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第122話 ESCAPE

 廬はビルから出て瑠美奈を探す。……と言っても遠くから爆発音に似た音が聞こえる為、そちらに向かえば良いのは一目瞭然だった。


 向かった先ではミライが地上で憐のサポートをしていた。


「ミライ!」

「戻って来たのね。思ったより早かったじゃない。逃げたのかと思った」

「外に出られるなら逃げてた。瑠美奈は?」


 何処にも瑠美奈が居ない事を疑問に思いミライに尋ねると、近くのビルで倒れていることを伝えられる。

 鬼殻が瑠美奈に近づかないように憐が戦っているのだと言うが、絶対に太刀打ちできない。


「俺を瑠美奈の所に連れて行ってくれ」

「えーっ。疲れるっての」


 文句を言いながら、魔術で足場を作り出してくれる。

 鬼殻に見つからないように跳び乗っていけと無理難題を口にするが瑠美奈に会う為に廬はミライが生み出した不気味な模様の足場に跳び乗る。


「れーん! ちゃんとあたしの足場を使いなさいよ!」


 ミライが文句を言うのを憐は聞こえていないだろう。



「っ……」

「言われていますよ」


 不気味な模様の足場が鬼殻の力を防いだ。

 頭を強く打ったのか血を流している憐は、眩暈や視界が歪んで見える。鬼殻すら二重に見えて気分が悪い。


「そうっすね。あの女、俺が血を流してるのに気が付いてないんすから、聞こえないふりで良いんすよ。それより、あんたに一撃も入れらない事に腹立ってるんすけど」


 瑠美奈が気絶している状態で、鬼殻が勝手な事をしないように憐は瑠美奈を守る。

 だが、頑張っても鬼殻に投げ飛ばされたりと踏んだり蹴ったりで憐は萎えそうだ。

 幻覚を錯乱させようにも衝撃波が全てに当たってしまい憐の強みが意味をなさなかった。鬼殻を騙すことはできている。しかし、一人ひとり本物か確認するまでもないと一体を掴んだ後、全てを巻き込み放り投げてくる。


「透明の宝玉は全てを疑うこと、誰も信じていない心の壁です」

「捻くれたクソ野郎に丁度いいっすね。そうやって俺たちに何も言わなかったんすから」

「語弊がありますよ。私は何も貴方たちを蔑ろにしようとしていたわけではないのです。全てが落ち着いたら共存も願っていました。ただ瑠美奈は、受け入れてくれないだろうと考えあぐねていただけですよ。答えを出そうとしている間に実行の日が近づいてしまっただけなのです。お陰で私の計画は見事に破綻しました。貴方たちの所為で、瑠美奈の所為でね」


 仮に答えが出たとしても結果として瑠美奈を殺そうとしていた事に変わりない。

 当時の憐がどれだけの臆病者でもそれは受け入れられないはずだ。


 鬼殻は憐に向かって黒い球体をぶつけた。

 すると憐の視界が真っ黒に染まり何も見えなくなる。


「ッ……なにしたんすか!」

「黒の宝玉の力を一部見せて差し上げようとしているだけですよ。命に関わることではないのでご安心ください」


 憐の視界全てが暗闇。光を通さないほどの闇に憐は困惑する。


「さて、これは貴方の力と同様に幻覚、洗脳術と似たようなものです」

「俺を洗脳しようって言うんすか?」

「貴方を洗脳するなんて手の込んだことはしませんよ。貴方が自ら私に手を貸してくれるのです」

「はっ! んなわけねえっすよ」


(つっても何も見えない状態じゃあ、奴を見つける事も出来ないか)


 何度も目を擦ってみても見えない。

 徐々に見えて来たのは、ありもしない光景。


「ッ……!?」

「ふふっ。気が付きましたか? この宝玉の力は悪夢。心の闇を見つけて意思を飲み込むことに優れたもの。永久の闇が現界したものです」


 光を吸収する闇。全てを支配する。

 憐の前にいるのは、かつての憐。

 憐が、まだ弱い狐だった頃だ。

 そんな奴がいるわけがない。宝玉のまやかしだと知っている。

 知っているはずなのに頭では分かっているのに心が目の前の生き物に拒否反応を起こしている。


(冗談っすよ。あれは俺じゃない)


 泣き虫の子ぎつね。後遺症で焼け死にたくないから、より高い所に行きたがる。しかし、降りられずに泣きじゃくる。

 地面を恐れて高い所を恐れる。


「は、ははっ……悪趣味じゃないっすか。心の闇? この俺にそんなのはないんすよ」

「なら、脱して見せてください。貴方が宝玉の力を克服する所を私に見せてください」


 儡の意思を飲み込んだ黒の宝玉。

 その力を克服する事が出来れば、憐は儡の仇を取る事が出来る。


 その浅はかな思いを打ち砕く。


『瑠美奈ちゃん、たすけて』

「ッ……」


 その声が気に入らない。その弱音共々息の根を止めたい。

 見えてはいけないもの、見えるはずのない者。

 これは幻だ。本物じゃない。何度も考える。


 頭では分かっている。だが、感情が追い付かない。


『儡くん、こわいよ』

「やめろ」


(二人に迷惑をかけるな。二人に近寄るな。弱いお前が近づいて良い人たちじゃない。そんな弱い姿をして二人に近づくな。お前は……っ)


「お前は俺じゃないんすよ!」


 見ていられなくなった憐は、その幻を消し去ろうと特異能力を発動した。

 青い炎が憐の周囲に浮かび上がり燃やし尽くした。


「ちょっと! 憐っ! 何やってんのよ!」


 遠くで何をしているのか分からないミライが叫ぶ。

 青い炎がミライにまで飛び火する。

 鬼殻は楽しいものを見るために、ミライの近くまで降りて来る。そして、ついでのように説明した。


「彼はいま、幻覚を見ています」

「幻覚。何したのよ」


 鬼殻は憐に黒の宝玉の力を使い心の闇に干渉した事をミライに言う。

 克服不可能な力。厄災の一片なのだから、簡単には振りほどけない。


「悪趣味ね」

「自らを強くするには悪夢を払い退けるのが一番だと思いますが? 彼の場合は、そうですね。自分自身への葛藤。弱き頃、不甲斐なかった頃を忘れたいと思う日々。だから彼はわざとらしく言葉を変えるのです。口調を変えて、容姿を変えて、自分を強引に変えて偽った。シニカルな事だと思いませんか? 何故なら彼自身が嘘を嫌っている。嘘をつき続けている彼の前に彼自身が現れたらどうなるでしょうね」

「……半狂乱になるって? 余りにも情緒不安定なんじゃない?」

「新生物は情緒は安定していませんよ。人間と怪物の間で生まれた生き物の情緒が普通であるわけがないと思いますが」

「自分も含めてと言う事かしら?」

「ええ。特に私や瑠美奈、儡さん、もしくは廬さんなんかはもう狂っているのですからね。その上、まだ常人である彼を狂わせたらこうなるのは目に見えていました。ふふっ」


 憐の心を少しでも揺さぶれば彼の特異能力が暴走するのは分かっていた。

 かつて捨てた自分自身との対面など常人では受け入れられない。

 否定し続けて、結果として自分を殺す。

 憐の殺し方など幾らでもある。数あるうちの一つ。

 憐自身が使う事の出来る精神干渉を用いて憐を殺そうとしている。


 本当に皮肉(シニカル)だ。

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