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第42話 ESCAPE

 翌日、商業施設に来るとアミューズメントコーナーを見つけた憐は目を輝かせていた。特にガンゲームに夢中になっていた。だが生憎と床に立てない所為で真弥が苦労していた。


「ヒューッ! 最高っすね!!」

「憐、重いっ。あんまり動かないでくれると嬉しいんだけど」

「ヒヒっ。じょーだんっ! こんな面白い事を微動だにしないってムリゲーっすよ!」


 真弥の身体が粉砕しない事を祈る廬だった。膝をついて銃型のコントローラーセンサーが反映できる高さにしている真弥の腕も腰も震えている。


(もうある種の罰ゲームだな)


 廬は一方でクレーンゲームに興じているモノクロの二人に視線を向ける。

 ダチョウのぬいぐるみが景品になっている台を前に何やら行き詰っているらしい。


「このアームのゲーム難しいね。この景品はお金を払って買えないのかな」


(金を払ってまで欲しいのか?)


 ダチョウのぬいぐるみがそれ程可愛いと言える外見をしていない。

 デフォルメもされていないダチョウだ。かと言ってリアリティを追及しているわけでもないが、他にも景品は多くあるのに何故あえてそれを選んだのか廬は首を傾げる。


「こういう所で手に入れるからこそ価値があるんだ。それにクレーンゲームは取れるかどうかの高揚感を楽しむもので景品は二の次。取れたらラッキーくらいに思った方が良い。勿論、上手い奴はいるがそれだってやり方を熟知しているからで過去に万単位かけている人だ。今回初めてやったお前たちが簡単に景品を取れていたら、元が取れなくて破産だ。クレーンゲーム泣かしになる」

「ふむっ。わざとアームの強度を下げて景品を取らせないようにしているんだね。それはつまり僕たちが幾ら費やしたところで景品なんて取れるわけがない。これは立派な詐欺じゃないかな?」

