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第47話 ESCAPE

 それから何もない平穏な日々が続いてDHR大会当日となった。

 憐と付き添いで真弥が関係者入り口に入っていく。廬たちはそのまま観客席の方に向かう。


「いやあ! よく来てくれました! 稲荷君っ」

「どーも」


 主催者が憐たちを見て手放しで喜んでくれるのを悪い気はしなかったが素っ気なく返事をする。

 暇つぶしだとそっぽ向いた時、その視線の先ではヘッドフォンをした女性がDHRをやっていた。

 ヘッドフォンをしていたら音が聞こえないのではと憐はその女性を凝視する。


「……譜面全部覚えてるんすか?」

「……」


 憐はその女性に近づいて尋ねるがヘッドフォンで何も聞こえていないようで踊り続けている。準備運動も本気でやっていると言うのか。憐は返事どころかこちらに一瞥もくれない相手に不機嫌になりながら言う。


「そんな力入れてたら疲れちゃうっすよー」


 それでも女性はこちらを振り向かなかった。

 相手にしてられないと憐は両手を上げて踵を返すと「さっきからなに?」と声を掛けられる。


「聞こえてんなら初めから返事しろ」

「ゲーム中に声を掛ける方が悪い。それで、何か用?」

「べっつにー。こんな所で本気だしたら失敗するんじゃないんすかーって心配してやったんすよ」

「本気? あんたはこのくらいで本気だと思ったの? それならあんたは素人ね」

「は?」


 DHRから降りて憐と対面する。憐より少しだけ背が低いが、どこか彼女の方が威圧的だった。


「あんたの事は知ってるよ。主催者の目を誑かしたんでしょう?」

「誑かしてなんかねえっすよ。なに意味変わんねえこと言ってんすか」


 化かしていることは事実だが、ゲームの上手さは実力である。


「あたしは魔術師。嘘は簡単に見抜けるのよ」

「はぁ?」

「冗談だよ。狐君」

「さっきからあんた何なんすか」


 不可解な言葉が聞こえる。憐は不機嫌な顔を隠しもせずに女性を睨みつけた。

 その不快さを感じ取ったのか「気に入らないなら大会で勝てば?」と挑発する。

 癇に障る物言いをする女性に憐は絶対に泣かすと決めた。




 派手な演出。派手な音楽。目が痛くなるスポットライト。

 大会が開始されたのは、憐が苛立った五分後。

 司会者が参加や観客を盛り上げる粋なトークをする。


 トーナメント式で既に各地で予選が行われていた。

 筥宮でも各ゲームセンターでDHRプレイヤーもスカウトされていた。多くの出場者が脱落していく中、憐と例の女性は難なく決勝に勝ち進んでいく。

 遠くからやって来た参加者は悔しいと口々に言いながらも最後を見届ける為にバックステージに控えていた。


 ステージに用意されたDHRが二機。ワイヤレスのヘッドフォンをして踊る舞台。


「さあ! 盛り上がりも最高潮!! それではいって参りましょう! まずはこの方!! 大会初の女性プレイヤー! プレイヤーネームミライさんです!」


 憐を挑発した女性が会場袖から出て来る。司会者を握手を交わして笑顔を浮かべる。


「続いてこの方! プロと思わせるほどの軽やかで無駄のない動きを魅せてくれる男性プレイヤー! プレイヤーネームB22さん!」


 憐が舞台に上がる。ミライと向き合い握手を交わす。


「ズルして勝っても楽しくないんじゃない?」

「此処にいる俺も本物なんすよ。ばーか」


 なんて言って二人は各々の機体に向かう。

 指定された高難易度の楽曲を選び準備をする。


「それでは参りましょう! 『NoMonster』です!」


 前奏からリズムノーツが鬼のように流れる譜面。それを覚えるなんて不可能でクリアさせるつもりがないと噂されている。憐はこのゲームをそれ程やって来たわけじゃない。この一週間は度々機体を見つければやるくらいの頻度だ。先ほどミライがやっていたようにヘッドフォンを付けたまま踊ってもいない。



