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第106話 ESCAPE

 五時間前、ホテルにて。

 棉葉から瑠美奈の居場所を訊いた佐那と聡は瑠美奈が滞在していたホテルに来た。高級ホテルに宿泊しているとは聞いていたが、まさか佐那すら泊った事のないホテルなんてと若干嫉妬をする。


 だがそんな事よりも今は此処にいるであろう瑠美奈に会わなければとホテル内に入る。どれだけの高級ホテルも人が居なければ奇妙なもので何処か心細さすら感じる。


「瑠美奈姉さーん。いないのー」


 そんな気持ちもお構いなしに聡は大きな声で瑠美奈の所在を尋ねる。


「折角のデートがこんな所って……いやまあ人が居たら完璧だけどさ」

「厄災を止めたら皆で来られるよ」

「皆……はいはーい。じゃっ、ちゃちゃっと終わらせちゃうよっ」


 そう言ってまた瑠美奈を呼び続けた。


「一階にはいないのかも、稲荷さんに言われていた部屋にいるかもしれないね」


 憐たちが宿泊していたスイートルームにいるかもしれないとエレベーターを使って上の階に向かう。

 急いで瑠美奈を病院に連れて行かなければと佐那の気持ちは急く。その様子を察したのか聡が言う。


「筥宮も悪くはないけど、機械だらけでオタクの街って感じ。やっぱリゾート地が初デートに持って来いだと思う訳よ。ハネムーンは何処が良い? ハニー?」

「こんな時に……」

「じゃあどんな時に話したら良いわけ? 俺は本気だよ? 今はまだ子供だけど大人になったら絶対に人魚姫にプロポーズしに行くからな!」


 筥宮存亡の危機だと言うのに自分の事ばかりだと佐那は呆れる。

 それにきっと大人になれば佐那の事など飽きてしまうのは目に見えている。

 歌が良いから、歌を歌い続けなければ愛されない。観客は日常など興味ない。ただ歌っていたら良い。だから佐那は歌い続ける。歌うことは嫌いではないし、客も喜んでくれる。


「あのさ。どうして俺じゃダメなの? やっぱ歳?」

「あと身長かな。あたし、もっと背の高い人が好きなの」

「こ、これから大きくなるって! グンッと伸びて超しちゃうよ!」


 なんて調子の良い事を言っているとエレベーターが到着する。


「瑠美奈お姉ちゃーん!」


 再び聡は瑠美奈を呼ぶ作業に戻った。


 スイートルームは煌びやかで佐那は驚いた。まるで海外にいるような気分になる。

 厄災の壁が無ければ眺めは最高の部屋だ。街を一望できる部屋。もっと上の階に行けばもっと素敵な部屋が広がっているに違いない。


「人魚姫! 瑠美奈姉さんがいたよー!」


 そう言われて我に返る。聡の方に行くとベランダで街を眺めている瑠美奈がいた。しかし何処か様子がおかしいと気が付く。


「る、瑠美奈」


 好きな子を前に佐那は何を言えば良いのか分からない。

 聡が騒いでも振り返らないのは機嫌が悪いのだろうかと心配になる。


「あの、厄災がもうすぐ来ちゃうの。だから、厄災を止めるの手伝ってほしい」

「とめる?」


 反応を見せたことに佐那は嬉しくなり「そう」と言葉を続けた。


「いま、皆で協力して鬼殻と小田原さんを足止めしてるの。瑠美奈が宝玉を全部制御出来たら厄災だって操れるかもしれない。だからお願いっ」


 佐那は自身の宝玉を取り出して瑠美奈に差し出す。緑の宝玉が美しく輝いている。


「どうしてきたの」

「えっ」

「棉葉なら、やくさいがくるってしってたはず。だったらみんなこのばしょからはなれて、あんぜんなばしょにいればよかった。そうしたら、鬼殻とふたりでけされたのに」


 瑠美奈は厄災が来ることを知らなかったが、筥宮に閉じ込められたという事は、わざわざ鬼殻を殺さなくとも厄災が消滅させてくれるという事だ。

 その後、宝玉がどうなろうと瑠美奈は消えているのだから関係ない。

 瑠美奈の目的は鬼殻を殺す事であり、この世から鬼殻と言う概念を消し去ることに注力していた。


「そんな、どうしてそんな事言うの……それじゃあまるで、どうでも良いみたい」


 厄災を消すと豪語していた。自分の身など顧みないで宝玉を手に入れて死ぬと息巻いていた瑠美奈がまるで、今までして来た事をふいにするようなことを言う。


「じっさいどうでもいい」

「っ!?」

「ちょっとちょっと! どうでもいいって事はないんじゃない?」


 佐那が絶句している中、聞いていた聡が口を挟んだ。


「此処にいるって結局のところあんたの為でもあるわけ。あんたしか宝玉を持つことが出来ないって言うから皆、力を合わせているのにあんたは乗り気じゃないって可笑しいんじゃないの?」

「……」

「あんたと鬼殻って奴がどう言う関係でも俺たちには関係ないんだけど。喧嘩するなら厄災をどうにかしてから喧嘩しろって感じなんですけどー」


 兄妹喧嘩を世界規模でするなと聡は怒る。


「だからさ、鬼殻と喧嘩したいなら俺たちを街の外に出してからにしてよ」

「……鬼殻とわたしのもくてきはがっちしてる。ここでだまっていたらかってにあらわれてほうぎょくをもってくる。だからわたしはここにいる」

「此処で死ぬのを待ってるってわけ? それで楽しいわけ?」

「たのしさはひつようない」

「はぁ~。本当に堅物。そんなんだから、誰も救えないんだ」

「ちょっと聡っ」


 余り言うと瑠美奈を説得するどころではなくなってしまうと佐那は聡を止めるも聡は言う事を聞かなかった。


「俺は、人魚姫が生きていたら良いわけ。お姉ちゃんが死ぬのは勝手にしてほしいけど、厄災を止めないと俺も人魚姫も死ぬんだよね。それって凄い困るんだよ」

「そんなことどうだっていい」


 その瞳は、澄み切っていた。諦めの色はなかったが闘志もなかった。

 何が合ったのか二人には分からない。鬼殻が生きている事で喪失感に苛まれたのか。鬼殻は関係なく瑠美奈の心に何か変化が合ったのか。


「ほうぎょくはもらう。だけどてつだいはしない」

「宝だけ持ち逃げしようって? そんなの許さない」


 聡は佐那の前に立ち宝玉を片付けるように言った。

 説得なんて無意味だ。瑠美奈が此処で鬼殻が来るのを待っている。

 鬼殻もきっと瑠美奈が此処にいると知っているのだろう。

 憐と儡、ミライが足止めしているのも意味がないと瑠美奈は自覚している。


「もう分かった」


 聡が吹っ切れたように言う。


「俺、姉さんを気絶させてでも病院に連れて行く。そして、手伝ってもらうからな!」

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