第39話 ESCAPE
何日の旅行になるか分からずとりあえず廬は現地調達も含めて手荷物は少なくした。
「まさか儡さんが研究所から出るなんて意外だな!」
「そうですね。いつも研究所で会うばかりで外で会うなんて滅多にないですから」
聡とさとるが見送りに来ていた。佐那は生憎とアイドル業界最後の仕事が入っている為見送りは出来なかったが聡からの伝言で「気を付けていってらっしゃい。お土産楽しみにしてる!」と伝えられた。
「周東ブラザーズ、お前ら学校はどうしてるんだ」
「勿論! 僕は行っています! 今日は開校記念日で休みなんですよ。聡は行ってないですけどね」
「自分だけ良い子ぶるなよ。俺だって行ってるよ! 体育がある日にね」
廬が憐を見習ってあだ名をつけた。聡もさとるも双子で二人そろって同じ名前なため、周東ブラザーズと名付けた。案外二人はそれを気に入っているのか、文句を言うことなく呼ぶと振り向いてくれる。
「お土産は、紅白饅頭」
「それはお土産じゃないだろ」
「じゃあお菓子。スナック菓子ね!」
「送るよ。それでいいか?」
「いいよ! それなら待たずに済む」
「ちゃっかりしてる」
廬と聡たちが話をしている中、後ろから「そろそろ電車来るぞー」と呼ばれる。
「そう言えば稲荷さんはどうするんですか?」
「憐は真弥が席まで連れて行っていくみたいだ。不便な事はあるだろうけど何とかするって言っていた」
憐だけ幻影で行っても詰まらない。見えているし感じているかもしれないがそれじゃあ今話題の拡張現実の規模だ。現実に戻ってみたら御代志町なんて詰まらない。
真弥は人助けで階段を登れないお年寄りを運んだりしている為、筋力だけは無駄にあると意気込んでいた。
「ふむっ。細マッチョってやつなのかな?」
「いやいや旦那、天狗の奴は着痩せするタイプかもしれないっすよ」
「俺、実は脱いだらすごいかも知れないよ?」
「……天狗っすね。やっぱ」
なんて会話が聞こえて来る。
電車が来る為、真弥は憐を背負って駅内に入っていく。
「いってきます」
「行ってらっしゃ~い」
「行ってらっしゃい」
御代志町を出て行く五人に見送り二人は手を振った。
電車の中では瑠美奈と憐は窓の外を興味深そうに眺めていた。
流れる景色に感動するようにキラキラと目を輝かせていた。
「なんかこうして旅行に行くことになるなんて思わなかったね。廬」
「ああ、全くだ」
本当に修学旅行の引率をしている気分になる。修学旅行と言って納得できるのは瑠美奈くらいだが、憐や儡は成人しているだろうにその無邪気な顔を見るとまだ子供なのかと苦笑する。
まさか、駅員の友人が出来て町の人々が嫌悪している研究所のトップを張っている三人を連れて旅行なんて考えられない。
(そもそも研究所を守っていたであろう三人がいなくて大丈夫なのか?)
