第40話 ESCAPE
自立防衛機。それは名前の通り筥宮においての防衛機。
軽犯罪も見逃さない。いちいち警察沙汰にして面倒な事にならないようにその場で処罰される。死ぬほどの痛みではない。静電気より少しだけ高い電流が流れる。
勿論、ペースメーカーなどを身体に付けている人を探知して別の方法を即座に実行する。
憐は公共物を破損する恐れがある為に注意されたのだ。
身体が痺れて動けなくなる憐がコンクリートに倒れる寸前に真弥が抱き上げる。このまま燃えたらシャレにならない。
「なんすか。この街」
ぶつくさ言う憐を無視するように去っていく自立防衛機を睨み中指を立てるのを「やめろ」と廬が注意する。
「乗るところにも注意しないといけないか」
なにかいい策はないだろうかと考えていると「別にそんなことしなくても」と儡が口を開いた。
「君は自分の重量を軽減できるだろう?」
「そーっすけど……」
「? どう言うことだ」
儡の言っている意味がいまいち理解出来ずに尋ねる。
「彼は万物を騙す狐。身軽である事が彼の売りであり強み。だから民家や電柱の上も簡単に跳び越える事が出来る。空き缶も潰さないで乗る事が出来る」
器用な事も憐ならば容易にできる。
地を歩くことが出来ない分、自分を偽ることが出来る。後遺症と言えど解決策と言う名の妥協案が浮上する。
その人の為に用意された後遺症。
(まるで呪いだな)
憐は儡に言われて、身体の痺れが無くなったあと、しぶしぶと自身に力を付与させた。すると真弥が抱き上げていた重みが消えた。
綿のような軽さでは少し大袈裟だがそれ程まで人が必要としている重さを憐は失った。
憐は新体操のように真弥の両肩を掴んで逆立ちする。真弥は重さはなく平然としている。見世物ようなことになり「おかあさん! あのお兄ちゃん凄い!」と指を差されている。
「なに? 俺、ずっと天狗の肩にいりゃあ良いんすか?」
「そうは言ってないが……お前の力、便利だな。何でもありなのか?」
「当たり前じゃないっすか。俺は何でも騙す狐っすよ?」
片手をあげて指で狐を作る。指を動かし口部分をパクパクとする。
「まあこんな事をして咎められないって言うんなら俺は此処で見世物にでもなってやるっすよ」
「俺が嫌なんだけど……」
困った顔をして笑う真弥だが、流石に憐を置いて行く事も出来ない。
面倒を見ると言ったのだから最後まで付き合えと憐は真弥に肩車してもらった。
「成人男性が肩車とは……目が痛い」
「うっせー! ほら、さっさとホテルでも何でも行くっすよ!」
出発進行! と憐は適当に指を差して真弥に歩くことを命じる。重くは無いから良いには良いが、何とも大衆の視線がと羞恥に気持ちが持って行かれていた。
瑠美奈も面白いのかその横を歩いて行く。
「どれだけ身体を軽く出来て、どれだけ高く跳べても、憐は僕たちと同じ地は踏めない」
先を行く三人を見つめながら儡は廬に言う。
後遺症において憐が一番わかりやすい例で命の危険も近い。下手をしたら寝ている間に燃えている。命の危険を常に感じながら憐は過ごしていた。
「消えない呪い。だから後遺症か」
「呪い? ふふっ、面白い事を言うね。確かに僕たちは本来存在を許されないから此処にいる事を許してもらう為の呪いなのかもしれない。だけど不満はない」
「……受け入れているのか」
「受け入れていない。抗ってる。何か策を見出して最後まで生き繋いでやるという僕たちから世界への宣戦布告だよ」
なんて言って儡は先を行く三人に追いつくために走り出す。
どれだけ楽しそうに見えても各々持っている悩みは違い決して解決しない。
駅から五分程歩いた先にある高級ホテル。
憐は「高級がいいっす! 高級! 金ならあるんすから!」と真弥の上で成金発言している。
「俺たちの金じゃないんだし、良いんじゃないか?」
(と成金の家来が申しております。……遊ぶな俺)
滞在日数はどのくらいなのか尋ねれば「とりあえず一か月?」ととんでもない事を言った。
廬はまだしも真弥は一か月以上も休んで大丈夫なのかと尋ねれば苦笑いをして「いや実はさ」と話し始める。
「御代志町って本当に誰も来なくて利用頻度から見るにそんなに駅員って必要ないんだよな~。整備士もちゃんと頭数はいるし、俺がサボれるほどには平和なわけ」
人身事故なんてあるわけもなく、佐那が大掛かりなイベントを開催しない限り駅が人で賑わう事もない。廃れていく一方な為、真弥が居ようが居まいが変わらないのだという。前代未聞だが、だからこそ真弥は此処にいる事が出来る。
「まあなに? 俺の事は気にしなくていいからさ」
なんて言う為、その言葉に甘える。万が一駅員を辞める事になっても真弥も研究所の職員として雇われるだろう。
それにその方が他の駅に行く頻度も上がるのではないかと考えながらホテルに入る。
入り口の警備員が真弥とその上にいる憐を怪訝な顔をして見ていたのは言うまでもない事だ。