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第5話 ESCAPE

 正体不明の軟体動物、イム。瑠美奈曰く何処からともなくと現れた生物で雑食だが瑠美奈を傷つけたことはない。危険な目に遭えば助けてくれたこともあるという。会話は出来ないが、イムはこちらの言っている事を理解しているように思える。知性があると断言しても良い。


 チョコを食べれば茶色に、リンゴを食べると赤色に、その外見色に合わせてイムは色を変えた。まるでカメレオンだ。ぶどうを食べさせたら紫色になった。

 半透明だが、食べたものが見えるわけでもない。イムは排泄の心配もなかった。手間のかからないペットで言えば上位に来るほどには賢い生き物だ。

 問題なのは正体不明という部分にある。


 泳ぐことは出来るが魚ではない。飛べないから鳥でもない。だが跳躍力は良い。石塀を跳び越えることは容易に出来てしまうがネコ科という訳でもないだろう。色を変える点を追及してカメレオンの突然変異と言ってもサッカーボールほどの大きさをしているイムがカメレオンと言うには無理がある。それにイムには皮膚と言える部分がない。膜のようなものがあり内側のほとんどが水分だと予想出来る。しかしながら体内に摂取する事は見えず排泄もしないと来た。ますます分からない。

 重さもバラバラだ。例えば瑠美奈の頭にいるときはイムはぬいぐるみ程の軽さをしている。瑠美奈の負担にならないようにだ。真弥が持ち上げると大岩を持っているような重さだと言われた。肩が外れてしまう程には重たい。


「びゅ……」


 イムが廬をじっと見つめている。深い思考の海から脱した廬は我に返り「どうした?」とイムに尋ねるも興味が失せたのか瑠美奈の方に行ってしまう。飛び跳ねたり身を引きづるように左右に揺れて移動するイム。


 イムのことはどれだけ考えても分からないと廬は思考を辞めて座っていたソファから立ち上がりテレビを見ている瑠美奈に言う。


「買い出しに行って来る。何か欲しいものはあるか?」

「ない。きをつけてね?」


 瑠美奈との生活も今日で3日目になる。真弥からお勧めのホームセンターを教えてもらい家具を粗方揃えた。テレビ契約をして瑠美奈にテレビを見せていたら退屈しないだろう。

 イムも不満気な様子はない為、静かに暮らせている。

 久しぶりの長期休暇に満足しながら新しい家族が増えて心細かった田舎暮らしも順風満帆だった。

 交通機関が少し不便だが、車をいつか買えば良いだろうと今は徒歩で駅近くのスーパーで済ませている。

 駅までは徒歩25分程、そこから5分でスーパーにつく。つまりアパートからは往復1時間だ。


 のんびりと田舎の空気を堪能しながら道を歩いていると正面から金髪の青年が歩いて来た。このまま歩いてはぶつかってしまうだろうと狭い道で何とか避けようとしたがぶつかるなと思って矢先、すり抜けた。


「え?」


 咄嗟に出た言葉に振り返れば青年は気にした様子もなく歩いて行ってしまう。勘違いだったのかもしれない。ちゃんと避けられたのだろうと自己完結するが何処か釈然としないまま廬はスーパーに行く為に歩みを進めたが「なんで生きてるんすかね?」と声が聞こえ振り返れば目の前に見えた橙色。


