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第142話 ESCAPE

 泡沫の夢。

 憐の特異能力と瑠美奈の宝玉で祭りを顕現させる。

 大きなものは生み出せない。こぢんまりとした祭り。

 ゴムプールに水を張って水ヨーヨーを浮かせる。キャンプセットを組み立てて、焼き鳥を焼く。焼きそばを作る。使い方の分からない綿あめ製造機。


 勿論、食料などは筥宮の時が止まっている為、腐る心配のない店で買う。操作の覚束ないレジを何とか打って当然のように鬼殻持ちにする。



「学校祭みたいだ!」


 病院の前、改めてみると聡が言った。


「じゃあ、僕たちが皆さんをおもてなしします!」


 さとるが言うと「いいね~。沢山もてなしちゃうよ!」と聡も提案に乗る。


「ならあたしもやってみたい。祭りは参加したことはあっても運営側はした事がないの」


 周東ブラザーズと佐那が祭りを運営するから好きに遊んで欲しいと瑠美奈たちに言う。

 皆で協力して下準備を始める。

 ヨーヨーに水を入れながら膨らませる。たこ焼きの液を作ったり、タコと焼きそばの具材も一緒に切ったり。焼き鳥を焼く為に火を熾す。

 劉子は、飛べる事を利用して屋台の飾りつけをしていた。


「こうしてる間に厄災が来ちゃったりしないんすか」


 憐はポーチに腰かけて鬼殻の手伝いをしていた。

 地上を歩けない為、切ることも水を入れることも出来ない。別の作業を鬼殻に言われている。鬼殻もポーチに立って手を動かしていた。


「まだ大丈夫でしょう。先ほど瑠美奈がミサイルを止めた際に厄災を起こすだけのエネルギーも消費されています」

「じゃあ、お嬢が宝玉を使い続ける事で厄災は来ないって事っすか?」

「ええ、ですが、それは現実的ではありません。使っていない間にも地球はオーバーロードを続ける。瑠美奈一人で背負るエネルギー数値を超えているのは事実です。それに、力を使い続けるという事は、常に負荷をかけ続ける事であり、宝玉を粉砕させること……私の願い通りになってしまう」

「……地球ってなんすか」

「まさか自分が立っている。住んでいる惑星の事だと知らないわけじゃないですよね?」

「そうじゃねえっすよ」

「惑星がエネルギーを放出するのが不思議でなりませんか?」

「……っす」


 地球その物がエネルギーを放出して、人間たち。もしくは森羅万象の罪を吸収しているなんて非科学的だと思った。その罪が宝玉として目に見えるものになる。


「気が付いていますか? 宝玉の色は、変わるのですよ」

「変わる?」

「ええ、勿論、主体となる色が変わるわけではありません。罪が足りなければそれらは薄くなるのです。色の調子を見て厄災がいつやって来るのか知る事が出来る。私は青の宝玉を通して厄災の有無を確認してきました」

「黒じゃないんすか?」

「黒は果てしなく黒であり、変わることのない三つとない色です」

「……もう一つは、白って事っすか」

「ええ。瑠美奈が一生涯離さずに持っているであろう白の宝玉も色は変わりません」


 色が変わらない為に青の宝玉のお陰で鬼殻は厄災がどれ程で発生するか推測出来た。


「今はもうほとんど色の変動はない。つまり、あと二三日もしないで厄災は起こりこの街は無に返る」

「……お嬢は知ってるんすか?」

「どうでしょう。知っていて黙っているか、知らずに過ごしているのか。彼女の表情では判断のつけようがありません。楽しむときは楽しむ良い子ですからね」


 それが仇となるとは思わなかったと鬼殻は困ったように笑みを漏らした。


「……兄貴は、お嬢を殺す気はなかったんすか?」

「殺す気はありました。ですが、瑠美奈と違い憎悪はない。安心してください」


 黒の宝玉に支配されたわけでもない。

 ただA型0号に出し抜かれてしまったことで可笑しくなっただけだ。


「貴方たちに許されたいとは思っていませんよ。良い大人が子供に許しを得たいなんて思うわけがないでしょう? 油断した私がいけないのです。私利私欲の為にA型0号に触れようとした私がしたことだ。甘んじて受け入れますよ」

「……そうっすか」

「ええ、なので貴方もわざわざ私に気を遣わないでください。私は腫物扱いされるほど弱くないつもりです」

「……別にそんなつもりはねえっすよ」


 言うと「それは良かった」と言って作業を再開した。


「憐さん、鬼殼さん。準備出来たです」

「ありがとうございます。憐君、準備は出来ました。時が来たらお願いしますね」

「うっす!」



 下準備は終わった。

 祭りが開催された。憐と鬼殻が作っていた花火の装置は開催と同時にポーチから吹きだし。咲き乱れた。


 周東ブラザーズがワーワーと大喜びだ。上空で見ている劉子も「おー」と感心している。

 三人で祭りの運営は大変だろうと廬が少ししたら交代する事を提案したが、大人数を相手にするわけではないので平気だと断れてしまう。


「焼き鳥いらない~? 塩とタレと塩レモンと……あと、なんだ? バーベキュー味とジンギスカン味」


 聡がまた変な事をしている。

 焼き鳥の屋台の前で六人しかいない客を引き寄せようとしている。


「普通のタレと他にもタレを買ったのか?」

「そっ! 普通の二味だけじゃあ詰まんないでしょ? だから、こうして失敗しない味! だが! それほどまでにご要望が多く募るのであれば、他にも味は取り揃えております!」


