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第51話 ESCAPE

 ホテルにて。

 廬と儡、瑠美奈はホテルでのんびりと過ごしていた。朝早くから出て行った憐たちと違い予定がない。ゲームルームにあるクレーンゲームの景品が補充されるまで行く予定もなかった。土産を探しに行くにしても、もう十分買っている為、余り無駄使いしても華之からクレームが着そうだと控える事にした。


 テレビを眺める瑠美奈と儡。のんびりと平和な時間を堪能していると電話が鳴った。

 フロントからで「糸識様へお届け物を預かっております」という事らしい。

 スイートルームまで持ってきてもらうように伝えるとすぐにスタッフがそこそこのサイズの段ボールを抱えてやって来た。重量はそれ程でもないが取り扱い注意や割れ物注意のステッカーが貼られている。

 貴重品が廬宛に送られて来たのだ。それも廬が此処にいる事を知っている人物など数える程度しかいない。

 そしてその差出人は「鬼頭華之」と拙い文字だが読めないことはなかった。

 研究所から何やら届けられたと考えて間違いない。


 スタッフにお礼を言って段ボールを部屋に入れると儡は「随分と大きな荷物だね」と不思議そうに呟いた。


「所長から届け物らしい」

「せんせい?」


 瑠美奈はなんだろうと廬の持っている段ボールを眺めて「これ、せんせいのもじじゃないよ」と控えに書かれた文字を見てとんでもない事を言う。

 じゃあ一体誰から送られて来たものなのか警戒するが瑠美奈は「だいじょうぶ、きけんぶつじゃないよ」と言う。まるで中身を分かっているかのようにだ。


「匂いがしないからね」


 廬の心配を読み取ったように儡が言った。危険な匂い、火薬の臭いも鉄の匂いもしない。無臭。しいて言えば段ボールの匂いと発泡スチロールの匂いだろうと言った。寧ろそこまで分かるのなら段ボールの中の物も言い当てて欲しい物だと廬はガムテープを剥がして中を確認する。


 慎重に段ボールを開くとそこからは半透明な物体が廬の顔面に跳んできた。

 ひんやりと冷たい何かが廬の顔面に留まっている。

 息苦しさを感じた廬は顔に手を伸ばしてその物体を掴んだ。不安定で掴んだ感覚がしているのかしていないのか。だが確かにそこにナニかあるのは明白だ。

 引き剥がずと「びぃ~」と音が聞こえた。


「イム」


 瑠美奈がキラキラとした瞳でその物体、イムに手を伸ばした。

 どうやら段ボールの中に入っていたのはイムだったようで。そう言えば、暫く家を空けるのならと研究所に預けていたのを思い出す。

 しかしどうやって此処にやって来たのか不思議でならない。そして、その疑問を儡が再び答えた。


「イムは文字くらいは出来るよ。流石に達筆とは行かないけどね。小学生程の文字ならお手の物。いや、小学生と言うより蛇みたいにうねる何かかな?」

「まさか、一人いや、一匹? 一体か。なんだって良いが。イムは、たった一人で郵便伝票を書いたって言うのか? 誰が送ったんだ?」

「それは簡単だよ。研究所で定期的に手紙をやり取りしている人がいるだろう?」

「海良か」


 海良が手紙と一緒に出した。もしもイムのしている事を監視カメラ越しに見ていて手紙と一緒に配達員に渡していたとしたら廬のもとに届くのも頷ける。もう既に土産は届いている頃だ。ホテルとそのホテルに泊まっている廬の文字を下手くそにも書き綴って送った。もしも失敗したら……とは考えないのだろうか。


「びぃびぃ! びぎゃー!!」


 イムは何かを訴えている。一体なんだと言うのか、流石に文字は書けても言葉は理解出来ない。寧ろ文字を書いてくれた方が意思疎通が出来るが「イムが一日に書ける文字は十三文字までだよ」と訳の分からない事を言う儡。


「おこってる」

「置いて行ったのを怒ってるのか?」

「びぃ!」

「そうみたいだね。イムも旅行を楽しみにしていたのかな」

「そんな事言われてもな」


 イムを外に連れて行くのは難しい、御代志町でさえ人通りが少ない夜に散歩をすると言うのに都会に来たら夜になっても人は行き交っている。絶対に見つからないなんて保証はない。

 イムは「びぃびぃ」と不服そうに胴体を膨らませている。


「まあ来てくれて良かったんじゃない? 丁度退屈していた頃だしね」


 退屈している頃にイムが着て丁度いいなんて言う儡はイムを持ち上げると「あれ? 少し太った?」と笑ったら「びぎゃ!」とイムぱんちを喰らっている。手と言える部位はどこなのか。いまだに分からない。体当たりなのかもしれないが雰囲気的にぱんちだ。


