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第158話 ESCAPE

『寒竹境子。確か、我が母と同期だったはず』

「同期?」

『ええ、大学の同期ですよ。彼女は、御代志村を救う為に都心の大学に入学しました。その際、親しくなったのが寒竹境子です。母と彼女の所属する部門は違いましたが、いつの間にか母の上司となっていましたね』


 寒竹境子は、鬼頭華之と大学の同期だった。


『私も何度かお会いしましたよ。母が定例会議に参加する際護衛と銘打って連れられましたからね』

「どう言う人だったんだ?」

『堅実な人です。夏休みの宿題は夏休みになる前に終わらせるタイプでしょう。貰ったその日、学校内で終わらせて長期休暇も勉強をし続ける勉強好きなイメージです。推測を嫌い断言を愛している』

「推測?」

『はい。可能性と言う言葉を嫌っています。待つのが嫌いで時間通りに、計画した通りに行動出来なければ死ぬのではないでしょうか』

「極端だな。お前から美しいものを奪ったら死ぬのと同じだ」

『死にはしませんよ、貴方たちを滅ぼしてしまうかもしれませんがね』

「笑えないな」


 計画的で勤勉。恐ろしいほどの仕事人間。

 そう言った印象を持った。その所為で人との交流も途絶えている。

 かつての廬のような生活をしている。それより酷いかもしれない。


「お前は死んでいたから分からないかもしれないが、お前が襲撃した時、境子は動き出さなかった。それはどう言う事だ? 今回も同じく襲撃だけされていたとしたら別段驚くことでもないはずだ」

『私は瑠美奈の為に行動を起こしましたので、厄災には関係ない判断されたとかでしょうか?』

「誰かの為に動いていたら通達されないって事でもないだろ」


 動機なんて誰にも分らない。境子だって当時鬼殻や儡たちが反乱を起こした理由など知るわけがないはずだ。

 戦争に出たくない。争いたくないと新生物に権利はないが、それでも平和を愛していた瑠美奈が行動を起こした事を境子は黙認していたのだろうか。


「華之が伝えなかった?」

『ないわけではないでしょうけど、可能性は低いでしょうね。隠せば何処かで足跡が残ります』

「なら、今回はどうして支援を強めるなんて付けたんだ?」

『襲撃した理由が分からないように、彼女の意思を私たちは知らないのですよ。本人に訊くしかないですね。私も違和感はあります。本来なら、厄災に関係ない事は我関せずを貫ているのにどうして、そこらの研究所が新生物に襲撃されたからと全体に言うのか。気になる点は多々ありますね』


 数回会ったことがあるだけにこうして疑問が溢れて来る。

 ならば、定例会議に参加していた者たちも疑問があったはずだ。それを追求させない為に支援を口にした。


『気になるのでしたら、ご協力しますよ?』

「お前が?」

『ええ、憐君がいる所為で研究所の空気が重たいのですよ。息苦しいのは苦手です。貴方が傍にいてくだされば私が外に出るのも許されるでしょう?』


 憐は瑠美奈や儡に会えないからふてくされてるのだ。

 境子に会いに行くのなら鬼殻が道案内を名乗り出る。


(鬼殻の提案に乗って会いに行くのか? 誰かも知らない奴が研究所本部の方針に文句を言いに行くのも可笑しい。けど、流石に境子の言っていることは余りにも疑心暗鬼を生む。支援金の為に手あたり次第に怪しい所を探し出して晒し上げる)


『私も彼女に訊きたいことがあったので、貴方が同伴してくれると嬉しいのですが』

「訊きたいこと?」

『ええ、私を研究所の管理下に置いて何を企んでいるのか』


 筥宮に鬼殻がいるのは既に周知されている。黙って研究所に置いてしまえば、視察官に知られて言い逃れが出来なくなる。反乱を起こして死んだはずの鬼殻が生きていることを説明するには包み隠さず話さなければならなかった。