「そう言うゲームだ。欲しくなるから回数を重ねて、景品を少しずつズラして獲得する。それがこのゲームの戦略。詐欺じゃない」


 それにそれ程までしてダチョウが欲しいのかと尋ねれば「記念に?」と曖昧な返答が来る。他にもお菓子のタワーを崩して獲得をするタイプもある。


「記念が欲しいならお前ら二人でプリントシールでも作ってみたらどうだ?」

「なにそれ?」


 廬は二人を連れてプリントシールが作れる機械のもとへ行く。

 白とピンクを基調とした女性が多く集まりそうな外装をしている。


「写真を撮って、あとからイラストや文字を描いて飾れるんだ。若い子は写真を残すのが好きだと思う」

「近くにいて欲しいな。ちょっとこういうのは本当に慣れてないから」

「ああ、すぐ近くにいる」


 近くにプリントシールをカットするように鋏が用意されている為、そこの椅子で待っている。


『ポーズを決めてね!』


 そんな機械音が聞こえる。「あ、えっと」「これで良いのかな」と二人の戸惑う声が聞こえて何処か年相応の事をしていると微笑ましく思う。


『はい! チーズっ!』


 その声と共に仕切りの向こうがフラッシュで光り『次のポーズ!』と忙しなく続いている。


『最後になるよー! 最高のポーズを決めよう!』

「廬」


 仕切りの向こうから瑠美奈が顔を覗かせて手招きをしている。

 残り一回写真を撮るだけだと言うのにどうしたのか、困った事が起こったのか廬は近づくと瑠美奈と儡、二人の力で仕切りの中に飲み込まれる。


 覚束ない足取りを何とかふんばり何だと言うのか「カメラ!」と瑠美奈の声に反射的に反応してカメラを見た瞬間、フラッシュが目を刺激した。


『撮影しゅーりょー! 隣のブースに移動して好き放題デコっちゃおう!?』


 廬は理解が追い付かずに疑問符が浮かび続けるのを余所に瑠美奈と儡は撮った写真を飾りに行ってしまう。タッチペンでフレームや文字を描いたりとワイワイ話している。


「はあ……無理やり引きずり込まなくても撮りたかったら言ってくれたら」

「それじゃあ詰まらないよ。いつも澄ました顔をしている君の表情が崩れているのは僕にとっても愉快でね」


 本当に楽しいのだと儡は笑顔を浮かべている。廬を驚かせたことが楽しくて瑠美奈と結託して写真に収めた。

 プリント完了すると儡は鋏で写真を分ける。その一つを廬に差し出した。

 そこには驚いた顔をしている廬と楽し気に笑っている瑠美奈と儡がいた。

『おどろかし成功ー!!』とふわふわ系のフォントを使って書かれた文字。

 プリントシール機を速攻で熟知した二人に感服する。


「なぁにしてるんすかー?」


 憐を肩車した真弥がこちらにやって来る。流石に軽いと言っても同じ体制で居続ける事に疲れた様子だ。

 廬は「お疲れ」と真弥を労わるとその横で瑠美奈と儡がプリントシールを作った事を伝える。


「えー! 俺もやりたい! お嬢と旦那の三人で撮りたいんすけどなんで俺だけのけ者にしたんすか!!」

「お前さっき他のゲームやってただろ」

「そーっすけど、写真撮れるなら俺だってちょーかっこよくお嬢たちと映れた」


 廬が映っている事が気に入らないのか「今後、旦那とお嬢と撮る」とふてくされている。


「お前、踏み台なきゃ取れないだろ」

「あんたの背中に乗るっすよ」

「俺の背骨が死ぬ!!」


 真弥と憐の言い合いも見慣れて来たと廬は笑う。その間、儡と瑠美奈は次は何をして遊ぼうかと周囲を見回している。やり方を知らないから廬に度々訊く。


「ん? なあド屑。あれなんすか?」


 プリントシールを諦めた憐が真弥の頭上で頬杖をついていた時に目に入ったもの。

 学生が踊っている。モニターにはリズムノーツが流れている。それに合わせて指定されている床を踏む単純であり運動神経がないとなかなかに難しい。憐はやってみたいようだがそもそもその床は踏むことが出来るのだろうかと廬は心配になる。


「これって重さで判定するんすか?」

「そうみたいだな」


 学生が遊び終えて離れていくのを一瞥して確認する。ちょっと足を近づけるだけで床が光り出す。憐はなにを思ったのか廬が確認したのをみて「それなら」と真弥の上から姿を消して機械の上に立った。


「だ、大丈夫なのか?」

「平気っすよ。これは俺の幻影なんで」

「じゃあ本体は?」

「天狗の上っすよ? 俺が二人いたら問題じゃないっすか」


 配慮になっているのかいないのか。結局のところ真弥に後から負担が来るのは分かり切っている事だ。

 お金を入れて起動させる。知らない曲の中から気に入った曲を選曲してスタンバイする。


『ready!』


 憐は一旦その場で跳ねる。判定がしっかりある事を確認してモニターを見た。『Go!』の合図と共にモニターからリズムノーツが流れて来る。

 憐はリズム良く床を滑るように踏む。

 そこで違和感を感じた難易度が高いのではと、選曲された横に難易度が表示されていた。


『Easy』が黄色『Hard』が赤『Expert』が紫。

 憐がやっているのは紫で上級者がやるモードだ。

 身軽に動く憐に「すげえ」と見物客が集まって来る。

 ゲーム内設定でコンボが続くと盛り上がり率上昇と特殊演出が発生してスコアが倍になる。


「流石狐だな。身軽だ」


 もっとも狐と片付けて良い物なのか複雑な所だ。ダンスゲームは三曲連続で出来る日だったらしく憐は絶好調だった。どことなく楽しそうに見えたのは見間違いだろうか。


「あの子凄いな。プロか?」

「カッコいい!」

「あれって今回の大会の課題曲じゃねえの?」


 見物客が各々口にする。隙の無い動きを見せる憐。幻影だから汗なんて一切流していない。

 パーフェクトとは行かずとも憐は見物客から拍手を得られるほどのスコアを叩き出した。それがどれ程凄い事なのか廬や真弥は分からない。だが確かにプロを言われても違和感がないほどには隙の無い切れのある動きだったと素人ながらに思った。

 ラストの曲を選んだ時、憐は人魚姫の楽曲を選択した。


(何だかんだ言っても佐那の曲が好きなんじゃないのか)


 文句ばかり言っているが佐那の事もちゃんと認めていたのだろうと廬は思いながら踊る憐を見る。


「彼、君たちの知り合いかい?」

「え? はい、そうですが」


 黒い服を着た男性が廬に声を掛けた。一体なんだろうかと頷けば「ダンスホールレヴォリューション」通称「DHR」の大会での参加者を探している最中だった。一般参加者のスカウトしているらしい。


「次の土曜日に筥宮ホールで開催されるんだ。彼ほどの実力者を私たちは見たことがない。是非参加してほしい」

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