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第126話 ESCAPE

 それは鬼殻が反乱を起こした日。

 瑠美奈が御代志研究所の最下層で見たもの。父の死んだ姿と血まみれ姿の兄。

 彼ら以外に気配は感じない。兄が父を殺した以外考えられなかった。


 どうして父を殺したのか。


 震える声で尋ねる鬼殻は振り返り言った。


『貴方の為ですよ』


 言っている意味が分からなかった。父を嫌ってたわけがない。

 愛していた。家族として怪物と罵られても構わない。血の繋がった家族を失いたくはなかった。


『貴方はまだ後遺症が発見されていない。発症していないのか、既に発症していて見つからないのか。後者ならばこのような事はしなかったでしょう。貴方はまだ発症していない。なので、私が貴方に後遺症を与えましょう。貴方が傑作など許しません』


 鬼殻が何を言っていたのか当時は分からなかった。

 あとから宝玉について調べた後で理解出来た。


 宝玉にはそれぞれ意思がある。

 白と黒は特にその意思が強く持ち主の意思を飲み込み身体の主導権を奪おうとする。

 その意思を退けた瑠美奈は白の宝玉に認められてしまった。

 後遺症を持ち合わせていなかった瑠美奈は完成した新生物であり、あとから後遺症が発症したとしても、宝玉は瑠美奈を受け入れてしまった。


 そうなれば何がいけないのか。

 宝玉の意思は誰にも退けない。もしも退いてしまえば、次の意思として宝玉に封じられる。


 それが白の呪縛の由来。


 瑠美奈が死ねば宝玉の意思となる。


「貴方が宝玉になると貴方はもう誰も認めたりしないでしょう。もっとも貴方よりも優れた精神が宝玉を触れた日には貴方もただでは済まされないでしょうけど」


 瑠美奈は、それを知っても尚、承知した。

 その事実を知った時、瑠美奈は宝玉の力を使う事を躊躇った。

 宝玉の中にいた、かつて白の宝玉を使役していた人を消費する事が嫌だった。

 瑠美奈の優しさを理解した白の宝玉は、瑠美奈に言ったのだ。


『道具は使われないことが一番可哀想だよ』


 使われなければ永遠と宝玉の中で眠り続ける事になる。


 瑠美奈が考えていたのは、全てを支配して死ぬ事で宝玉の意思になる前に宝玉が完全消滅して厄災を消し去る。……と言うものだったが、ミライ曰くそんな事をしても再び宝玉は人々の罪を吸い上げて、顕現する。


 五年に一度だった周期が一変して、一年に一度の可能性も出て来る。


 もう打つ手はない。

 打つ手はないが、どうにかするしかない。


「貴方が死んで宝玉も全て消えたとしても貴方が宝玉の意思にならない保証など何処にもないでしょう」


 幻の鬼殻が言う。

 確かにない。

 もしも瑠美奈が宝玉の意思になったら、もう誰にも触れさせたりしない。

 宝玉に奪わせたりなんかしない。厄災だってもしかしたら抑えつける事が出来るかもしれない。


 全てが不明瞭だ。本当にそうなるのか分からない。

 わからない事に満ちて、分かっている事の方が少ない。


「それなのに、どうして貴方は自らを差し出すと言うのですか」

「……あなたが、しめいからにげようとしたから」

「私が?」


 鬼殻は困った顔をする。言っている意味が分からないと首を傾げた。


「わたしはみんなといられるだけでよかった。あのばしょで、あなたがわたしのあにをしてくれる。それだけでよかった。わたしがほうぎょくのいしになっても、あなたがわたしをおぼえていてくれるだけでよかったの」


 どんなに姿かたちが違っても鬼殻が覚えていてくれる。

 それだけで良かった。鬼殻が新生物を導いてくれると信じている。

 そんな結末も何処かであったかもしれない。


 瑠美奈は自分の兄を信じていた。


「……絵空事ですね」

「うん、だからあきらめた。わたしはほうぎょくのいしになってやくさいをふうじるってね」

「いいえ、そうではなく。それが絵空事だと言っているのです。貴方が宝玉の意思となって各宝玉を封じる事が出来るなんて夢でしかない。貴方が原初の血を継ぐ者だとして、それにどれ程の強制力があるか。無意味でしょうに」


 嘲るように鬼殻は言う。

 瑠美奈のしている事は全て無意味だから諦めろ。

 悪夢から抜け出せない限りその妄想も叶わない。


「むりときめつけるまえにじっこうする」


 瑠美奈を説得することは不可能と分かり鬼殻は目を伏せた。

 頑固で分からず屋。一度決めたことは覆さない。

 そんな瑠美奈を誰が止めようと思う。

 鬼殻は諦めたように「では」と言葉を止めた。


「死によって救済されなさい」


 宝玉を全て手にした瑠美奈を殺す。

 そうしたら、もしかしたら瑠美奈は宝玉の意思になんてならないかもしれない。

 前例がない。前例がない事から瑠美奈を救う術など何処にもない。


 瑠美奈は、全ての宝玉を支配して死に意思となる。

 鬼殻は、そんな瑠美奈を宝玉の意思にさせたくない。


 こんがらがってしまう推論の中では何もかもが無意味。

 実行してみなければ答えは分からない。


「黒の宝玉よ。私に力を貸しなさい」


 言うと鬼殻の手から宝玉が現れる。禍々しい球体は鬼殻に力を与える。

 瑠美奈は驚愕する。それは鬼殻の幻ではなかったのかと……。

 どうして此処に鬼殻がいるのか。廬は負けてしまったのか。


「廬はどうしたの」


 冷静に尋ねると鬼殻は微笑み言う。


「生きていますよ。ただ歩行の方が不慣れになってしまっているかもしれませんね」

「……とかしたの」

「ええ、私の逆鱗に触れるようなことをした罰です」


 生きてはいるのなら後から足を治すことは出来るだろう。


 鬼殻は鬼の瞳で瑠美奈を見る。


「私は本物です。暴走する憐君が見せる幻ではない。それに、貴方は悪夢なんて見ないでしょう? そして、私こそが宝玉の意思にさせない為に、貴方の父親を殺して貴方を不完全にした張本人です。この悪夢の中で私が貴方に会えたという事は、私にとって悪夢は貴方のようですね。穢れその者の私が一番嫌悪する存在は鬼頭瑠美奈だったというわけですか」


 なんて皮肉だろうかと鬼殻は笑う。


「貴方にとっても私は悪夢のような存在なのであるなら互いに幻を作り上げるまでもないのでしょうね」

「……そう」

「此処から脱するのに、方法はもうわかっていますね?」

「……しらない」


 瑠美奈の言葉に鬼殻はふっと笑った。


 悪夢の克服。眼の前の相手を殺せばいい。

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