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第64話 ESCAPE

 それは突然だった。病院から出てホテルに向かって歩みを進めている時、後ろから何者かに襲撃を受けた。後頭部に一撃を受けて地に伏せた後の事を廬は憶えていなかった。


 目を覚ますとそこは窓一つない鉄板で敷き詰められた部屋。

 廬は椅子に座らされて、両手を後ろに組まされて手錠で繋がれていた。

 頭痛で意識を取り戻す。少し鉄錆びの臭いがする。


 そして、何よりも廬の目の前には簡易椅子を並べて横になっている少女がいるのだ。アイマスクをしている少女。瑠美奈と同年齢だろうか。少女はスゥスゥとこんな仄暗い部屋でも気持ち良さそうに眠っている。

 少女はどれだけ物音を立てても起きる気配がない。

 がたがたと椅子を揺らしているとバランスを崩し床に顔を叩きつけてしまう。痛みで呻くとその音が外まで聞こえたのか扉が開かれる。


「なにしてるんだよぉ?」


 出て来たのは景光で不思議そうな顔をしている。

 景光が背後から廬を襲撃したのかと廬は警戒してきつく睨みつけるが、相手は気にした様子もなく平然と寝ている少女に近づいて「起きろよぉ」と言うがやはり少女は目を覚まさない。


「どうして俺を此処に連れて来た」

「横向きで言われても少しダサいなぁ。俺はただ連れて来いって言われたから連れて来ただけだし、俺を責めるなよなぁ。だりぃから」

「誰が俺を此処に連れて来いって言ったんだ」

「え? 嫌だよ。それは言われてない」


 もし勝手にその事を言って怒られたら堪ったものじゃないと景光は保身を優先させ廬の質問に答えなかった。


「俺が此処に来たのは、この子を起こす為だからぁ」

「その子は……。攫ったのか」

「ただの旧生物を攫って何の意味があるんだよぉ。この子は俺の相棒だぜぇ」

「相棒?」


 言っている意味が分からず首を傾げようにも身体が倒れている為、どうする事も出来ない。身動きが取れないのだ。景光の言い分を受け入れるしかない。


「俺は説明下手だからさぁ。てか、説明する義務って生じてないわけだし」


 景光は寝ている少女を背負って部屋から出て行こうとする。


「ちょっと待て! 俺はどうなるんだ!」

「少し頭を冷やしてくれる? 俺と話をしても血の気が多くて勘弁してほしいよぉ」


 よいしょっと言って少女を抱き上げて「またね~」とのんびりとした口調で部屋を出て行った。



 それから何時間か、横たわる廬を助けてくれる人は現れなかった。

 防音なのか、外の音が一切の音は聞こえてこない。

 何時間と言ったが本当はそれ程経過していないのかもしれない。

 天井から水滴が落ちて来るわけでもない。新生物なら廬を拷問でもかけて瑠美奈の情報を吐き出させる事だって出来るはずだと言うのに、それをしないのはどうしてなのか。

 瑠美奈はどうなっただろうか。儡がやってくれているだろうか。さとるは情報を掴んでいるだろうか。


 廬を誘拐する事に相手にどれ程の利益がある。何も出来ない廬に何を求めるのか。


「くそっ……」


 そう吐き出しても何か変わるわけもない。


「そんな険しい顔をしても何も変わりっこにゃい」


 突如として聞こえた声。一体何処から聞こえて来るのか。

 見回す事も出来ないでいると椅子がひとりでに起き上がり廬は正しく座る事が出来た。


「誰だっ」

「生憎、今のオレをオマエに見せる事は出来にゃい。にゃけど、オマエを解放してやることは出来る」


 少し高い男の声は廬の解放を提供する。廬が返事をする前に手錠が勝手に外れる。手首を摩りながら立ち上がる。凝った身体を伸ばし改めて周囲を見回すと空中にアンティークのような鍵が浮かんでいた。


「コイツで扉は開くはずだにゃ。鍵を変えるほど賢い奴らでもにゃい」

「……お前は誰なんだ」

「オレはびょう。何処にもいないお猫様だにゃあ」


 ふんふんっと鼻歌が聞こえるがやはり姿は見えない。

 自由を手に入れた事で部屋を出る事が出来る。他の情報を得る事が出来ると「助けてくれてありがとう」と相手の意がどうあれずっとあのままでは何も得られないと感謝を告げて扉に近づいた。


「本当に外に出ちゃって平気かにゃ~?」

「どう言う事だ」

「尻尾を巻いて逃げて来ない事を祈るにゃ~」


 さらりと横髪が揺れた。風など吹くはずがない。奇妙な感覚に廬は顔を顰めた。



 扉の鍵穴に鍵を差し込むと呆気なく抵抗もなく嵌り回すとかちゃりと施錠が解除された。堅牢な扉とも言えない扉を開く。


 上に続く階段が廬を待ち構えていた。

 石の壁に手をつきながら確実に上に上る。

 階段を上り終えて扉を開く。視界に広がるのはガラス窓。そこから差し込む眩しい光は仄暗い部屋にずっといた廬の目を刺激する。眩しさに咄嗟に手を目もとにやり影を作る。


 窓の外は高層ビルが見える。そのビルの中には見たことがあるものもあった。

 そのお陰で此処がまだ筥宮だと分かった。筥宮の外に連れ出されているわけではない。筥宮に新生物の基地があったのだ。


 それもこんな近くに……。


 灰色の絨毯の敷かれた廊下は誰も歩いていない。

 殺風景で人がどこかの部屋で作業しているとも思えない。廬以外いない。

 先ほどの声も聞こえてない。


 とりあえず、この場所から出なければと廬は歩き出す。地上に向かう為、エレベーターでも階段でも見つけなければとがむしゃらに歩き出す。


 ビルの中は時々事務所のような会議室のような部屋が点々とある。誰もいないパソコンが並べられた部屋もあれば、ホワイトボードと棚が置かれた小さな会議室もある。一般的に会社と呼ばれた場所だ。事実、このビルだって何かの企業ビルのはずだ。それなのに作業している人は誰もいない。休日なのだろうかと思考を巡らせながら道を行く。


 階段もエレベーターも見つからない。グルグルと似たような部屋の前を歩いているような気がする。

 仕方なく一つの部屋に入る。パソコンが並べられた作業室。一台が起動していた。


『A型新生物リスト』


 新生物のリストが展開していた。

 生きている者には『〇』所在不明には『△』死亡確定している者には『×』と印がつけられている。

 見た事のある名前もあれば、知らないまま死んでしまっている新生物もいる。

 きっと生きている新生物は鬼殻の手から逃れたか、景光のように遠征に行っていたのだろう。そして、今、何者かの支配下にある。


「0?」


 リストの一番上には『A型0号』と言う文字が合った。

 プロトタイプのさらにプロトとでも言うのか。

 所在不明の『△』が記されていた。生きているかどうかも分からないようだ。

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