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第118話 ESCAPE

 それは神の力ではない。鬼殻が生前持っていた力。心優しい兄だった為に喧嘩など一度だってした事がない。

 その所為で分からなかった。彼の実力を知らなかった。


「皆さん、忘れてはいけませんよ? 私も鬼であることを」


 鬼の血を引くのは瑠美奈だけではない。

 その上、鬼殻は宝玉を二つも支配しているのだ。敵うわけがない。


「お前が宝玉を支配出来るなら、瑠美奈を犠牲する必要はないだろ!」

「嫌ですね。私が死んだとしても、次の厄災が来たら瑠美奈は自らを犠牲にするのでしょう? 今死んだって同じだと思いますが?」

「っ……瑠美奈。この状況が良くない事だって言うのはわかるよな?」


 何も言わない瑠美奈は頷いた。


「此処でお前が死んでも厄災は消えない。宝玉は何度でも蘇る。仮初の平和をお前は求めない。そうだろ」

「……うん」


 ずっと信じていた。宝玉を冥土の土産として瑠美奈が死ねば世界は平和になると信じていた。だが、また宝玉が生まれるのなら意味がない。


「わたしは、しねない」

「では、どうすると言うのですか? 厄災を完全に消し去る方法など見つけることは不可能だった。そうでしょう?」

「いっしょにほうほうをさがそう?」

「貴方と? 冗談はよしてください。貴方のような死にたがりと一緒にいては見つかる答えも見つかりませんよ。それにそんな時間はないでしょう? あと五時間もしたら政府がこの街にミサイルを放ち消し去ろうとする。無意味なことをする人ばかりで頭痛がしてきますよ」


 鬼殻は瑠美奈と結託する気はなかった。


「廬君、君でも構いませんよ? 一度死んでみますか? 宝玉を二つ支配出来たのですから、きっと貴方も器としては申し分ないのでしょう。そうすれば瑠美奈を生かして差し上げます。もっとも貴方が死ぬ事で瑠美奈が私を殺しに来るので少し時間が欲しいですがね」

「廬だってしなせたりしない。わたしがみんなをまもるってやくそくしたから」

「口約束を真に受ける人間ほど身を亡ぼすとは、よく言いますが、貴方もですか」

「口約束でもその言葉には力が宿るぞ」

「言霊。確かに人によってはその力で死に追いやることも出来ますね。そして人によっては、その日死ぬはずの人を生かすことも出来ますからね」


 そんなものと言いたげに鬼殻は嘲る。


「さて、そんな話をしている間にもミサイルの準備をしていますよ? 良いのですか?」

「鬼殻からほうぎょくをうばう」


 瑠美奈がそう言って鬼化するとすぐに鬼殻に向かった。

 瑠美奈と鬼殻の距離が近くなったがすぐに距離を取られてしまう。


「私の宝玉よりも先に貴方たちの宝玉を支配するのが先なのではないのですか?」

「あとでやる。おまえをころしたあとにしはいする」


 黒と透明の宝玉を回収して支配してその後に憐から宝玉を受け取ればいいのだと瑠美奈は狂人的な力が宿る拳を振るった。鬼殻が避けなければ身体に穴が空いていただろう。


「それでは遅いと思いますが、まあ好きにさせてあげましょう。兄として貴方と遊ぶのは当然の義務ですからね」


 鬼殻は殺し合いではなく、あくまでも遊びだと言った。

 鬼化した瑠美奈でも鬼殻に恐怖はなかった。振り上げられる手を容易に避けられると思っていると瑠美奈が緑の宝玉の力を使った。

 木々が鬼殻を捕えようと根を伸ばした。

 一瞬だけ、鬼殻は表情を変えたがすぐに平常心を取り戻して透明の宝玉で壁を作り一切の脅威を退けた。


「流石、我が妹ですね。宝玉の力を使いこなしている。私に赤の宝玉を使わない点においても優秀点でしょう」

「おまえをみりょうすることはできないとわかってる」


 意思が強いか、意思がそもそもにない者に赤の宝玉は通用しない。

 新生物には赤の宝玉は通用しない。

 瑠美奈の怒涛を簡単に避ける。壁が瑠美奈の手を傷つけた。


「私の番ですね」


 そう言って鬼殻は黒の宝玉を使い真っ黒な力の弾を生み出してゼロ距離で瑠美奈にぶつけた。

 廬が瑠美奈の名前を呼ぶ。地面がえぐれて瑠美奈の安否が確認できない。


(落ち着け、鬼殻はまだ瑠美奈を殺さない。瑠美奈を死なせたら残りの宝玉を与える器を失う。だから、瑠美奈は死んでいない)


