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2:”値引きシール”

 


 あれはとある平日の夕方〜夜シフトに入ってた時の話です。


 私のバ先では、大体18時くらいから、肉や魚などの畜産品、豆腐や納豆、練り物などの冷蔵加工品、シュークリームなどのスイーツ、そしてお弁当類を値引きし始めます。

 大抵は、腰くらいの台車を持ってきて、その上に値引きシールなどの道具を乗せておき、値引き対象商品を見つけ次第シールを貼っていく、という形式です。


 ですが、如何せん田舎の小さなスーパー。常に人手不足状態です。

 その日は私1人で、畜産品、冷蔵品、スイーツ類の値引きを担当することになりました。

 これが結構な重労働で、冷蔵ケースに向かいながら中腰で1つ1つにシールを貼っていくという、精神的にも肉体的にも疲れが溜まる単純作業なのです。


 その日も、大体18時ごろから値引きを始めました。まずはお肉の冷蔵ケースから。夕飯の買い出しにくるお客様が入り乱れる中、私は1人で黙々とシールを貼っていきます。

 その間、シールやその他道具類を乗せている台車は私の背後に置いてあり、基本は目線が届かなくなってしまいます。


 値引きを始めて大体1時間経った頃、つまり19時前後になって、そのお客様はご来店されました。

 20代後半から30代前半くらいの夫婦、そしてその間でキャッキャと騒ぐ、4歳か5歳くらいの少女です。

 ご両親は少しラフめではあるものの普通の格好でしたが、少女の方は明らかにパジャマとわかる服装でした。おそらくはお風呂上がりで、ご両親が何か足りないもの、例えば晩酌のお供とかを買いに行こうとするも、幼い少女1人を置いていくには不安だから連れてきた、といったあたりでしょう。


 少女は店内のさまざまなものに興味を示しながら、お父さんに「あれなーにー?」「これなーにー?」と質問を投げ続けていました。お父さんも律儀に答え、お母さんはそれを見守るという、なんとも微笑ましい光景です。


 そんな幸せな家庭の姿に少しやる気をもらいつつ、再び商品に向かってシールを貼り続けていた時のことです。


「わ、シールがある!」


 私はハッとしました。

 台車の高さは少女の目線より少し高い程度。そして私は迂闊にも、台車の上にシールの台紙を広げていました。そして幸か不幸か、周囲に興味津々であった少女は、それらを見つけてしまったのです。


 値引きシールを勝手に商品に貼るのは、端的にいえば完全アウトです。それもそのはず、店側からしたら、不当に損害を被るようなものですから。


 これはまずい、早く少女の目線から離さなければ。

 私は慌てて振り向きました。

 これは完全に私の落ち度。少女に何か良くないことが起こる前に……!


 結果として、恐れていたことは起こりませんでした。すぐ近くにいたお父さんが、「これは触っちゃダメだよ」と、少女を抱え上げていたのです。

 私はホッとして、一言謝りながらシールを整理しました。するとすぐ横から、


「これなーに?」


 少女が興味を持つのは当然でしょう。店員がたくさんシールを持っていたら、気になるに違いありません。

 お父さんは「迷惑かけちゃダメでしょう」と、少女を連れていこうとします。

 が、私はなんとなく、少女の問いに答えてみたくなりました。


「これはね、もうちょっとで悪くなっちゃう食べ物に貼って、安くするシールなんだよ」


 シールを見せながら少女に答えると、少女は目をまんまると見開き、一拍ののちに、


「へー!! そうなんだ!!」


 と、満面の笑みを浮かべました。


 少女はすぐにご両親に連れて行かれましたが、店内には少女の楽しげな声が、心地よく響いていました。



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