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第32話 ESCAPE

 廬と連絡がついて駅前で合流した。

 廬と一緒にいた聡が憐を前に気まずそうに顔を逸らしている。


「ハンプティ。情報報告」


 憐は噴水の縁にしゃがみ込み聡に今の状況を尋ねた。


 佐那が倒れてしまい病院に搬送されたのち恋人である廬が瑠美奈と一緒に来ていた。

 瑠美奈が佐那の中にある赤の宝玉を回収した際に儡が現れて瑠美奈を攻撃したことを知らされる。


「憐。今の状態で新旧とか関係ないのはわかるだろ」

「そーっすね。お嬢の身が危険だって言うんなら旧生物に手を貸してやるっすよ」


 もっとも儡と瑠美奈の喧嘩を止められるかどうかは分からない。廬にも真弥にも関係ない事だが、それで手伝ってくれるのなら憐としてはなんだって良かった。

 下手な事を言って瑠美奈を救う手立てが失われるわけにもいかない。


 儡と瑠美奈がいる場所が分からない以上情報を得るにしてもどうする事も出来ない。憐は聡を見て命じた。


「ハンプティ。ダンプティを呼んで情報整理をしろ。ダンプティがお嬢の居場所を割り出してくれるはずっす」

「りょ、了解!」


 聡は相方に連絡を入れる。さとるが来るまで儡の事を廬と真弥に伝える。


 デザイナーベイビーである儡は、瑠美奈の対として造られた。従わせるために作られた儡は、植え付けられた使命に気が付かないままに生活していた。しかしある日、自分には感情がない事を知った。思っている事、感じている事は全てプログラムされたものだと、瑠美奈への感情、友人への感情、新生物や旧生物に向ける感情全てがデザインされたものだとしたら本当の傀儡儡と言う人間は何処にもいないと失意の底にいた。

 その歪みに黒の宝玉に憑りつかれた。何もないのなら、一から作り上げてしまえと宝玉を全て手に入れて、その力で世界を新生物の世界にする思惑を抱いた。

 儡の心はもう何処にもいない。儡は旧生物を滅ぼすつもりだ。憐はそこまでは望んでいない。確かに嫌いだがカーストを上下させるだけで良いのだ。

 人が二種類いる事に文句はない。文句なのは新生物が上位じゃないという点においてだけだ。


 儡の不審な動きは分かっていた。瑠美奈が研究所を出て行ってからだいぶ性格が変異したと思ったのも数知れず。もしそれが宝玉の仕業なら憐は儡を救いたい。


「ド屑……糸識廬、頼む。お嬢と旦那を助けてください」

「どうして俺に言う?」

「だってあんたはお嬢が認めた男なんすよ? きっとあんたなら二人を助けられる」

「無茶苦茶を言うな。俺はただの一般人だ」


 廬は困った顔をする。自分にはどうする事は出来ない。儡を救うことは出来ないと断言出来た。相手の苦悩を廬は知らない。新生物じゃない以上彼らの気持ちを理解することは出来ない。


「あんたが仕掛けられそうになったら俺が助けてやる。だから頼む」

「……俺は献身的じゃない。真弥みたいに何でもかんでも手を伸ばしたりしない」


 出来もしない事を口にしたって叶えられないまま無駄な期待をさせてしまう。それで糾弾されるのはこちらだ。


「なら俺がどちらかを引き受けるよ」


 真弥が口を挟んだ。


「えっと、儡って子は知らないから瑠美奈ちゃんになっちゃうんだけど、瑠美奈ちゃんを儡って子から離せば良いんだろう?」


 状況はよくわかっていないがもし儡が瑠美奈を殺そうとしているのなら瑠美奈を保護する事は出来ると真弥は提案する。

 真弥も廬と同じで何も出来ない人間の一人だが一対一ならば事を収束する事が出来るのではと言う。


「話をして解決するとは思えない」

「稲荷君がそこはどうにかしてくれる、でしょ?」

「まあ旦那は俺と違って特異能力が誰かを傷つけるようなものじゃないっすから」

「因みに何なんだ」

「旦那の特異能力は人の心を読み取る事っす」


 人の心を読み取る。表面上の心ではなく奥底に隠れている真意を読み取る。

 一見すると脅威ではないが、真意を偽ることは誰にも出来ない。

 心を見透かされることを恐怖する者は多くいる。儡の白い瞳に見つめられて心を読み取られた時には全てを掌握されている。


(俺の……真意?)


 儡はまるで廬の事を知ったような口ぶりで語っていた。


『裏側の計画は語らない。語ってしまえばバレてしまうから行動する方には何も伝えられない。だから君は何も知らない。可哀想だと思うよ。何も知らない僕みたいだ』


(そのことを訊いてみないと分からないか)


「わかった。それなら俺が儡をやる」


 タイミングよくさとるがやって来た。話は聞いている為、さとるは瑠美奈たちがいるであろう場所を思考する。

 怪我をしている瑠美奈は病院から離れたいはずだ。人がほぼいない場所で何をしても生活に支障が無い場所。……なんて本来は何処にもない。瑠美奈が行き慣れている場所もさとるは知らない。けれど町の人が余り行かない場所は知っている。


「研究所からは五分当たりにある田んぼは持ち主が亡くなって手つかず状態になっているんです。少し暴れたくらいじゃあ町の人に怒られないと思います」


 さとるが思い出すように言うと真弥が「そう言えば」と続けた。


「研究所近辺は気味悪がって誰も近づかない。子供たちも親にきつく言われているから近づかないって近所の婦人が言ってたような」


 瑠美奈が人々を守る為に離れていった。研究所は町の人達から嫌悪されてる為、その付近にも近づいたりしない。そうと決まればと向かう為に廬と真弥は走り出した。

 憐は聡とさとるを見て言う。


「ハンプティとダンプティはお魚ちゃんの監視。起きたら宝玉がないんすから混乱してバカな事をさせない為に」

「え、了解!」

「わかりました」


 言うと二人は病院に向かって駆け出した。

 背を見届けた後、振り返ると先に行っていたはずの真弥が立っていた。


「まだ行ってなかったんすか」

「君は良い人なんだね」

「は? どう言う意味っすか」

「お魚ちゃんって、佐那ちゃんの事だろ? それってたとえ佐那ちゃんが半分旧生物だとしても大切にしてるって事じゃないか?」

「なんでそうなるんすか」

「だって、宝玉が瑠美奈ちゃんの手にある以上、君にはもう彼女に構う必要なんてない。このまま突き放してしまえば良いのにそうしないのは、彼女もいち仲間。家族として見てるんじゃないかなって」

「……勝手な事を」

「宝玉の資格の為に君は彼女を虐げている。本当は本意じゃない」

「俺がお魚ちゃんの相手してるのは、お嬢の友だちだからっすよ」


 そう言って憐は廬を追いかけた。

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