っ張るように取って、強く握りしめる。

覇者になるんだって、強引に僕の手を握ってきたあの時のエミレのように。


「あったりまえよ!」


彼女の指にしだいに力が入る。

これは、きっと命がけの約束だと――彼女の体温が、そっと僕に伝える。


「そうと決まれば……ほら、シルア急ぐよ!!」


そういった瞬間、エミレは僕の手を引き、そのまま勢いよく駆けだす。

僕の手にかかるその力は、なによりも、暖かくて、もっと感じていたいもの。


「えっ、ちょ、エミレどこにいくの!?」

「決まってるでしょ!」


彼女の笑い声が、樹木の間から漏れる。


息が途切れそうで、途切れず、どこまでも僕の心は軽やかに踊る。

まるで、その先の言葉を待っているかのように。


「行くよ――世界の覇者になる旅へ」

読んでいただき、ご覧いただき、本当にありがとうございます!

どおおもおお、ルアンでーす!!

昨日は投稿お休みしてしまい、誠に申し訳ございませんッ!!(直角イナバウアー)


話の流れ的に、「おっ、ここから旅かな?」って思われた方もいると思うのですが、

もうちょ〜っとだけ準備編が続きます!あと半話分くらい!

「旅の支度編」として、もう少しだけお付き合いくださいませm(__)m


前話から、20PVいただいております!

とても励みになっております、ありがとうございます(((o(*゜▽゜*)o)))

ではでは、また次の話にて、お会いしましょ~

またねっ(^_^)/~

あとがき全文はこちら↓(もしくは上のシリーズ一覧から!)

https://ncode.syosetu.com/n9016kh/10/

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