私は女王の執務から逃げるため、たまご型クッションを抱いて暖炉に隠れることにした。
ただの、どこにでもいるような地味な村娘でしかなかったこんな私が、当時1番強い種族だった魔族の王が治めていた…この星、暗闇の星の女王様になってどれくらいの時間がたっただろうか。
もう何人もの生まれ変わりの人生を繰り返した私…ルキアは、またこの星の女王に成るべく生まれ変わっていた。
「ルキアの物語はバッドエンドだけじゃないんだから!」
…なんて、誰に対する言い訳なんだろうね?
これはいつかの、ルキアの記憶。
★★★
私、ルキア・ハピネスは終わらない女王の執務から逃げるため、お目付け役のナイトやメイド達から逃走を企てていた。
持ち物はただ1つ。私のナイトであり、恋人でもある翼・イブリースからプレゼントされた…彼の瞳の色と同じ黒色のたまご型クッションを抱き抱えて移動する。
城内を巡回する警備兵の人達の目を盗み、宰相や大臣達の目から隠れて女王の執務室とは反対方向に進む…辿り着いた大きな扉の部屋、ここは許可無く入ることが許されない立ち入り禁止区域であり、歴史的な品や資料が保管されている。きっとここならば見つかるまで時間がかかるだろう。
「この部屋なら、お城の中を知り尽くしているとか言う翼でもすぐには見つけられないでしょ」
私は翼に勝ったと思いながら、目の前の扉を力一杯押して開けて中に入った。透明なケースの中に保管してある強そうな大きな剣、高級そうな表紙の本ばかりが並ぶ壁一面の大きな本棚…ここにあるのは私が知らない頃の星の歴史ばかりで、見ているだけでもちょっと面白いかもしれない。
「ここならきっと寝ててもバレない自信ある!」
部屋の奥に進み、大きな暖炉を見つけた。お城の能力で天候も気温も一定に保たれているのに、どうしてこんな物があるのかとても不思議だ。きっと何百年単位とかで薪なんて燃やしていない、とても綺麗な暖炉だ。
この部屋も倉庫的な場所のはずなのにホコリ1つ無いだろうと思わせてくれる。
「ふぁ…今日こそは寝てやるんだから!」
まるで誘われるように私は大あくびをしながら、暖炉の中に潜り込んでクッションを抱き締めて眠った。
何だろう?遠くなのか近くなのか、誰かが私を呼んでいる。そして、何だか自分の体が浮いているような気さえする。
それでもこれは嫌な浮遊感じゃない…懐かしいような、無条件ですごく安心する自分がいるから。
「暖炉でなんて寝る奴があるか…手のかかる奴だな」
なぜだかすごく嬉しくて、私は夢の中で笑っていた。