もしも諜報員とか言うのが現れたら誰が研究所を守るだろうか。やはり儡が指揮していたホワイト隊がどうにかするのだろうか。一応、研究所の職員として廬は気になる事もあった。
世間知らずの三人が移動販売員に声を掛けられてどぎまぎしているのは見て面白く真弥も廬も笑った。
紆余曲折と言うべきなのか片道四時間の旅は思っていたよりもあっと言う間に終えていた。
真弥が憐を背負って電車を降りる。
廬はとりあえず到着記念としてその駅でしか売っていないスナック菓子を聡たち宛てに送る。
「久しぶりに御代志以外の駅に来た~!!」
真弥は喜々と駅を眺めていた。終いには駅内をスマホのカメラで連写し始める。
「なんであの天狗はそんなに駅が好きなんすか。もう病気っすよ」
「お前は人のこと言えないはずだ。瑠美奈の事を四六時中考えてるんだろ?」
「だーかーらー、俺のお嬢妄想と天狗の駅好きを同じベクトルで語るなって言ってんすよ」
どちらも同じ規模だと思うが何が違うのか。
瑠美奈と儡が好きな規模はきっと誰にも勝てないだろうと廬はそれ以上何も言わなかった。
その後、瑠美奈と儡が研究所の土産を選び終えて送ったのを確認した後駅から出て来る。
摩天楼に聳えるビル群に瑠美奈は目を見開いていた。見上げ過ぎて後ろに倒れそうになるのを廬が支える。
「大丈夫か?」
「だいじょうぶ。なんかすごい」
御代志町ではこれほど大きなビルは存在していない。高くて三階まででそれ以上の建物は駅くらいだ。
彼女からしたら何処に行っても大都会に思えてしまうだろう。
何日の滞在なのか無計画な憐は「んー。まあ近場のホテルで」と言う。
金銭に余裕はあるのだろうかと廬は心配になる。御代志町のホテルと違って都会のホテルは桁が違う。御代志町の金銭感覚で来ているのなら破産してしまうと危惧していると憐はその心配を察したのか笑って「へーきっすよ」とクレジットカードを取り出した。
「一応俺たちって政府の人間っすよ? 金は国が支払ってくれるに決まってるじゃないっすか」
「私用に使って怒られないのか?」
「怒る? まさか! 厄災が消えるのならこんなの出費のうちに入らねえっすよ」
けらけらと笑う憐。
現に欲しいものはそのカードを使うようにと華之に言われているらしい。
万が一連絡が取れなくなってもカードの使用履歴で追跡できると言うことも含まれているらしい。
「それに俺たちだって一応は研究所で働いてるうちに入ってるんすから給料が入るに決まってるじゃないっすか」
研究所を支配する前なら研究対象として扱われているがあの研究所に限ってはきっちりと新生物分の給料が支払われている。生まれたばかりの新生物に関しては十五歳から給料が発生して成人したら与えられる。
その為、研究所を出て行っても飢えることはないし自由に暮らすだけの金銭はある。カードを使うことが嫌なら憐たちは各々の給料で買い物をするという。
「しんぱいすることないよ。だいじょうぶ」
瑠美奈は廬の服の袖を引っ張って言う。
「君が心配だと言うのなら僕たちは自分たちの所持金でやり繰りするよ」
儡が困った顔をして言う。
外に出ていないわけだし、自分たちの所持金の額もきっと目玉が飛び出る額なのだろうと思うと何とも言えない気持ちになる廬だった。
駅への熱が冷めない真弥を引っ張る憐がもう「とっとと此処から離れたいんすけど」と来て早々に疲れた顔をしている。
研究所の支給されたカードは五人が同時に使う事柄だけに限定された。例えばホテルだ。衣食住を手に入れなければ意味がない為、長期滞在をするのならカードで支払っておいた方が好き勝手に自分のお金を使える。
「そんじゃあ、あんたが管理よろしく~」
そう言って貴重なカードを廬に投げ渡す。危ないと叱るが「ヒヒっ」と悪戯っ子のように笑う憐に呆れながらカードを無くしてしまう前に財布にしまい歩き出す。
憐に引きずられている真弥はスマホの写真フォルダを確認している。
廬が以前暮らしていた街、筥宮。
御代志町よりも大きな街。多くの観光旅行客が足を運ぶ。
半透明なスクリーンが街を埋め尽くしている。
「電子科学に力を入れている街だ。機械音痴には絶望的とも言える」
発達しているが些か発達し過ぎて機械に疎いものにとっては疎遠になりがちな街でもある。その為、余り人がやってこない。旅行で来る分には良いかも知れないが住むにしては癖が強い街と言うのが印象的だと廬は説明する。
「へえ……でさ、コイツなに?」
「え? ……っ!? 憐。それに乗るな! 痺れるぞ」
道を歩けない憐が乗っているのは自立防衛機だった。
廬の警告も遅く「え?」と憐が次を言おうとした瞬間、憐の身体は激しい電撃に襲われた。




