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第181話 ESCAPE

 御代志研究所にて。

 本部が反政府組織、新生教会に襲撃を受けた情報が入った。それは丹下の思っていた通りだった。

 本部にいた者たちは全員、死んでいた事も判明したが生憎とそこらへんは丹下も理解出来ていた。

 そして、新生教会は廬を連れて行ったと言う情報も入手した。


 丹下は会議室のホワイトボードに写真を張り付ける。数枚の写真。

 包帯を巻いた人物の写真。小さな子供の写真。白い髪の女性の写真。

 それらは一様に未登録の新生物であり、犯罪歴がある。

 赤と黒のマーカーペンで文字と線を書きながら頭の中で整理をしていた。


「ん? やあ、決断出来た?」


 会議室に来た佐那は険しい顔をして丹下に会いに来た。

 一緒に未登録の新生物を殺しに行くかどうかの選択を委ねていたが答えは出たのかと丹下は尋ねるがその解は来なかった。その代わりホワイトボードに書かれたことを興味深そうに視線を向けた。


「これは?」

「俺が集めた新生教会の幹部たちだよ。まだ他にもいるんだけど写真が見つからなくて」

「……その新生教会に糸識さんがいるのは確定なんですか?」

「うん、有力な情報が手に入ったからね。確実だよ」


 廬が新生教会に連れて行かれたと佐那は丹下から聞かされた。

 裏切り者だからこそ新生教会が攫って行ったと考えて間違いはないのだと本部内で奇跡的に生き残った研究者たちが廬を疑っている。

 それを余り良く思っていない佐那は何としても廬の無実を突き止める為に努力はしていた。


 丹下はホワイトボードにある情報を佐那にも聞いて欲しいと席に座るように促す。

 席に座ったのを確認して口を開いた。


「この包帯ちゃんは、ネロ・デスロット。未登録の新生物で親は死霊使い。死者を呼び出してその死者と愛し合った結果生まれた超突然変異。別名悪魔の子。特異能力は死んだ人を生きているかのように操ること。彼女の周りには無数の亡霊が居て彼女に懐いている。まあペットみたいなものだね。そのペットを屍に憑依させて駒として使う。ネロちゃんの後遺症は、炎の視認。かつて両親を当時住んでいた村の人々に火刑にされて、それを目撃した瞬間彼女の後遺症は確立した」

「親が火炙りにされたからって後遺症がそうなるのは余りにも安直すぎる」

「きっかけなんて些細な事だよ。大切な人が死んだけで心が塞ぎこむ人だっているからね。精神的に追い詰めれば何処までも落ちて行く。君だって瑠美奈ちゃんが死んだら嫌だろう? それとベクトルは変わらないよ。その瑠美奈ちゃんだって父親を喰わされたことで成長が止まってるんだから、ストレスで片を付けちゃっていいと思うけどね」


 脳の損傷で特異能力が生まれて、血によって引き継がれる。

 後遺症は、精神の過剰ストレスに寄るものだと言う。


「炎を目視してしまうと彼女の心は燃える。勿論、物理的にね」


 心臓が燃えてしまう。両親のように火刑に処されているかのような錯覚。


「流石に日常的に炎を見ないなんて事は出来ない。だから、彼女は常に包帯を巻いている。彼女の身体には幾つものケロイドがあるんだ。その醜い姿を見せない為に包帯を巻いている。健気だね」


「さて次だ」と今度は子供の写真をペンで示す。


「この子は、ピケット。見ての通り子供だけど外見に騙されないように。この子の親は小人だった。彼に特異能力はなく、ただずる賢い。小さい身体を使って何処にでも忍び込んじゃうんだから。後遺症は判明してない。見つける前に逃げられるんだよ。多分、この三人の中で一番情報がないんじゃないかな? 俺も集めようとしたけど、小人って事以外何も見つけられなかったね」