 本来なら厄災その物として殺されても可笑しくはない。どれだけ鬼殻がもう処理を終えた厄災だとしてもだ。


「はあ……わかった。三日後、俺はそっちに行く」


 鬼殻の言葉には廬も気になっていた事だ。気になる点は多々あるが、今は、どうして疑心を生むことを言ったのかを知る為に都心に向かう事にした。

 佐那にもその事を伝えて準備を進めた。




 三日後、廬は行き慣れた駅から筥宮に向かう。

 筥宮の研究所で鬼殻の外出届を出すために書類制作をする。向かう先などを記載する。

 鬼殻に書かせないのは、虚偽を防ぐ為だ。


「それでは糸識さん、彼をよろしくお願いします」

「ああ、俺が見張ってるよ」

「やれやれ。厄介者は肩身が狭いですね」

「自分の行いを見返してみろ」

「……。特に何もありませんが?」


 本気で言っているのかと担当の研究者が呆れた顔をしている。

 外出届を書き終えた廬は、自分のスマホに鬼殻の首輪につけられた位置情報を送信されるように設定をする。


「はい。手続きは完了です。いってらっしゃい、糸識さん、鬼頭さん」

「行ってきます」

「久しぶりの地上ですか」


 二人はエレベーターで地上に上がる。筥宮から都心に向かう為に電車に乗り込む。


「まさか、半年ぶりの外出が貴方と遠出になるとは」

「俺だって嫌だ。仕方ないだろ、少しは我慢しろ」

「ええ。我慢しますよ」


 くだらない話をしながら境子が身を置いている研究所が管理しているビルに向かう。


 研究所本部にて。

 ビルは少しだけ肌寒かった。

 鬼殻と二人でコンシェルジュがいるカウンターに向かうと訝し気な顔をしてこちらを見ている。


「御代志町研究所の研究員、糸識です」

「その研究所の新生物A型1号です」


 職員カードを見せるとコンシェルジュは驚いた顔をして「失礼いたしました」と謝罪して要件を尋ねて来る。


「寒竹境子さんに会いたいんですが、今は大丈夫でしょうか」

「事前にご連絡は?」

「いや、してない」

「少々お待ちください」


 コンシェルジュは境子に連絡を入れる為に内線を取る。

 その間、少しだけ時間が余り廬は何の気になしに鬼殼を見ると周囲を警戒している。


「どうかしたのか?」

「いえ、何でもありません。外が久しぶりで気分が舞い上がっているだけですよ」

「暴れるなよ」

「ええ、勿論」


 頻繁に外に出せないことは申し訳なくは思わないが、流石に外の空気が吸いたいとは思うだろう。地下にいる所為で窓などない。

 その日が晴れなのか雨なのか、ネット上でしか知り得ない。


「お待たせしました。確認が取れましたので五階奥の寒竹さんの執務室まで向かってください」


 エレベーターで五階を押して突き当りまで行けばつくと伝えられて言われた通り道を進む。


「不思議ですね」

「なにがだ?」

「新生物が一人もいないのですよ」


 こそりと鬼殻は言った。


 此処は、政府直属新生物研究機関の本部。新生物を簡単に廊下を歩かせるわけがない。一番新生物を危険視しているのは他でも此処なのだから。


「管理が行き届いているか、新生物は外に出されないかだろ」

「私が御代志町の新生物で良かったと思いますよ。窮屈なのは苦手ですので」


 出来ることなら鬼殻は危険人物として常に地下幽閉をしたいところだが、そんな事をしたら余計に暴れてたまったものじゃない。何か役目を与えてやらなければ気が散ってしまうだろう。


 五階の廊下は人の気配はしなかった。エレベーターに乗るまでは職員が忙しなく行き交っていたが階層が違うだけで同じビルの中とは思えない。

 二人で五階の最奥に向かう。白い壁、外は筥宮とはまた少し違った街並みが一望できる。大都会と言うだけありビルの外は人が疎らに行き交っている。

 土地勘のある者がいなければ迷子になってしまうほどの大都会。


「っ!?」

「どうかしましたか?」

「いや、何でもない」


 最奥を目指している道すがら窓の外を眺めていると視界が歪んだ気がした。


「もしや、高所恐怖症ですか?」

「高所恐怖症だったら窓際を歩いたりしないはずだ」

「ふふっ。わかりませんよ? 私に気を遣った行動かもしれません」

「お前に遣う気なんてない」


 それは残念だと鬼殼は笑いながら、その後の会話は特になかった。

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