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異世界にも社会不適合者

深夜3時、とあるバーにて


ねえマスター。

どうしてもボクを雇ってくれないかな


カウンター席に座るフード姿の少女は眼前の男に語り掛ける。


「何度も言ってるだろシズク。

子供は雇えないんだよ。申し訳ないがな。

法で決まってんだ。俺を犯罪者にするつもりか?」


「その格好にくらべれば犯罪じゃないよ」


・・・眼前の男は兎耳のカチューシャをつけ

ハイレグ、蝶ネクタイ、生足に網タイツ。

いわゆるバニースーツ、とてもセクシーで魅惑な衣装である。

しかし着ているのが体毛びっしり!ガタイのいい髭面おっさんであるから

初来店した客はこのバニー男を最近王都付近であらわれたという異形の魔物と勘違いしても仕方がない。


「わが教団を愚弄するつもりかシズク!それなりに助けてもらってはいるがな、

白黒つけてやるぞ!」


彼の格好は趣味ではなく、彼が入信しているにゃんにゃん交友会といういかがわしい響きの

宗教団体における正装なのだという。

以前、にゃんにゃん交友会なのにバニースーツであるのは何故かと理由を聞いたら

突如暴れ出して服が破れ、公然猥褻で捕まりかわいそうだったのでそれはもう聞かないことにしている。


「ごめん悪かったよマスター。でも頼むよ。

もうお金がなくてこまってるんだよ。知ってるでしょボク夜行性だから昼職できないんだよ」


シズクは魔法使いであり、腕は立つのだがフクロウ族なので昼間はどうしても活動できない。

かといって最近は王都で暗殺事件や新種の魔物発生が立て続いた影響で、

夜間に活動する業者は少なく、彼女に仕事が回ってこないので貧困にあえいでいた。


「だからこうして賄いをわけてやってるじゃねえか。何の不満があるっていうんだ?」


「確かにとても、とてもありがたいんだけど、・・・もうニシンのパイはいやだよ。

30日間毎日これはきつい。」


パイ生地からニシンの頭がつきだしている。

ビジュアルも悪ければ味も残念。

こんな顛末となったニシンもかわいそうだ。


「養ってもらってるみだろうが贅沢モンが。それにこの店だって事件のせいで

経営状況はよくねぇんだ、だからムリ!」


「この店に関していえば客足は変わってないように見えるけどね・・・」


客が減った様子はない。数は少ないけど。

そりゃあバニーおっさんとニシンのパイの出迎えじゃあ客は来ないだろう。

振り返ってざっと店内を見渡す。


今日とてチーズ牛丼をつまようじ2本でほおばるメガネ姿の少年。

ちなみにつまようじにこだわるが故、食べるのが非常に遅くいつも開店前に並び閉店時に催促してやっと帰ってゆく。

次に店内でいちゃつくおじいさんと小太りのおっさんのカップル。おっさん同士でなぜいちゃついているのかといえば

小太りのおっさんが魔術でセクシーな女性に化けており、魔法適性の無い一般大衆は気づけないから。

その他には精霊の気配もないのに壁としゃべり続けている女性など、本当、粒ぞろいの店だ。


やはり・・・やはり、変な客しかこの店にはいつかない。

自分もそうなのかと聞かれればきっとそうなのだろう。


「はぁ・・・」

思わずため息がでてしまう。しかし腹が減っては何とやら。

残りのニシンをすべて頬張りコップの水で一気に流し込む。本日のニシンパイも完食。


時計をみる。

もう4時だ。今日の朝9時までに家賃が払えなければ追いだされてしまう。

改めてサイフを開いてみた。200メダル入っている。家賃の4万メダルには到底届かない。


「ねぇマスターじゃあもう一つお願いしたいんだけど」


「無理だ。」


「まだ何も言ってないよ」


「金は貸せねえ。ウチの教義に反するからな」


やっぱりだめか。

にゃんにゃん交友会はこういったところに厳しいけど

過激組織として公安に目をつけられている訳の分からない集団だ。


「むぅ・・・」

と膨れながらサイフを閉じようとしたとき、メダルが落ちた。


チャリン、とカウンターで音を立てると、マスター横を通り過ぎ、

バックヤード近くに落ちてしまった。


そのときだった。

落としたメダルに向かって勢いよくしゅばっと影が入り込んできた。

あまりの勢いに目が追い付かなかったがやがて姿がはっきりとしてきた。

見ればこの店では初めて見るおっさんだ。

モヒカンに鼻下から顎までつながった髭。長さは短めだ。

そして見覚えのあるうさ耳カチューシャにバニースーツを着用しておりなぜか背中には唐草模様の風呂敷。

バックヤードから出てきてかつマスターとおなじバニー姿である点を鑑みるに今日から入った新人だろうか。


男はメダルを拾って立ち上がり、こちらを見るとフッとやたらやわらかく紳士的に微笑む。

そして口を開いた。


「マスター、かわいそうではありませんか。こんな小さな子を路地裏に放り捨てるおつもりですか?