 そう言って聡は、下の棚から、七味、山椒、チリペッパーソースとどうして辛いの限定なのか困惑する品揃えだ。いや、山椒は辛くはないのだろう。


「あとは普通にチーズと味噌もある」

「おいしそう」

「憐、ちょっと来てくれるかい」


 瑠美奈と儡が聡の話を聞いているのを廬は後ろで見ていたが、儡が何を思ったのか憐を呼ぶ。

 ヨーヨーをどれだけ多く取れるか試している最中だった憐は、よそ見をして三つ持ち上げた所で紐が切れてしまい「あぁっ!!」と嘆いた後、憐の為に用意された椅子を渡って儡の所に来る。


「どうしたんすか? 旦那」

「これ、食べて良いよ。はい、あーん」

「あー……んっ。ン"ッ"!?」


 そう言ってねぎまを憐に食べさせた。

 暫くすると憐が顔を顰める。


「ぁ……かっ……にっ、痛ッ!?」

「儡、お前何を食べさせたんだ」

「え? えーっと、七味唐辛子と山椒とチーズとチリペッパーソースをミックスしたねぎまだね」

「拷問か……絶対に使わないであろう味を全部付けて憐に食わせるな。鬼かお前は」


 味覚麻痺を起こして辛さよりも痛さが来ている憐は涙目になっている。


「憐、みずのむ?」

「……無知は罪だね」

「わかってるならやるなよ」

「だめ?」


 瑠美奈は廬と儡の会話で水を渡してはいけないのだろうと察したが、どうしてダメなのか分からず困惑している。


「痛い状態だと、水飲んで余計に痛くなるんだ」

「……なおす?」

「あ、いや。そう言う事じゃない。怪我……かもしれないけど、そう言う醍醐味でやってるんだ。まあ憐は被害者なんだけどな」


 ひりひりとする唇を押さえる憐が哀れに思えて来る「冷やしてこい」と言うとさとるがかき氷を作ってくれていた。シロップなしでかき氷を食べる姿はもう何とも哀れだ。


「お前もやれよ」


 儡に言うと「僕が悪いのかな?」と罪のない無垢な少年を演じる。

 すると横から肩をトントンっと叩かれて口元に何かを運ばれた。

 反射的に口を開いてしまい口の中に納まる。


「ア"ッ!? 辛いッ!? なんてことするのさ!!」

「面白そうだったもので、全付けしてみました」


 鬼殻が横から現れて儡の口に先ほどのねぎまに加えて、通常のタレ、塩、味噌、塩レモン、バーベキューのタレ、ジンギスカンのタレもう味覚崩壊するほどの物を付け足した。もう何がしたいんだが分からない。

 儡は憐と二人でかき氷を食べている。


「本物の鬼か、お前」

「ええ、本物ですよ。瑠美奈もですが」

「??」


 もう好きにしてくれと廬は呆れて塩レモンの焼き鳥を聡に頼む。

 すぐに出てきたねぎまを口にする。さっぱりとしたレモンの味に程良い塩加減が当たりを表現している。


「兄さんは、スペシャルじゃなくても良いのか? サービスしちゃうよ!」

「良いよ。味覚障害になりたくないからな」


 味覚麻痺のサービスなどこちらからお断りだと言って、次はたこ焼きを頼む。

 聡がテレビなどでよく真似をしている為、一度やってみたかったらしい。

 生地を入れて、タコを入れて、少し回転させてまた生地を入れる。

 市販のものを使っている為、見た目が不格好でも味その物に問題はないだろう。


「ほい! 出来た。聡様直伝のたこ焼き!」

「市販品だろ。ほとんど焼いただけで直伝は大袈裟だ」


 そう言って出来立てのたこ焼きを冷ましながら食べる。

 すると口の中に広がるのは美味しいというより刺激的な感覚が迫って来た。


「聡っ!!」

「勿論、こっちはロシアンルーレット! いや~、流石兄さん、もってんね~」


 八個のうちの一個にハバネロを入れていたという。

 廬は、辛さが限界まで来て、たこ焼きを瑠美奈に譲ってからさとるがいる方に走っていく。


「ねえ、廬兄さんは喜ぶって言ったのはどこの誰だよー」


 聡が不機嫌そうな顔をして鬼殻に言うと鬼殻は「私は喜びましたよ」と肩を震わせていた。

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