第24話 ESCAPE
口を開き彼らの事を知っていけば見分けは付かなくとも特徴は得て来た。
聡は行動派でさとるはその正反対で頭脳派だ。絵に描いたような双子。
双子でドッペルゲンガー。バイロケーションとも言うが彼らは紛れもなく二人存在している。別の個人として存在しているからドッペルゲンガーだとかバイロケーションなどと言ったことはない。
特異能力が何なのか、後遺症は何なのか。そこまでは考えていなかった。気になりはする。だがそこまで思考が至らなかったのは、さとるが言ったからだ。
聡と佐那が二人で話をしている為、こちらは別でさとるは廬に言っておきたいことが合ったようで呼び出した。
「僕たちは確かに新生物です。だけど、宝玉はもってないし持てない」
「持てない?」
「そこまでの力を持ち合わせてない。だけど、瑠美奈姉さんのお陰で僕たちは長生き出来てる。本来なら宝玉を宿す力が無い僕たちは殺処分される予定だったです」
宝玉の適正が伴わない新生物をずっと生かしておく必要はないと研究所は二人を殺そうとしていた。瑠美奈は家族を失いたくない意思に反した行いで怒り、無理やり殺そうとした研究者を研究所から追い出したという。
生かしてもらえた恩は計り知れない。
新生物だとしても監視はつけられていない。研究所からしたら脅威でもないと判断されているのもあるし新生物を監視すると言うのは憐の主義に反する事だ。旧生物は監視するが新生物を監視する事は決していない。
「憐はどうしてそんなに誰にでも命じる事が出来るんだ?」
「瑠美奈姉さんと稲荷さんと傀儡さんはスリートップなんです。力がある稲荷さんに楯突いたら後が怖いから誰もが従うんです」
「傀儡?」
突如として現れた傀儡と言う名前の人物。
知らないとさとるに言うと「ホワイトのリーダーです」と言った。
ホワイトのリーダー。傀儡儡。瑠美奈と憐の二人と親しい存在で彼の事はよくわかっていない。研究所を支配する前からいた新生物も儡の事をよく知る人はない。
「瑠美奈姉さんとずっと一緒にいる事が多かったですから瑠美奈姉さんならなにか知っていると思います」
憐にも訊けば教えてくれるかもしれないが今更訊けないと言うのが一番だ。
それなら瑠美奈に訊いた方が早い。
もし儡が話の分かる人物なら瑠美奈がしている事を受け入れてくれるかもしれないなんて少しでも思ってしまったがよく考えるとホワイトを使って廬たちを襲撃したのは紛れもなく儡なのだから無理なのだと。
「どうしてそこまで教えてくれるんだ? 敵対してるはずだろ?」
旧生物の廬に研究所のことを教えてしまえばさとるは裏切り者として憐に仕置きをされると危惧する。
「監視されていない状態で、僕の言ってることを明確に報告できる人はいないです。研究所の異常は誰にでも分かることですからね。違和感を持ってる人は少なからずいます。それを変えてくれるかもしれない人が現れたら話をしてみたいと思うものです」
研究所の異常。それが何を指しているかは廬にはわからない。
さとるは危険を犯してでも廬に少しの情報を与えたかった。
「それに聡が水穏さんの味方なら僕もそうですからね」
一人だけ研究所側についたとしても役に立たないのなら身近な人の味方であればいいとさとるは笑った。
佐那がその日に退院する事が出来た。もっとも佐那は貧血で倒れていたことになっていた。真弥には何処までも世話になってばかりだと頭が上がらない。
聡とさとるはいつもは別々で行動しているようで今日は聡は佐那に会いに、さとるは廬に会いに来た。
「僕に出来ることなら何でも言ってください! 何でもお手伝いしますよ」
にこにこと微笑むさとるにお礼を言って解散になった。
聡は佐那と別れがたいようでさとるに引きずられるように去っていく。その光景に佐那はクスクスと笑う。親しい人が近くにいる事で気が安らいだようで廬も少しだけ安堵した。
「デートするか」
「え、あれ本当だったの!?」
「そうだろ?」
もっとも廬は佐那の宝玉を求めているだけだ。相手を騙しているようで申し訳ないが瑠美奈の為で自分の為だ。
佐那は少し赤面しながら町の中を散歩する事を受け入れた。
マリンキャップを被りひと目を避けて、行きたいところも特になくて目的無く彷徨う。その日は珍しく噴水広場でクレープの移動販売の車が停車していた。
廬や佐那からしたら噴水広場には近づきたくなかったが憐の仕出かした事だと誤魔化した。
「なにか食べたいのはあるか?」
淡々と尋ねる廬に佐那はもう少し心を込めて言えないものかと苦笑いをする。表情も硬い。そもそも廬が心から笑う事があるのだろうかと佐那は頭の中で考えたまま首を傾げた。