最近教義に加えられたエコロジー戒律を実践し、この子の家賃程度には経費が浮いてるじゃあありませんか」


新人の癖してやたら饒舌。しかし話の分かる男だ。

語り口調も内容も紳士的で声は耳触りの良いバリトンボイス。

ダンディおじさん、略してダデおじとよばせてもらおう。


「まぁ確かに、エコロジーは盲点だった。あれを使ったらしたら今までかかってた8万メダル分の経費が浮いたがな・・・」


エコって。環境保全団体にでもなろうというのか交友会は。目的がさっぱりだが・・・。

「マスター、あれって何さ」


流石に気になる。8万メダルも浮くんだね。

ダデおじが現れてから視界の情報量が過多で軽く眩暈がする。

少し水を飲もう。


「ああ、店で提供しているドリンクはすべて高級なキレイナ川の天然水を仕入れてベースにしていたんだがな、

この店の客は大体アルコールばかりで味なんてわからないだろうから俺の小○をろ過した天然水に置き換えてみたんだ」


すぐに水を吹き出す。


「・・・?はぁ!!?これも!?」


「ああ、ドリンクといったが飲食物に使ってた天然水はすべて俺の天然水だ」


「きったな!!!!??おいマスターそれはふざけすぎだろ!!

というか魔法も使えなければおつむも残念なマスターがどうやってろ過してるんだ!!

これ臭いだけ消して成分的にはろ過できてないとかじゃないだろうね!?」


いやそもそもろ過できてればいいってもんでもないでしょ!?


「失礼な奴だなお前は!ちゃんとろ過してるよ!公友会で戒律ができると

同時に交友会推奨のろ過装置が販売されてんだ。

それを使ってキチンとろ過してるさ!ほら!!」


マスターは後ろの棚から冊子を取り出し、ボクに差し出す。

たしかににゃんにゃん交友会が代理販売しているらしい。

なんだよただの中抜き目的じゃないか!


「ってたっか!!なんだこれ9200万メダル!?うそでしょ!

だから経営不振になるんだよ!!

その癖新人なんか雇う余裕はあるっていうの!?そんな素性の知れない新人雇う前にボクを雇ってよ!」


このマスターはやはりネジが飛んでいる。

論理的思考という言葉を理解することは一生ないのだろう。


「は?新人?だれが」


一気にヒートアップしたものの、思いがけない一言により一気に冷静さを取り戻す。


「え?いや、だから、そこの、モヒカンの人」

ダデおじを指さす。


「いや、知らねえよ。シズク、お前の知り合いじゃねえのか」


・・・


マスターは唖然としているボクの顔を見て状況を飲み込んだらしい。


「貴様は何者だ!!」

打って変わって恐ろしい表情のマスター。


ダデおじはさっきまで右手につかんでいたボクのメダルを自身の風呂敷にしまい、

おやおやばれてしまっては仕方がありませんねぇ、と柔和な表情を崩さずに再び口を開く。


「ワタシはドロボーです♥」


やっぱり泥棒だった。

まさか泥棒が唐草模様の風呂敷を持ち歩くなんてベタなことをしないであろう、

そしてこんな変な恰好のおっさんならこの店にいてもおかしくないであろうという、

イカレた判断基準に侵されて気づくのが遅れてしまった。


「なんだとこの野郎!!貴様その格好で悪事をはたらくとは!!公友会の面汚しめ!」


やはり交友会のこととなると譲れないものがあるらしい。

こういったところは癪だが尊敬してしまう。


「いえ、私は交友会の者ではありません」


「じゃあなんでそんな恰好をしてるんだ!!」


「ただの――、趣味、です♥」


「この変態が!!!」


その直後、ダデおじは魔法を使いマスターを組み伏せたのだが、

ボクが応戦、拘束しお巡りさんに引き渡した。

そして戦闘中、近隣の建物にも損傷を与えてしまったことから

バーは業務停止命令を受けた。


そうして夜は明けたのだった。

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