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第146話 ESCAPE

 地下に落ちて行った瑠美奈たち。

 鬼殻は壁を蹴り体勢を整えると丁度足場になるところを見つけて降り立つ。


(タイミング的にコンクリートの劣化の線は低そうですね)


 十中八九、厄災が起こったと考えて間違いない。

 しかし、鬼殻が予想するよりも早く来てしまった。

 あれ程のエネルギーを放出していながら厄災が起こるのはどうしてなのか。


 その疑問の答えはすぐに浮上した。

 六つの宝玉を持っている瑠美奈が感情的になり廬を対峙してしまったからだ。

 喧嘩する事によって罪が生まれる。醜い罪が生まれて宝玉に吸収される。


「全く……ん?」

「鬼殼さん。助けに来たです!」

「でしたら、廬さんをお願いします」

「です」


 劉子が鬼殻を見つけると鬼殻は間髪入れずに言う。

 瑠美奈は身体能力的に落下したとしても生きているだろう。着地に失敗しても青の宝玉や透明の宝玉で対応は出来る。

 だが、廬は何も出来ないと劉子も理解して翼を羽ばたかせた。


 明かり一つない渓谷。綺麗に作り上げられてしまってと鬼殻は息を吐いた。


「……おや?」


 不意に鬼殻は自身の手にあったはずのものがない事に気が付いた。

 割れ目に落とされた際に一緒に落としてしまったのかと分かる。


「見つけた者の勝ちと言う事ですね。……?」


 そう思った矢先、鬼殻に視界に何かがよぎった。

 その正体を突き止める為に鬼殻は再び奥底に降りる。




 一方、未だ落下を続ける瑠美奈はすぐ上から落ちて来る廬を喧嘩をしていた。


「どうして、かってなことをするの!」

「勝手なのはどっちだ! お前を死なせたくないって言っているのにお前は自分の身を簡単に捨てる」

「そうしないとだれもすくわれない」

「じゃあ、お前は誰が救ってくれるんだ!」


 救われたくない、なんて言わせない。

 救われたいに決まっている。

 だが、誰も救えないなら自分が犠牲になるのだと瑠美奈は譲らない。


「べつに、きえるわけじゃない。らいせであえるんだよ」


 約束した。瑠美奈は眼鏡をかけて、鬼殻は時計を付けて、廬は本を書く。

 そうしていつか会うのだと……そんなデタラメな約束はずっと続いて行くのだろう。

 しかし、今はどうなる。今を捨ててしまえば、今生きている瑠美奈を大切に想っている人たちの気持ちはどうなる。

 死ぬまで後悔し続けるのではないのか。後悔して悲しくなって、瑠美奈が居ない事を認識してしまう。


「記憶がある方が辛いに決まってる」

「なら、きおくをけすよ」

「勝手な事を言うな!」


 そんなのもっと許さない。

 瑠美奈がいない世界なんてもう見たくない。悪夢の中だけで十分だ。


「お前は! お前の死を皆に押し付けるつもりか! お前は偉いよ。自分の命を差し出せるほどの覚悟を持ってる。だけど、お前が消える事を覚悟していない奴らの気持ちも少しは考えろ!」