きっと瑠美奈の前では笑ったりするのかもしれない。と答えが浮上した。
瑠美奈は誰にでも受け入れられる存在だ。その外見も相俟って心を開かせてくれるのかもしれない。後遺症の所為で成長しない身体に同情してしまう時もある。
俯く佐那に廬は不思議そうに顔をのぞき込ませる。
「佐那?」
「! なんでもない。えっとあたしはね」
メニュー板を眺めて目についたチーズケーキのクレープをと口にした。
複数のベリーソースがかけられたチーズケーキクレープ。食べたことはないがきっと美味しいに違いない。なんて言ってもベリー系に失敗はないと相場が決まっている。それもチーズケーキが入っているのだから失敗するわけがないと根拠も何もないことを佐那は考えた。
「糸識さんは?」
廬が買ったクレープが何か気になり佐那が尋ねると「食べてみるか?」とクレープの端が佐那の口元に運ばれた。少し食べて確かめてみたら良いと言うことらしい。
佐那はまた顔を真っ赤にしてそれでつい小さな口を開いて廬のクレープを齧った。
「んっ!? ……辛いっ!!」
舌が痺れるほどではないが口の中が熱を帯びる。チリソースのかかったクレープだった。
少しだけ食べただけで口がヒリヒリとするのだからそれを全て食べたらまともに話せなくなってしまうのではと佐那は危惧すると「はははっ」と笑う声が聞こえた。
口に手をやって嘆いている佐那は、一体何事かと顔を上げると無邪気に笑う廬がいた。
(……えっ)
先ほどまで淡々としていた様子の廬が笑っていた。瑠美奈と一緒に居なければ、心から笑うなんて事絶対にないと思ていたのに眉を顰めて、だが決して不快とかではなく佐那の反応を楽しんでいる廬がそこにはいた。
「辛いの好きなの?」
「ああ、もともと甘いものが得意じゃないんだ。仕事の付き合いで食事する時、甘いものを強要されて以来得意じゃなくなった。適当に辛党をしていたら、純粋に辛いものが好きになった」
クレープも基本的に甘いものしかないが、サラダなど甘いだけじゃない物もある。クレープ生地が柔らかい為、食べ応えのあるものも欲しい為、廬はチリソーセージのクレープを頼んだ。
甘いものが得意じゃないのにクレープの屋台に近づいて買ってくれた。
「瑠美奈も俺が辛党なのは知らない」
「そうなの?」
意外だった。瑠美奈と一緒に生活しているのなら必然的に気が付かれるはずだが瑠美奈は知らない。知っているのは佐那だけ。
「っ……そう言うのはずるいと思うの」
「ずるい? 恋人には俺の事を知ってほしいと思うのはしょうがないんじゃないのか? ごめん。鬱陶しいと思ったなら謝る」
「良い! 大丈夫。……そう言うのは女の子がときめく奴だから」
「そうか」
微笑む廬に佐那はどきりとした。
たとえ洗脳されていたとしても佐那は廬を刺してしまったのにそれを許してくれるように一緒に居てくれる。ずっと一緒に居ることが出来ればと佐那の思考によぎる。
クレープを食べて、狭い町を歩く。田んぼ道を歩きながら都会では見ない鳥を見つけてはしゃいで河川敷で少し足を濡らしてみたりと遊ぶ。
御代志町で観光名所など特にない。合ったとしても真弥が務める御代志駅だけだ。町の中まで入って来ようとする物好きはいない。だからこそ、御代志町で余所者は目立つ。
数日もしたらこの町に馴染んで目立つ色を失う。
この町には廬の知り合いはいない。この町に佐那の知り合いは多くいる。
だがどちらも余所から来たことになっている。ネット上のアイドル。
人魚姫としてこの町にやって来て、水穏佐那としてはこの町にはいない。
なんとも不思議な感覚だ。ライブを終えたら後は研究所の言いなりとなって資金を集める為に歌を歌い、誰かを眠らせる。
そんな日常を過ごしているのが息苦しい。確かに研究所には恩がある。研究所の所長に恩が合って瑠美奈に好かれたい。しかし佐那の中で少しだけ変わっていた。
「糸識さん、一緒に逃げよう」
「逃げる?」
「研究所から逃げよう」
金の心配なんてしなくていい。廬を一人養うことは容易だ。
「宝玉はどうするつもりだ? お前が持つ赤の宝玉を狙って憐たちが追って来るのはわかってるだろ?」
どれだけ逃げても厄災からは逃げられないし厄災の元凶である宝玉を佐那が持っている以上厄災が二人に訪れる可能性だってある。
「佐那、瑠美奈は宝玉を全て支配しようとしている。佐那が持つ宝玉を瑠美奈に預けてくれないか」
「それは……ッ」
宝玉が無ければ佐那は必要とされない。
廬が佐那と恋人になってくれているのは宝玉を目的にしている。
宝玉を渡してしまえばお別れなんて事になる。
「まだ無理かな」
そう言って笑った。




