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第175話 ESCAPE

 新生物と名付けられたのは鬼殻が初めてだった。

 だからこそ、A型1号と番号を与えられた。政府も研究所もまだ手探りで、もしかしたら厄災を止める手がかりに遣えるかもしれないと行動を起こした。

 新生物は、何も研究所が無造作に作り出しているわけではない。世界の理に沿って生まれそして死んでいく。まだ見つけられていないだけで世界中にも隠れ住んでる者や旧生物に紛れている者もいる。


 その少年はイタリアで見つかった。山奥の納屋で一人佇んでいる所を村の住民が見つけた。


 君は何処から来たんだい。

 迷子になったのかい。


 そんな言葉を聞いて少年は振り返れば、顔が無かった。のっぺらぼうと言うわけではない。正確には見えなかった。ぐしゃぐしゃに塗りつぶされたように顔が見えない。


 誰なのか認識できない少年を村人は恐れ慄いた。

 政府がその情報を聞きつけて少年を確保した。

 血液検査をしてみれば、半分は人間で半分は人間ではないものの血が混ざっていた。

 鬼殻よりも先に生まれたであろう新生物に研究所はA型0号と名付けた。


 前例が合ったことは考えなかったわけじゃない。

 華之が鬼との間に子供を産んだ事で前例が合ったかもしれないと可能性を見出してはいた。だが、彼らはそう簡単には見つからない。それが普通だ。


 A型0号の出現に伴って各地から新生物が目撃されるようになった。

 まるでA型0号を救出しようとしているようだった。

 日本の研究所に輸送を行おうとしていた時、不運な事故が起こりA型0号は行方知れずとなった。


「簡単には死なないのが新生物の強味でもある。知らないだろうけど、こう見えて結構血眼になって探していたんだよ?」


 丹下は「まあ骨折り損のくたびれ儲けだったわけどさ」と肩をすくませた。


「彼は口が利けなかった。だから、一切情報は手に入らなかった。ただ死を待っているようだった」

「見て来たように言うじゃん」

「俺がこの担当になった日に見せられたんだよ。鬱陶しい爺婆どもにさ」


 A型0号に関しての書類を暗記しろと資料室に監禁されたのをいまでも恨んでいると丹下は言う。


「ともかく、その顔のない少年こそ君たちが糸識廬と親しんでいる男の正体だよ。知っていたはずだろ?」

「劉子たちが知ってるのは廬さんが新生物だったって事だけです」

「じゃあ、彼がA型0号って知っているのはいないってわけ?」


 いない訳じゃない。知っている人はいる。


「まあ俺も半信半疑だったわけだし、今こうして本人が戻ってこないって事は順調に事が進んでいるか、しくじったかのどちらか」

「……何を企んでいるんですか」


 佐那が尋ねると丹下は「目が覚めるのを待っているんだよ」と答えた。


「俺が廬君をただの疑いで本部に向かわせたと思う?」

「そうだろ?」

「違うんだな~。俺の研究所を最後に筥宮と御代志以外の研究所は落とされた。此処からが俺が境子ちゃんの命令で動いている事だ」


 境子は丹下に命じた。


「未登録の新生物を確保もしくは殲滅」

「皆殺しにするって言うんですか!」

「だって、危ないじゃん。俺は大歓迎だけど民間人に手を出された日にはこっちの立つ瀬がない。何より俺よりもとんでもない事を相手は考えているんだからね」

「……」

「よくある話だよ。力のない者たちは淘汰される。不思議なんてことはない。今までそうしなかったのはどうしてなんだろうって話さ。きっかけなんてなんだって良かった。君たちが筥宮でして来た事に比べたら些細な事だと思うけど?」


 新生物は旧生物を根絶やしにしようとしている。

 丹下の口からそれを伝えられる。目の前にいるのはほぼ全員が新生物。

 佐那も半分は新生物だ。しかし、そんな事は考えたことも無かった。


 旧生物を滅ぼすなんて考えは浮かんでこなかった。辛かった事が多い、けれどその中には確かな光が存在していた事も事実だ。


「無関係なんて言わせないよ」


 引き金は筥宮の厄災から既に引かれていた。


「もしも廬君が敵になるなら俺は容赦なく彼を殺す。その権利はある。だけど、彼の動き次第では世界を救う救世主になるだろうね」

「……私たちにどうしろと?」

「境子ちゃんの計画に賛成して、手伝ってもらうよ」


 佐那は「少しだけ時間をください」と言った。

 時間がない事は承知している。廬を助け出さなければならない。


 所長室に集められて事情を知った者たちは考える時間が与えられ解散となった。



 その中にいた周東ブラザーズも深刻な表情をする。

 所長室を出た二人は目的もなく研究所を歩く。


「はぁ~嫌だな。難しい話は俺には似合わない。俺に似合うのは、可愛い女の子」

「さっきまで重要な話をしていただろ。もう少しは真剣に考えたら?」

「考えてるよ。どうやったら姫と合法的にキスできるかとか」

「全く」

「……。でさ? 結局、廬の兄ちゃんはどうなる?」

「何も聞いてなかったの!?」

「姫が美人ってところはちゃんと聞いてた」

「誰もそんな話してないだろ」

「そうだっけ?」


 さとるは先ほど丹下の言っていた事を聡にも理解しやすいように伝える。

 もしも自分たちが境子が考えた計画に参加しなければ殺されるかもしれない。

 それでなくとも未登録の新生物を殺す作戦に参加する事になっているのだ。


 周東ブラザーズの力だけで何か出来るわけじゃない。

 何も出来ないで淘汰される可能性だってある。


 話し終えると聡は足を止めた。

 不思議に思ったさとるが少し先で立ち止まる。


「……」

「聡?」

「難しい事はよくわかんないけどさ、それで姫が悩んでるんだろ?」

「まあ、そうだけど」

「この命は、ミライの姉ちゃんがくれたもの。ミライの姉ちゃんならどうすると思う?」

「面倒でも手伝ってくれるんじゃない?」


 余り親しくはない子供を助けてくれた。心優しい人だと言うのは分かっていた。

 彼女の存在が合ったからこそ生き続ける事が出来る。


「珍しいね。聡が水穏さん以外の事を気にするなんて」

「そりゃあ恩人だし。美人だし」

「浮気?」

「若気の至りってやつ?」

「僕たち、まだ中学三年生だけど」

「細かい事は気にするな。ともかく、俺は姫がどう決めても同意しちゃうよ」

「他人の意思を尊重するのは余りお勧めしないよ。少しは自分で考えないと」

「姫の為に破滅するなら本望だって言ってんの」


 頭の後ろで手を組んで再び歩き出す。

 難しい事は分からないが佐那が決めたのなら聡は文句は言わない。

 それは間違っている事ではないと直感している。

 それに振り回されるさとるも呆れた様子で微笑を残して聡の後を追いかけた。


「そう言えば、宿題やった?」

「宿題?」


 いつもの会話に戻る。これから殺しが始まるかもしれない。

 それは怖いと思うがなるようにしかならない。死にたくはない。

 救われた命を大切にしたい。自分たちは長生きできないが、簡単には死なない。



 そんな二人の会話を影から聞いていた男がいた。

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