 皆の為に自ら投げ出す覚悟が瑠美奈には出来ても、皆の為に瑠美奈が犠牲になる覚悟は誰にも出来ていない。

 死んだ瑠美奈の為にと慰霊碑でも建てられるのか。数年後には忘れられて興味ないと唾を吐かれて終わるだけだ。


 瑠美奈を失って悲しむ人は多くいる。


 底が近くなると瑠美奈は壁を蹴り上げて体勢を整える。


「廬さーん!」

「ッ?! 劉子っ!」


 廬の両脇を掴んで劉子が救出に来た。少しだけ身体の重さに肺が圧迫されるが何とか劉子に救われた。そして、底に降り立つ。

 瑠美奈は廬が無事なのを安堵していたがすぐに顔を背けた。

 その様子を見た劉子は溜息を吐いて。


「喧嘩してる暇ないです。地上は揺れが強くなってるです。厄災を止めないと筥宮の街は崩壊するです」

「わかってる。瑠美奈、宝玉を渡せ」

「やだ」

「頼む。渡してくれ」

「やだっ! 廬にはぜったいにわたさない!」


 我儘を言っている暇じゃない。そんなのは二人だってわかっている。

 譲れない。もう何も譲れないのだ。失うのも、失われるのも嫌だ。

 失わずに救いたい。そんな事が出来るのなら誰も困っていないだろう。


 世界を救った栄光が欲しいわけじゃない。目の前にいる人を救いたいのだ。


 互いに睨み合っていると劉子が「あっ」と声を漏らした。

 廬はどうかしたのかと劉子を見ると劉子は上を見上げていた。

 劉子の視線を追いその先を見るとそこには、黒の宝玉が引っ掛かっていた。


「鬼殻の奴っ。落としたな!」


 なんて言ってもそこにあるのなら瑠美奈の手に落ちる前に回収できると廬は壁を登る。

 その様子を見て瑠美奈も急いで登れる壁を探す。かなりの高さがある為、瑠美奈の跳躍力でも宝玉まで手が届かない。

 黒の宝玉の為、劉子は取りに行くことが出来ない。

 凹凸を探してなんとか廬は手を伸ばして足を曲げて登る。掴んでいる岩が崩れて落ちそうになる。

 ずり落ちても何度も上を目指す。黒の宝玉。そこだけぽっかりと穴が開いているような錯覚を覚えながらそこに向かって身体を動かす。

 瑠美奈も同じように足場になるところを見つけて跳ぶ。


 こんな事をしている間にも厄災は進行している。

 廬は次の岩に手を駆けようとすると地震が起こりバランスを崩して底に落ちてしまう。ドシンっと尻から落ちて痛みに顔を顰める。


「くそっ」


 それでも諦めない。今から登っても瑠美奈に追いつけるわけがない。

 わかっていても瑠美奈を死なせたくはないという気持ちが廬を突き動かしていた。


 考えている事は同じなのにどうして争うのか見ていた劉子は理解出来なかった。

 廬は瑠美奈を死なせたくない。

 瑠美奈は廬を死なせたくない。

 考えている事は同じなのにどうしていがみ合わなければならないのか。


 耳を澄ますと地上の方から佐那の声が聞こえる。歌っているのだ。

 それが何処か悲しくなる。


「……全部厄災の所為です」


 厄災、宝玉。それらが無ければ、いまこうして皆が一緒に居る事もなかっただろう。しかし、無ければ、誰も傷つかずに済んだ。

 いがみ合うくらいなら出会わなければ良かったのだ。


 劉子は誰が来てもいいように黒の宝玉がある所まで飛ぶ。瑠美奈が廬よりも圧倒的に早く宝玉に到着するだろう。

 もう勝負になっていないのは目に見えているのだ。瑠美奈が死ぬ事で世界が平和になる。そして、来世で瑠美奈は現れる。またいつか厄災はやって来るかもしれないが、その時にまた考える事が出来る。

 その場しのぎでも、こんな事をするくらいなら構わないと思った。


「廬さん、もう無理です。圧倒的過ぎるです」


 廬は普通の人間だったんだ。A型と言っても身体能力などたかが知れている。

 廬の手は岩の尖った部分に触れて血が滲む。落ちて血が出る。頬を擦り、腕を痛める。


「瑠美奈さん、もうやめるです」

「やだ。はやくしないとまちがきえちゃう」


 幾ら呼びかけても堂々巡り、このまま成り行きを見守る事しか劉子に出来る事はない。


 あと少しで瑠美奈が宝玉に手が届く。

 そう見守っていた時だ。頭上から気配がして何だろうと見上げれば憐が来ていた。


「憐さん」


 人間が地に足を付ける場所よりも遥か下。人が地獄と形容する場所まで憐は下りて来ると宝玉を横から掻っ攫う。


「憐っ!?」


 瑠美奈もまさか憐が宝玉を持って行ってしまうなど思わず声を荒げた。


「どいつもこいつも、自分勝手な事を言いやがって……てめえら二人が死んじまったら誰が真弥の馬鹿を起こすんすか! 俺たちは皆生きて、戻らねえとならないんすよ!」

「その為に厄災を止める。憐、それを俺に渡せ!」

「だめ! わたしにわたして!」

「だぁあ! もう煩えッ!! てめえらの所為で厄災が進行している事になんで気が付かねえんすか! 力ある奴らが罪を生み出し続けたら厄災は進行を速めて筥宮は早く滅びるんすよ!」


 地震の頻度が多くなりビルが崩壊している。道路に亀裂がはしり、この場所のように渓谷を作り出している。早くしなければ、本当に筥宮は崩壊都市となり消滅する。


「今の二人、可笑しいんすよ。どうして自分が犠牲になる道しか頭にないんすか? 皆が無事である方法を探してたんじゃないんすか?」


 憐は苦虫を噛み潰したような顔をして言う。

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