 観客席にいた儡と瑠美奈はミライを見て首を傾げる。

 彼女から異様な気配を感じるのだ。一体何の気配なのか分からず凝視する。

 大型モニターに表示されるゲーム画面は接戦だ。



『NoMonster』はこの大会の為に作曲されたものであり、人魚姫ですら歌う事の出来ない歌詞で作られている。どれだけ速いのかと言われるほどの曲である。

 そんな物を憐とミライは踊り続けている。約三分の曲が酷く長く感じた。

 

 フィニッシュを決める二人の足音が会場に響いた。

 この時のために用意されたスコアボードがルーレットの如くデタラメに動いている。


「さあ! 両者踊り終え、ただいま採点中でございます! 果たして誰が勝利の王冠を手にするのでしょうか!!」


 派手なマイクを片手に言う司会者。採点中の間、その場を繋いでいる。



 ステージ裏で憐は水を飲んでいた。力を長時間使う事には慣れている為、疲れはそれ程きていないが流石に休憩しないとこの先必要な時に力を使えなくなってしまうと危惧していた。


「ナイスファイト」

「……どーも。そーいえば、イカサマしてるのバレバレっすよ」


 ミライがペットボトルの水を持って言うのを憐は皮肉交じりに言うと「イカサマ? まさか」とあらぬ疑いを掛けられたと言うのに怒る事もしなかった。

 スタッフが少ない今、何を言っても彼らには聞こえないのを憐は一瞥して確認する。


「この世には魔法の玉がある。あんたそれを持ってるんすよね?」

「魔法の玉? さあね。知らないな」

「とぼけるのはなしっすよ。俺はそう言う系の専門家なんで」


 ミライは宝玉を持っている。それに気が付いたのは握手を交えた時、ミライから伝わる新生物なら分かる宝玉の特殊な力。不思議なのはミライは見るからに普通の人間だ。宝玉なんて持つことが出来ないはずだと言うのに生きて歩いている。挙句にこうして人の前に立ってDHRをプレイ出来ているのが前代未聞だった。


「この勝負は俺の負けっすよ。あんたの事が気になり過ぎて足に力なんて入るわけがねえっすから」

「なにそれ、告白のつもり?」

「まさか! 俺には心に決めたお嬢がいるんで得たいのしれない女なんて御免っすよ。興味があんのは、その玉っころ」


 疑う視線。何処に宝玉を隠し持っているのか。

 どうやって生き繋いでいるのか。

 宝玉が使えれば高難易度の曲だって容易にクリアできるだろう。

 そんなしょうもない事に宝玉を使っているのなら別にミライには必要ない。


「勘違いしないで欲しいんだけど、あたし。別にコレを使って突破したわけじゃないんだけど」


 実力でここまで来たのだ。男性プレイヤーが多い中で唯一女性のプレイヤーとして声を掛けられて練習を繰り返した。その結果もまた報われた。頑張って決勝まで来たのに言い掛かりだとミライはその事で怒る。


「だからなんだって言うんすか。所詮はゲーム、システムとパターンを理解したら簡単にクリアできることじゃないっすか。そんな事も出来ないんすか? つーかそんな事で熱くなられても困るんすけど、暇つぶしに来ただけっすよ俺はね」

「この大会で生活をかけた人だっているのよ。あんた、これが遊びだって? ゲームシステムを熟知したつもり?」

「決勝以外の曲は、俺がこのゲームを始めてやった時にプレイした曲ばっかすよ。野次馬が喧しかったっすけど、まあ簡単に譜面は憶える事が出来た」


 今回は偶然譜面を覚えていたからミライが宝玉を持っているかどうかを考える時間が出来た。もしも知らない曲だったら最悪、ミスを連発して恥を掻いていたに違いない。

 儡と瑠美奈の前に姿を見せるなんて事出来ず紙袋を被る羽目になるところだったが状況は良好。そんな始末にならなくて済んだと内心安堵もしている。


 ミライは信じられないと憐を睨みつけて「玉とか言ったわね」と言葉を続ける。


「何だか知らないけど、あたしに勝てたらあげるわよ」

「後出しじゃんけんも甚だしいっすよ。どう考えてもあんたの勝ちは決まってる」

「そう。だったら渡さない」

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