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第102話 ESCAPE

 景光を閉じ込めていた部屋を破壊して出て来たのは、全長七か八メートルほどの怪物だった。

 深緑色の怪物は大きな口を開けて病院を破壊する。病院を丸のみにするように辺り構わず暴れ続ける。


「な、なんだって言うんだい。これ」


 流石にいつもの余裕を失った棉葉は顔を引きつらせていた。

 鰐のような怪物は棉葉の言葉を聞いてこちらに標的を定めて追いかけ始める。


「ッ!?」


 病院内を破壊し尽くすように二人に前脚を向けた。

 ドドドっと四足歩行する怪物にさとるも棉葉もなりふり構わず走り出す。


「い、一体あれは何なんですか!!」

「なんだろうね! 実に興味深いと思うよ!!」


 走りながら言うがあれの正体が分からない。突然出て来たと思えばこちらに襲い掛かって来る。厄災なのかと思ったが今回の厄災がこの街の消失なら、怪物の出現は別件だと捉えるのが妥当だ。

 研究所の実験で日本の怪物が激減している状態で、こんな近くにいるなんてニュースにならないわけがない。つまり、突如としてそこに現れたと言っていい。


 病院に潜んでいたわけではないとするなら、考え得るのは一つ。

 勿論、怪物を一目見た瞬間に棉葉は気が付いていて良いはずだが知らないのは気が動転して力が発動しなかったのだろう。

 状況が落ち着いて走りながら振り返ってみる事であれが何なのか分かると思うが今は走っている事に集中している所為で振り返る余裕は何処にもない。


「多分、多分ですが、あれは小田原さんなのではないのでしょうか!」

「随分とイケメンになったじゃないか! どうしてそう思うんだい!? と言うか、私でも彼があんな姿になるなんて知らないんだが!!」


 冗談を交えつつ棉葉も可能性を考えるが、答えを知っているだけでその経緯を考えることは得意じゃないという欠点に気が付いてしまう「私はバカか!?」と笑う。


「鬼頭さんと繋がりがある。そして、形而上の生物たち。鬼頭さんは小田原さんをっ!?」


 怪物が歩く度に壊れる壁がさとるの道を阻んだ。

 並走しても棉葉の方が足が速かったようで塞がれた道の向こうに棉葉が行ってしまう。


「万事休すって奴だ」

「楽しんでいる場合ですか!! 糸垂さんはトランシーバーで皆さんにこの件を伝えてください!! 運が良かったら聡が瑠美奈さんを連れてきてくれるはず!」

「ああ、しっかり君の勇士を報告してくるよ」

「救援を要請してください!!」


 そう言っている間にも怪物は迫って来るとさとるは行ける道を探して走り出した。

 棉葉もトランシーバーを取りに向かった。




 病院内の入り組んだ道を必死に走るさとる。景光との鬼ごっこで既に体力は底を尽きているが流石に緊急事態にある何処から湧いて来るのか分からない力がさとるの足を動かしている。呼吸も乱れて心臓も痛みを感じて来る。


 その間でもさとるの頭の中では目まぐるしいほどの仮説が流れている。


 追いかけて来る怪物が何者かなんてもう出ている。あれは正真正銘の小田原景光であると……。そして彼がどうしてあの姿になってしまったのか。どう言う経緯でそうなったのか。何を条件に怪物になったのか。


 経緯としては鬼殻の手が施されている。鬼殻の力は相手の遺伝子を書き換える事であり、形而上の生物は、鬼殻が理想とした形を生み出そうとして失敗した人間。

 景光が本来の姿を維持出来ていたのは、一重に無理な書き換えをしていなかったからだ。その血に従って鬼殻は適度に作り変えた。

 では条件は何なのか、感情の起伏か、身体に強烈な刺激を与えたからか。

 電流で細胞が活性化して身体が変わってしまったのか。それとも景光はもとから本来の姿を持っていたが隠していたか。


 新生物には三種類いる。

 瑠美奈や劉子のように本来の姿があるが人間に擬態出来る者。

 周東ブラザーズのように本来の姿がない者。

 海良のように中途半端になって人間に擬態も出来なければ本来の姿にも完全になれない者。


 景光はさとると同じと思っていたがA型は力が強い個体が多いと言われていた為、もしかすると常に擬態をしていた可能性もある。

 鬼殻の力で本来の力を極限まで迫り上げたとしたら今の状況も納得がいく。

 本来の姿に戻ってしまった所為で捕食と言う本能が動き暴走している。


 さとるが精神に訴えた所でB型を嫌っている景光には通じないだろう。

 もう景光を封じる手立てはない。電流作戦はこんな結果に終えた。

 作戦は成功したが結果は最悪だった。


 足がもつれて床に顔をこすりつけてしまう。


「痛っ!? あっ」


(聡、ごめんっ……っ僕もうダメかも)


 摩擦で痛みを感じながら立ち上がろうとしたが、容易に追いついてきた景光がさとるの足を踏みつけていた。

 すぐには潰さずに僅かに力を入れて感じる痛みに顔を歪めるさとるを見てから、力を緩めて、また強める。なんて性格の悪い遊びをしているのか。


「小田原さん。僕を殺す前に教えてください。どうして貴方は鬼殻さんについたんですか。劉子さんがいるのに、どうして……アガっ」


 鬼殼に加担しなくても景光だけでB型を制圧できるはずなのになぜ。その質問が気に入らないのか、足がギチギチと潰されそうになる。

 このままでは痛みが聡に伝わってしまう。既に伝わっているかもしれない。

 少なくとも顔の痛みはもう伝わっているだろう。


「鬼殻さんが貴方に何をしてくれたんですか。劉子さんを守ることですか? だけど劉子さんを守る必要が無いのは貴方が良く知っているはず、教えてください! どうしてっ! 痛ッギ……ア"ァ"ア"アッッ!!」


 左足を踏み潰されてしまった。ぐちゃりと骨を砕く音にはしては柔らかい音。床に散る血。無くなった足。膝を抱えるように蹲り涙を流す。それが愉快なのか景光はこちらを見ている。


(ごめん、聡)


 今頃、半身が予期せぬ痛みを感じているだろう事を察して謝罪する。

 もう走ることも出来ない、このまま嬲り殺しに合うしかない。


 もうどうにでもなれ、足が消えたのだ。聡だって察しているだろう。

 もしかしたら意地でも生き残るかもしれない。そんな事はあり得ないと分かっているが自分の兄の図太さなら佐那を守る為に生き残るかもしれない。

 小難しい数式に囚われない聡ならば、後遺症も克服するかもしれないと浅はかな望み。

 痛みで呻くことしかできない。これで何か景光に訴える事が出来る人は狂人以外にいないだろう。


 誰かに助けて貰わなければさとるは死ぬ。現実的にあり得ない話だ。

 トランシーバーで連絡が取れたとしてもさとるが時間稼ぎが出来ない以上、病院に到着した頃、さとるは死んでいる。


「っ……こんな、ところで」


 諦めたくない。此処で終わりたくない。

 必死に片足だけで少しずつ怪物から離れてようと手すりを掴んで歩く。

 後ろで楽し気について来る怪物。いつでも殺せる。どれ程足掻いてくれるのか楽しんでいるのだ。


 少しでも何か打開策があればとさとるは痛みに呻きながら必死に這った。

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