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第157話 ESCAPE

 佐那と聡が帰って来たのは早朝だった。


「会議はどうだった?」


 所長室に集められたのは、廬、儡、劉子。そして同行していた聡。

 佐那は、会議の内容自体は今まで通りだったことを伝えた後、境子が言っていたことを繰り返した。


 裏切り者が研究者の中にいる。


「彼女が断言しているのなら真実なのかもしれないね」

「俺はその寒竹境子って人には会ったことがないんだ。どう言う人なんだ?」

「もうすっごい美人! 笑えば絶世の美女だね!」


 聡は上機嫌で言う。そう言う事を聞きたいわけではないと呆れてしまう。


「確かに美人だね。彼女が笑うのは一年に一度か二度、最悪ないかもしれない」

「だから、教えてくれよ。容姿の事じゃなくて」

「境子さんは、とても怖い人と言う印象です。昔、視察として御代志町に来たです。その時、研究所の環境把握に入って来たです。纏うオーラだけで一面を凍結させるです」


 成果を上げられても上げられなくても下に見られる。余り良い性格とは言えない。

 失敗すると暫くの間、それこそ成果を得られなければ「無能」と言われ続けてしまうらしい。


「彼女自身が何かしているかと言われたら謎なんだけどね」

「……そう言う人じゃなければ、務められないって事か」

「政府と研究機関のパイプみたいなものだしね。彼女がいる本部が落とされたら研究所はお終いだよ。もっとも研究所に期待している政府も陥落するだろうね」

「と、とにかく。……本来、寒竹さんは、厄災に関与していなければノータッチなはずなのに、今回の件を口にしています。その上、寒竹さんの疑心を払拭した研究所には支援が豊富に得られる」

「管理しているのが、その人だけじゃないにしても、その人が大抵の事を管理している。だから、疑心を払わない研究所は疑われ続けて動き辛くなるのか」

「それで僕たちがその件を放棄するに置いて生じる問題は?」


 儡が根本を尋ねる。

 厄災がない以上、研究所が襲撃されたとしてそれはそちら側の問題であり、しっかりと管理していたらそんな反乱は起こらない。

 その言い分に「よく言えたな」と廬は反乱の首謀者の一人が何か言っていることに一瞥を送る。


「えっと、多分。多方面から疑惑が浮上して今までのように自由に研究所の運営が叶わないかもしれないです」


 厄災に関係していなければ、話を持ち出したりしない人物が一つの研究所が襲撃されたと言って疑心に苛まれるのだろうか。


「厄災に関係しているから言った。その解釈で良いんじゃない?」


 厄災はもう発生しない。その事を知らない連中の仕業。

 境子に何かを吹き込んだ人物がいるのだろう。吹き込んだ内容が厄災に関係していた。だから、疑いを口にした。


 そして、このまま疑惑が晴れない状態でいれば、研究所は自由管理から独裁管理になる。それでは御代志と筥宮の方針が覆されてしまう。


「はあ、なんの考えで公言したのかな。彼女は」


 面倒なことに巻き込まないで欲しいと儡は顔を顰める。

 疑惑を払拭する。自分たちは裏切り者ではないと証言する方法などあるのだろうか。


「証言したところで彼女は受け入れない。となれば、本当に襲撃された犯人。襲撃させた首謀者を見つけるしかなくなったね。佐那、今後劉子の傍を絶対に離れないように、劉子も彼女をしっかり守ってあげるんだ」

「です」


 儡は佐那と劉子を見て言うと廬は不思議そうな顔をした。


「? どうしてだ」

「今の研究機関は殺気立っているからだよ。佐那は、半分とは言え半分は新生物扱いされている。今回の襲撃事件で佐那が一番に狙われるだろうね。新しく御代志町の研究所所長になったのが新生物。となれば、必然的に襲撃したのは君だと疑われる」

「御代志町まで来る奴がいるのか?」

「いるだろうね。粗を探すの好きだろう? 君たち、旧人類はさ」


 嫌な言い方をする。


「佐那、俺も付いてる安心しろ。清廉潔白なのは皆知ってる」

「です! 研究所の人たちは佐那さんの事を認めてるです」


 佐那は成長している。初めは、他の新生物たちに意地悪をされていたが、それでも親身に受け入れて、小さな新生物からは頼もしいお姉さんとして活躍している。

 いつの間にか、意地悪は無くなり。誰もが佐那を支えようと努力している。

 御代志研究所に身を置いている研究者も佐那を受け入れている。断る理由などないからだ。研究所と言う居場所がなくなるのは、研究所に来るまで白い目で見られてきた研究者からしたら、無条件で研究を続けられるのは御代志研究所だけ。


「あのさ。この研究所を守るのは分かったけど。筥宮の方は? 鬼殻の兄ちゃんに任せる感じ?」

「そっちは、憐に連絡を入れて対応してもらうよ」


 聡の疑問を儡が答える。

 簡単には侵入出来ないとは思うが万が一にも誰かが来た時に対処できるだろう。

 御代志の研究者を筥宮の研究所に移したことで、事情を知る研究者が手を回してくれるだろう。


「最悪の場合、鷹兎に無理を言って警備員として侵入拒否してもらう」


 流石に厄災に直撃した研究所が他の研究所を襲撃するなんて思ってないはずだと廬は言う。

 今日明日と事が起こるわけじゃない。情報が少ない以上は様子を見ている事しか出来ないと決定して、解散する。


 所長室から出ると儡は廬に近づいて言った。


「寒竹境子の事、知りたいなら鬼殻に訊くのが一番手っ取り早いよ」

「まだ何も言っていないだろ」

「気になるって顔しているからね。君」

「気になってるのはお前も同じだろ?」


「表情筋鍛えるよ」と廬は言いながら儡に尋ねる。


「勿論、僕はその人を知っている上で気になるんだ。君はその人を知らないから知ろうとする。利害は一致していると思わない?」

「何が狙いだ?」

「鬼殻と話をしたくないって言うのが本音かな」


 下手な言い回しをする鬼殻が嫌いなのか。鬼殻に借りを作りたくないのか。

 どちらにしても鬼殻と話をしたくない儡は、廬に頼んでいる。


(俺に借りを作るよりも鬼殻と話す方が嫌なのか)


 廬も鬼殻が知っているのなら訊くしかないと儡の言い分に了解した。


「何が知りたいんだ? 訊いておいてやる」

「何でも構わないよ。君が知りたいことを訊いて、その事を僕に教えて欲しいかな」

「気になる事を訊かなくて良いのか?」

「彼に君が尋ねることが僕からだってバレたくない。君からそんな質問が来るなんて意外だ。だとするなら廬伝手で誰かがってなるのは目に見えている。だから、君が純粋に思ったことを彼に訊いたらいいよ。僕の知っていることだとしても怒ったりしない」

「お前に怒られたくないな」


 なんて言って廬は鬼殻に連絡を入れる為に歩き出した。

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