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第162話 ESCAPE

 翌日、丹下の両親にお礼を言って家を後にする。

 二日酔いになっていない鬼殻が清々しい顔をして「おはようございます」と言った。

 昨夜の記憶はないようで「安い酒はダメですね。眠気が」とキス魔が何か言っていると廬は溜息をつきながら「お前は幸せだな」と言った。


「さて! これからどうしようか」

「いい加減帰る。お前だって仕事だろ?」


 丹下が遊びに行こうとするのと咎めると「えー」ふてくされている。

 生憎と廬も鬼殻も暇ではない。鬼殻に関しては要注意人物なのだから長い間の外出は本来褒められたことではない。


(それに昨日は寝ちゃってたからメールも確認したいんだ)


 頼んでいたメールの確認をしようと思ったが眠気に襲われて確認する事が出来なかった。


「職業柄貴方も暇ではないのでしょう? 私たちの相手をするより自分の事をなさっては?」

「もうやる事は終わってるからな~。俺暇なんだ」

「暇人か」

「暇人って言われているうちが吉だよ」


 そうは言っても廬たちは筥宮と御代志に戻らなければならない。丹下を連れて行くことも出来ない為、子供ではないので受け入れてもらおうと廬は丹下を説得する。


「俺の事を調べ回ってる癖に、必要が無くなれば追い出すんだ」

「っ……どう言う事だ?」

「昨日から俺の事、調べてたでしょう? 君たち、というよりは君かな? 筥宮の研究者に依頼して俺の事を調べている。そんなに俺って怪しいかな?」

「怪しいでしょうね。見ず知らずの男が付きまとって来るのは些か奇妙だ。特殊な出の我々でさえ異質さを覚えますよ。貴方が何処に所属している研究者なのかも私たちは知らないのですから」

「あっ……そう言えば言ってなかったっけ」


 うっかりしていたと言いたげに丹下は、はにかむ。

 表向きの職業はもう知っているから裏の事を説明しようかと丹下は光のない黒い瞳で二人を見た。


「俺は、入野丹下。浜波研究所の第13代所長をしているよ。よろしく」

「っ!? 所長」

「うん。君たちの事は知っていた。鬼殻君に関しては昔俺が所長じゃないときに会っていると思うんだけど、覚えてないか」

「貴方のように美しくない男を覚えているほど暇でもなかったので」


 悪びれもなく鬼殻は言う。


「どうして所長位が俺たちに……いや、鬼殻が狙いか?」

「鬼殻君に興味あるけど、流石にひと目の付くところで不穏分子を排除なんてしたら問答無用で警察のお世話になるよ。政府だって取り合っちゃくれないだろうし。虚言妄言と捨てられるのが落ちだよ」

「じゃあどうして」

「今回の件を疑問に思った奴は必ず本部に向かう事を読んでいた。その中で一番に該当するのは君だよ。廬君」

「俺?」

「そっ! 君はこの研究機関の事を何も知らない。それでいてよく首を突っ込んでいるって聞いたからさ。今回の件も無関係な君は境子ちゃんに文句を言うんじゃないかなって踏んで待ってたんだよ! そうしたら、君、まさか危険人物を引き連れてこの街に来るもんだから、もう笑いが……ッくっふふっあっははは、いや、ごめん。思い出したら止まらなくなっちゃうな」

「なら、その呼吸を止めて差し上げますよ」

「率直なのか遠回しなのか息の根止めようとするな、お前は」


 腹の皮が捩れるほどに笑う丹下に鬼殻は鬱陶しさを覚えていた。

 そんな鬼殻と止めながら廬は「それで、クラブの女性に頼んだのか?」と尋ねると否定される。


「客引きは別に俺が指示してることじゃないからさ。君たちの見た目に素直に惹かれた女が声をかけたんだよ。まさか、来てくれるとは思わなかったけど」

「見る目はあるようですが、バックサポートがこれではお先真っ暗ですね」

「店の評判は気にしてないからさ」


(というか、副業のし過ぎだろ)


 ホビーショップの経営者、クラブのバックサポート。その上、研究所の所長。


「雰囲気的に君たちがうちのクラブに来てくれるっぽいからついて行ったってわけ。なぁんか、退屈そうだったし、俺も退屈だったからさ」

「……俺たちと関わって何がしたいんだ」

「別に? 特別これと言って理由はないよ。ただチャンスがあるかと思ったけど、躾けられている所為で手も足も出せないって感じ」

「猛犬扱いですか。犬ではなく鬼なのですがね」

「公然でおっ始める気はないよ」


 両手を挙げて無力であることを証明する。


「ともかく、そんな所長が暇人でどうするんだ。寧ろ今は忙しいんじゃないのか?」

「本来ならね。だけど、生憎と俺の部下は優秀揃いだから俺が動かなくても良い。って言っても君はもう俺が研究所の人間であることを知っちゃったわけだ。それも所長である事を知った所為で距離を取りそうだし、今日の所は大人しく帰るよ。またね。廬君、鬼殻君」


 先ほど駄々をこねていた人物だとは思えないほどにあっさりと踵を返して丹下は歩いて行ってしまう。


「危ない所でしたね」

「なにが?」


 丹下が見えなくなると鬼殻が言う。


「彼は、浜波研究所で新生物を素手で五人、殺害しているのですよ」

「ッ!? 素手で、本当なのか」

「ええ、彼は生きる事を実感できない可哀想な子です。彼と会ったのは十年以上前ですが、それこそ貴方と会い、反乱を起こす前、こちらに連れられた際に浜波研究所の当時の所長も連れていたのですよ。殺気立った若い少年をね」

「お前、覚えてるのか?」

「忘れてしまいたい過去ではありますが、残念ながら覚えていますよ」


 入野丹下と言う男を鬼殻は知ってる。


「あのクソほど生意気なガキを私は決して忘れることは出来ないでしょうね」


 ――なんて言ってもあの男は私の腕を折ったのですから……。

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