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第138話 ESCAPE

 仮死状態か、本当に死んでいたのか。瑠美奈にはわからない。

 目を覚ますと鬼殻が瑠美奈を抱き上げていた。その傍で劉子が泣いていた。


「……?」


 そこで思い出したのは、透明の宝玉が瑠美奈を殺したのだ。

 欲望だらけの瑠美奈を殺した。一度死んだ鬼殻はもう抜け殻同然ゆえに透明の宝玉を支配が出来たのだろう。


 もう六つの宝玉は瑠美奈の中で鳴りを潜めている。きっと支配出来たのだ。


(ほうぎょくのいしがまもってくれた?)


 止まったはずの心臓は再び鼓動する。奇跡と言わずに何というのか。


「瑠美奈っ!」


 鬼殻が瑠美奈が目を覚ました事に気が付いて名前を呼んだ。

 鬼殻はやはり瑠美奈が大切だったのだ。どれだけ魂を救済したいと言って殺そうとしても肉体から乖離してしまえば、もう会えない。頭では分かっている事を心は許容出来なかった。


「戻って来たのですね」


 安堵した顔をする。本当に良かったと強く抱きしめた。


「みんなにあいにいってた」

「! ……そう、ですか」


 余りいい思い出がないのか、少しだけ目を伏せて戻って来た事を喜んだ。


「どれくらいたった?」

「三十分ほどです。もう時間がありません」


 瑠美奈は起き上がりその場で跳ねた。

 身体に異常はない。


「……劉子。小田原さん、ごめんなさい」

「気にしないです。瑠美奈さんが元気なら劉子はそれで良いです」


 ばさりと黒い翼を広げる劉子は「行くです」と瑠美奈に手を差し伸べた。

 起きて早々で悪いが本当に時間がない。厄災前に街が消え去る。


「がんばる。ぜったいにもどってくる」

「ええ、信じていますよ」


 鬼殻が見届けると瑠美奈は劉子の手を握った。

 その瞬間、瑠美奈の視界は一変する。既に空高く跳び上がっていた。

 劉子は跳躍力だけで高く高く跳び上がったのだ。


 鬼化しなければすぐに酸欠になってしまう程の高度まで来る。

 ミサイルの軌道を変えるのはもう難しい。なら迎え撃つしかないのだ。

 瑠美奈は深く考えるのを辞めた。確実を取る。


 ミサイルが跡形も無くなれば、街を守る事が出来る。


 緑の宝玉で実体のある幻を生み出す。


「劉子」

「です?」

「もしも、しっぱいしたらさきににげてほしい」

「嫌です。一緒にいるですよ。独りぼっちは悲しいです。空の旅は誰かと一緒が良いです」


 もしもミサイルを破壊することが出来なければ、劉子は逃げる事はしないと瑠美奈を支える。

 瑠美奈と一緒に散る事を望んだ。


「鬼同士、仲良く一緒に地獄に落ちるです」


 正直地獄になど行きたくないが、新生物がまともに死ねるとも思っていない。


「来たです」


 劉子が目視でミサイルを確認した。瑠美奈も少し遅れてミサイルを見つけた。

 空高く存在する金属の塊が多くの命を奪う。その犠牲になるかもしれない。

 あり得た進路に瑠美奈はミサイルを睨みつけた。


 多くの同胞を殺して来たであろうミサイル。多くの家族を奪った戦争の武器。

 なんて皮肉だろうか。此処で戦争に出ていないのに対峙する事になるとは。


 だが、瑠美奈は負けない。負けるわけがないと自身を奮い立たせる。


「劉子!」

「ですっ」


 酸素が薄く呼吸がままならなくても瑠美奈は劉子と共にミサイルに近づいた。

 そして、緑の宝玉で実体化させた大樹がミサイルを優しく上に持ち上げた。

 少しでも可笑しなことがあれば爆破してしまう。


「劉子、もう少し近づいて」

「です」


 距離が足りない。だが余り近づけば瑠美奈たちもただでは済まされない。

 瑠美奈は大樹に手を伸ばす。幹に触れると発火する。赤の宝玉の力が発動したのだ。燃えるような誘惑を大樹に与えたのだ。


 ミサイルは何やら警報を鳴らしている。

 瑠美奈は直感的に劉子を突き飛ばして自分を大樹に乗せた。


「瑠美奈さんっ!」


 驚いた劉子は何をしているのか訴える。


「劉子、おちてくるミサイルのかけら、みんなにあたらないようにして」

「瑠美奈さんは!?」

「わたしは、だいじょうぶ」

「さっき、一緒に地獄にって言ったです。それなのに……」

「ぜったいにもどってくる。しんじてほしい」


 そう言って大樹と共にミサイルに近づいて行ってしまう。

 引き留める事は出来た。だが、確かに上空で爆発してしまえば、少なからず破片が降り注ぐだろう。

 廬は安全な場所に避難させている為、無事だが屋上で帰りを待っている鬼殻、そして戻ってきているかもしれない憐や儡が傷だらけになってしまう。


「です」


 劉子は翼を羽ばたかせて地上に向かうと背後で途轍もないほど大きな爆発音。そして、少し遅れてやって来る爆風に巻き込まれる。

 劉子は何とか翼に力を入れて鬼殻のもとへ向かう。


(間に合え、ですっ)



 世界の終わりなんて呆気ないものだ。

 誰かがボタンを一つ押すだけで世界は終わりを迎える。


 突風が筥宮を荒らす。綺麗だった景色は消えて、ビルの硝子は粉砕する。

 建造物は壊れてしまう。街としてはまだ機能するはずだ。

 きっと、もしかしたら、多分。そうであってほしい。

 そう願いながら劉子は飛んだ。


 降り注ぐミサイルの破片は、劉子の翼を傷つける。


「憐さん!」


 先に見つけたのは、憐だった。階段に通じる扉の屋根で憐は空を見上げて唖然としていた。

 そんな憐を抱きしめて翼で隠した。


「ッ?! 劉子っ、なにしてんすか」

「ミサイルの残骸が降って来るです! だから、憐さんを守ってるです」


 屋根の下を覗くと鬼殻も儡を守っていた。

 劉子の翼に大きな破片が突き刺さった。痛みで息を詰まらせる。


(憐さんが怪我をしたら、後々面倒です)


 瑠美奈も面倒だが、地上を歩けない憐もまた別の意味で面倒なのは劉子も知っている。翼がズタズタに引き裂かれても憐を守り続けた。

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