「わっ!?」


 驚いて後退るが足がもつれて尻もちをついた。

 暗い橙色が見下ろす。


「あんた、何者っすか?」


 はねた髪が揺れる。どう言う意味なのか分からず困惑している廬を余所に「なんで」と疑問を投げかけて来る青年。


「君は誰なんだ」

「はっ! 誰が旧生物に教えるんすか? 確かめた時、確かにあんたは息をしていなかった。それなのにどうして今俺の前にいるんすか」

「一体何のことだ。何を言ってる」


 疑問が頭に満ちる。初対面のはずだ。それなのに一体何を言っているんだと廬は混乱する。


「……まあもう一度、殺せば分かるか」


 青年は溜息を吐いてこちらに手をかざした瞬間、廬は呼吸が出来なくなった。息苦しく首を絞め付けられている感覚に地に手をついて苦しさに身悶える。


「ほら、あの時みたいに俺を弾き飛ばしてみたらどうっすか?」

「な、んの……ことだ!」

「とぼけるのはなしっすよ。あんたが誰だろうと外から来て俺たちを消しに来た諜報員って言うのはわかってるんすから」


 一体何の話なのか皆目見当が付かない。


「外部調査とかうんざりだったんすけど、あんただけなら簡単に始末出来る」


 相手はきっととんでもない勘違いをしている。廬は別に外部調査の為に来たわけじゃない。何の変哲もない一般人だ。

 諜報員だとか外部調査だとか大それたことをしに来たわけじゃない。

 息苦しさにもう視界がぼやけ意識が遠退いた瞬間だった。青年が「そっちにつくんすか」と誰かと対話している声を最後に廬は完全に気を失った。


 廬はただ買い出しに出ていただけだ。それなのにちょっと異動先の怪談一つを解決した瞬間に命を狙われるなんて事が合っていいはずがない。



 糸識廬、27歳。女の子を拾った。女の子を養子にした。

 女の子は幽霊と呼ばれていた。夜道を徘徊する幽霊騒動の根源だったからだ。

 都会から出て来た廬にとって女の子は心強い存在だった。

 友人が出来た。この歳となって交流関係が築けたことはとても喜ばしいと思う。

 そして、数日が経過して命を狙われた。多分、勘違いだ。


 ――俺は何も知らない。




 目が覚めた時、空は紫色をしていた。遠くで水音が聞こえる。

 買い出しの時はまだ橙色をしていた。1時間、2時間それくらい経過したのだろう。だがどうして空が見えるのか分からない。少し視界を横に移してみると見慣れた黒が見えた。


「廬、だいじょうぶ?」

「瑠美奈? ……瑠美奈っ!?」


 ばっと起き上がると頭痛が廬を襲った。一体何がどうなっているのか。廬は先ほどあった事を思い出した。見知らぬ青年に殺されかけた。そして、意識を失った。

 瑠美奈がどうして此処にいるのか分からず混乱していると「真弥さんがおしえてくれの」といった。


「そっ! 真弥さんが教えてくれたよな」


 瑠美奈とは別の方から聞こえて来た男性の声、振り向けば真弥がのんびりと缶珈琲を飲んでいた。駅前噴水のベンチで瑠美奈に膝枕されていたのを真弥は黙ってみていた事に気が付きこの年になり恥ずかしいと廬は赤面しながら顔を背けた。


「貧血で倒れたんだぜ。大丈夫か?」

「貧血?」

「アパートから田んぼ道に行く道中で倒れてた」


「大丈夫かぁ?」と真弥は心配そうな顔をしてこちらを見ている。


「知らない男に襲われた」


 素直に言うと「え?」と真弥はまっとうな反応をする。

 恨みを買うようなことはしていないし、此処にして交友関係はまだ真弥と瑠美奈だと言うのに廬に敵意を見せる青年。


「特徴は?」

「金髪で……目が橙色を出していたな。あとは耳に幾つもピアスをしていた。近所のヤンキーか?」


 だとしてもおやじ狩りを日中にするかと首を傾げる。財布は無事な為、金目的で襲ったわけじゃない。

 寧ろ外部調査とか言う調査員を嫌っている様子で外から来た廬を警戒して勘違いしたのだろう。ここ数日廬以外新入りが御代志町に来ていないから確定されてしまった。だが何処を調査する為なのか。調査されてはまずいから殺すほどの事を、何よりもその青年は「殺せば分かる」と言っていた。つまり既に廬とは別の人物が殺されている可能性がある。

 

 真弥は「ヤンキーかぁ」と廬の言う容姿を記憶の中の学生たちから照らし合わせているが該当する人物は見つけられない。


「相手からしたら俺は死んでいる事になっていたらしい」

「穏やかじゃないな」


 真弥も流石に穏やかじゃない話に顔を顰める。

 警察に言ってもきっとヤンキーの悪戯と言われて相手にしてくれないだろう。


「写真もないんだ。金髪でピアスをしている男なんて町の中に幾らでもいるだろ? 取り合ってはくれない」


 警察は相手にしない。


「廬はわたしがまもる」

「おっ! 可愛い護衛だ」

「茶化すな。瑠美奈、俺は大丈夫だ。自分の身は自分で守る」

「守れてないから殺されかけてるんだぜ。……でも、本当に最近この町が可笑しいのは事実だ」

「可笑しい?」


 真弥は言いずらそうな顔をした。


「この町の悪い所が出てきちゃってるんだよ」

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