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ワタリと僕  作者: ぼうし
7/14

たもつくん 第一話

とある細長い月がきれいな夜に僕はワタリと出会った。

僕こと「白鳥彰」は発達障害というハンデを背負いながらも

B型作業所という授産施設で社会復帰のリハビリをしている。

その姿を見守るワタリと僕の心休まる優しいストーリー。


登場人物


白鳥彰(僕)

ワタリ(ワタリガラス:人外)

たもつくん(知的障害を持つであろう人。B型作業所へ通所している)

あげはさん(統合失調症。B型作業所へ通所している)


 街路樹が赤や黄に染まっていた。

葉が風にさらわれ、空に舞う。街路樹の隣で咲いていた彼岸花は葉だけではなく花も失い、寂し気にたたずんでいる。

 晩秋である。作業所からの帰り道、僕は落ち葉を踏みしめる乾いた音に秋の深まりを感じていた_



 僕は散歩中、空想世界にどっぷりとはまってしまうという癖がある。頭の中に浮かんだ単語から連想ゲームが始まり、物語の世界に入り込んでしまうというものだ。よくあることだと思う。

 今日は「2×9=12」という単語が頭に浮かび、どうすればそれが成立するかという思考に飲み込まれていた。そもそもなぜ「2×9=12」という単語が出てきたかというと、僕の通っている作業所の知り合いにたもつ君という人がいるのだが、彼の口癖が「2×9=12」だからだ。


 作業所の作業の一つにお弁当などに入っている魚型の醤油さしを枠からはずすというものがあるが、その作業中、たもつ君は

「ニクニクニクニクニクが12」ブチ

「ニクニクニクニクニクが12」ブチ

とまるで掛け声のように「ニクジュウニ」と発声し、そのリズムに合わせて醤油さしを枠から外すという謎のこだわりを持っていた。


「静かに作業してください」

とスタッフから注意をされるが


「すみません」

「ニクニクニクニクニクが12」ブチ

といった有様である。

 きっと、彼にとってそのリズムが心地いいのだろう。


 その影響のためか僕は作業所からの帰り道、2×9=12という単語に支配され、その世界がどうすれば成立するかという思考にどっぷりとつかっていた。もちろん、答えは見つからなかった。



                  〒



「ワタリ、2×9=12の世界があってもいいと思わない?」


「なんじゃ、それは。2×9とはなんじゃ」


「そっか、ワタリの世界では数は必要ないか」


「うむ」


 三日月がきれいな夜である。三日月に寄り添うように輝いている惑星が一つ、木星だろうか。それとも、土星だろうか。赤く輝いていないので火星ではないことだけは確かだろう。

 大気が澄んでいて、星空がよく見える。

 窓から入る冷たい風が晩秋を感じさせる_実にいい夜だった。


「僕らの世界では掛け算という法則を使って数を数えることがあるんだ。ニクジュウハチは二個のものを9セット、合計18個という意味だね」


「なるほどの、2個のリンゴが入った箱が9個で合計18個のリンゴということか、便利じゃな」


「確かに便利ではある。たださ、この法則というものが絶対的な立場なんだ。あまりにも絶対的過ぎて、僕はたまに法則に従うロボットになってしまったような気がして、嫌になるときがあるんだよ」


「ずいぶんと話が飛躍してるが…ようするに自由がないと感じるということか」


「そういうことだね。自由がなくて開放感がない。自分たちで作ったルールに縛られて窮屈になっている。たまにそのことに気づいてしまい、たまらなく嫌になるんだ」


「ま、それはわかるが…人というものは面倒な動物じゃからな。でも、人の世界はルールに縛られなければ生きていけないじゃろうて」


「うん、だから、おとなしく従ってるけどさ。たまにルールごと壊したくなる時がある」


 窓から冷たい風が入った。まるで、僕をたしなめるかのように。


「彰、なんかあったのか?」


「うん。作業所にたもつ君という人がいるんだけどさ、ここ最近、彼の様子がおかしいんだ」


「ふむ、どういうことじゃ?」


「たもつ君はさ・・・」


 僕はたもつ君の話をすることにした_



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