「憐が来たらまた遊ぼうか」

「いつかえってくる?」

「さあね。まだ帰ってこないんじゃないかな?」

「……」


 瑠美奈は早く憐にイムのことを知らせたいのかウズウズしている。


「迎えに行くか?」

「イムはどうするだい?」

「……どうするか」

「びぃ!!」


 付いて行く! と言った雰囲気を出すイムに廬はどうするかと考えたあとハッと思いついたのか「待っててくれ」と部屋を出ていった。

 儡と瑠美奈は首を傾げて顔を見合わせる。

 暫くして廬はリュックサックを持ってきた。ホテルに売られている青いロゴ入りのリュックサックだ。


「イム、これに入れ」

「びぃ?」

「この中なら人に見られないはずだ。人がいないところで出してやれる」


 最善策だと言いたげにイムをリュックサックに入れようとする。


「イム虐にならない?」

「びぎゃ!」

「この策が嫌ならホテルで待機になるが?」

「びぃ!?」


 折角来たのにまた留守番になるなんて嫌だとイムは大人しくリュックサックにすっぽりと収まる。


「儡はどうするんだ?」

「僕だけホテルに残されてもね。行くよ」

「さんにんで憐と真弥むかえにいこう」


 瑠美奈は嬉しそうに廬と儡の手を握った。




 真弥と憐が二人で出かけた先は儡が聞いていた為、迷うことがなかった。

 瑠美奈が動く歩道に感動している。今まで普通の歩道しか歩いていなかったが憐たちがいるゲームセンターに行く為にその道が合ったため使っている。エスカレーターとは違い何とも言えない不安定さを感じながらふらふらと移動通路に立っていた。


「なんでもかんでも楽しちゃうのが人間の業って奴なのかな?」

「便利が罪なんて思わないけどな。便利って言うのは発展、進化、成長の証だ。子供が立って歩くことと何も違いなんてないんじゃないのか?」

「物は言いようだね」


 技術の発展。褒められるべきだ。人間の怠惰と言うよりそれを見出した人を讃えるべきだ。科学者が苦労したから楽が出来ているのだ。苦労したのだから後から楽が出来るのは良い事だと廬は儡に言うが「僕は楽がしたいわけじゃないけどね」と苦労する事を選ぶ。


「僕は誰かの為に役に立つのが好きなんだよ」

「それが黒い宝玉を持っていた奴の台詞だと思うとゾッとするな」

「もう悪い事はしないよ」


 両手を上げて降参の意を見せる儡。黒の宝玉を手にしていた頃の記憶は残っているらしく、その方法もまた合理的であることは分かっていた為、自分の行いを否定しなかった。その方法も一つの策だ。瑠美奈を死なせない為の方法。


 その策は一つとして考えているが、最後まで瑠美奈が全ての宝玉を回収したのちの生命線を強固にするために策を考える。


「だいじょうぶだよ。わたしがしんでも、やくさいもきえてばんばんざい!」

「だから、それがダメなんだって瑠美奈。僕は君が消える事を許していないからね」

「その話はまた後でな」


 瑠美奈が消える消えないの話は長丁場になるのは目に見えている。まだ道筋は見つけていないのだから、まだ何を言っても希望的観測にしかならない。瑠美奈が完全に制するなんて事は不可能で気に病む事ばかりだが、今はそんなマイナスな事は忘れて旅行を楽しもうとゲームセンター前に到着するや廬が話題を変える。


 ゲームセンター内に入るとやはり騒音が耳に響いて若干身体に悪い感覚だと廬は顔を顰めながら憐たちを探す。

 二階三階と続く大型のゲームセンターなだけあり、かなり時間を有すると廬は首を左右に振りながら真弥に肩車されているであろう若者を探しているとクレーンゲームに現を抜かそうとする儡を引っ張り憐を探す瑠美奈を見かける。

 景品が取れた時の達成感や嬉しさを覚えてしまってはもう儡はクレーンゲーマーと名乗っていいだろう。


「一回やらせて!」

「……いっかいだけだよ」

「うんっ! ありがとう!」


 ゲームカードを翳してプレイを開始する。儡のカードは憐よりも多くクレジットが入れられている。何故なら残高の減りが速いからだ。

 景品を掴んでは落として掴んでは落としてを繰り返して残高がどんどんと減っていく。そんな儡が今回標的にしたのは懐中時計だ。

 どこかのアニメとのコラボ景品らしい王冠とハートがデザインがされている懐中時計が可愛らしいと儡は標的にした。

 懐中時計の入った箱を取ってしまうと落下した際に故障してしまう為、専用の景品交換用の板を落とす事で懐中時計と交換できる。


「憐を見つけたら教えてよ。僕はここで時計を取ってるからさ」

「人任せだな」

「君だけで問題ないでしょう?」


 儡はこのままクレーンゲームに張り付いているようで憐を探す事を諦めていた。

 呆れた瑠美奈と一緒に儡と真弥を探すのを再開する。

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