「最後に」と白い髪の女性の写真を示した後「問題は彼女だね」と赤いペンで写真を囲った。


「彼女は、冷夏。親は雪女か雪男。雪男って言ってもただの人か獣か分からない奴じゃないよ。雪を司る怪物のこと。女もいれば男もいると思わない? ともかく、彼女が一番凶悪。すれ違うだけで相手を瞬時に凍らせることが出来る。その冷たい息は鼓動する間もなく相手を氷の世界に誘うんだ。後遺症は低体温維持」

「維持? 体温を下げていた方が良いと言うこと?」

「そう言う事。自分の体温が三十四度以上になると彼女の身体は水となって消える。雪女の話があるけど、雪女との約束を違えた男の妻が霧となって消えたり、お風呂に入れようとしたら跡形もなく消えて氷柱になったり……そんな感じ、彼女はどちらかと言えば後者なのかもね。熱量を余り感じられない彼女にとってこの世界は余りにも冷たすぎる。だけど、冷たい彼女もまた乙女なんだよね」

「……含みがある言い方」

「冷夏ちゃんにとって、この世界を彩る為には支えが必要って事。ずっと探していた兄が見つかるんだよ? 最高じゃない。そして、その兄が記憶喪失なら頑張って思い出せようとするはずだ。思い出した後、世界がどうなるかなんて知りもしないでさ」


 冷夏の兄。それが廬を指しているのは分かっていた。

 廬が本来の記憶を取り戻したら冷夏は報われるだろう。


「冷夏の目的は糸識さんの記憶を取り戻すこと……つまり、糸識さんが記憶を取り戻した後の事を考えてない?」

「正解っ! そう。彼女自身、廬君の記憶が重要なんだよ。自分と過ごした顔のない若者との淡い思い出を取り戻して次に移行する」


 廬が本命だとしても研究所を襲撃するほどの理由がある。


「例えば、世界征服とかね」

「世界が欲しいわけ? 新生物が?」

「新生物だって俺たちみたいに何の心配もなく路地を歩いて、車を運転して忙しない日々を送りたいと思うよ? 俺が新生物なら旧生物の日常に憧れを抱くだろうね」


 窓の外で楽し気に笑う旧生物に嫉妬して、暴走するのはよくある話だと丹下は言った。

 御代志研究所でもそう言った新生物がいなかったわけじゃない。

 どうして自分だけ、自分たちは外に出られないのか。普通に生まれて来なかったのか。子供は親を選べない。その言葉が新生物の心を穿つ。

 佐那と違って本物の新生物は憧れはあれど、実行できない。危険だと悲鳴を上げられる。特異能力を引き継がれたその瞬間に、後遺症が現れた瞬間にその人生は普通ではなくなる。


 新生教会は世界が欲しい。旧生物が我が物顔で過ごしている世界を奪いたい。

 普通を奪った旧生物に復讐をする為に、新生物はこの世界の普通を乗っ取る。


「それと糸識さんが何の関係があるわけ?」

「よく考えてごらんよ。彼の力が何なのか」



 複写。他者に植え付ける偽りの情報。記憶や容姿。

 形があるものないもの。概念全てを他者に複写する。


 旧生物ではなく新生物が世界を支配していたと偽りを複写する。


「全世界の人にそんな事出来るわけがない」

「何も全世界に言う必要はない。この世界のトップを捕えてしまえば良いんだよ。例えば大統領とかね」

「そんなの暴動が起こるに決まってる」

「それが狙いだよ。どんな手を使っても俺たち旧生物は新生物には敵わない。生きようとする人たちは従うだろうね。反対する人たちと抗争を始める。共倒れだ」


「俺も参加したいな~」と呑気な事を言う。その事態を読めているのならなおの事どうして廬を手放したのか疑問でしかない。

 そして、丹下の楽しそうな様子を見て理解した。


「それを待っているってこと……世界を巻き込んで戦争を起こしたって新生物が勝つに決まってる。それなのに貴方は自分の欲求の為に多くの人を犠牲にするつもりなのっ! 血も涙もない。外道でしかないじゃない」


 多くの血が流れてしまう。そんなの許されるわけがないと佐那は丹下を糾弾した。

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