 全てを取り込ませることで厄災は停止する。それが鬼殻の言い分だ。

 それを信じると言うのなら、憐の宝玉を取り込んでいない瑠美奈はまだ死なせないはずだ。


「鬼殻」

「はい? どうかしましたか? 廬君」

「かつてお前は父親を殺した。そのことに何も思わないのか」

「ええ、何も思いませんよ? 周知の事実です。それに弁明の予知はない。見たまま、言われたまま、感じたままに、私は何一つとして否定はしません。父を殺害したのも、母に致命傷を負わせたのもこの私です。父の亡骸を妹に食べさせたのもこの私。本来なら必要のなかった後遺症を与えたのも私です」

「お前にとって家族とは何だったんだ」


 誰かが気になっていたことだろう。家族にそこまでしてしまうのだから、鬼殻は家族が嫌いだったのではないのかと誰かが口にしても良いほどだった。

 父を殺して、妹に食べさせ、母を殺した。そして、いまも尚、家族を消し去ろうとしている。


「家族として彼らを見ていた事はないですよ。何故なら、彼らも同じく私を息子だとは思っていなかったでしょうからね。彼らにとって私は研究素材の一部。私もそんな彼らの行動を観察していたにすぎません。勿論、愛は合ったのでしょうね。あの頃の方がまだ幸せだったかもしれない」

「洞穴で暮らしていたことか?」


 言うと鬼殻は驚いた顔をしていた。


「そこまで辿り着いていたのですか。あの場所で暮らしていた頃はまだ人間と言う存在を知りませんでしたからね。私もまだ丸かったのでしょう。母は私たちの為に頑張っていましたし、父も私たちを守ろうとしてくれていました。幸も不幸もなく。ですが、世間に抗う事をしなかった。間違っていませんよ。そうせざるを得なかったことも理解しています」

「理解、しているだけなのか」

「勿論……っと!」


 地面に倒れ伏していた瑠美奈が起き上がり鬼殻を襲った。

 瑠美奈もかつては洞穴で暮らしていた。だがそれこそまだ子供だった瑠美奈ではその頃の思い出はないが、家族を蔑ろにする存在を許せなかった。


「みんな、たいせつにしてくれた」

「ええ、貴方だけね」


 歯を噛み締めて瑠美奈は鬼殻を睨む。


「おかあさんはおまえをしんぱいしていた!」

「勘違いですね。彼女は、貴方さえいたら良かったのです。貴方に宝玉を全て与えて、あの人も貴方を殺すつもりだったのでしょう」


 鋭い爪を突き立てるが鬼殻は容易に避けると瑠美奈の首を掴み顔を近づけ言った。

 忌々しいと怖い顔をする瑠美奈に対照的な美しい笑みを浮かべる鬼殻。


「大切なんて言葉を軽々しく口にしない方が良いですよ。価値が下がってしまう」

「ことばにしなければつたわらない」

「貴方には言葉にしたとしても伝わらないでしょうけど」


 大樹が鬼殻の逃げ道を潰しながら瑠美奈が怒涛の攻撃をするも壁が瑠美奈の邪魔をする。


「貴方が全てを支配してしまえば、私に勝てるかもしれませんよ?」

「……そのひつようはない」

「慢心か、過信か。どちらにしても、それでは私を殺すなんて夢ですよ」


 瑠美奈は鬼殻の言葉を聞かずにがむしゃらに突っ込む。そうするしか知らない。

 速さで言えば鬼殻が有利だ。だが、力で言えば、きっと一撃でも与える事が出来れば瑠美奈に勝機はある。

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