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【5月26日 16:44分】

一方、逃げた秋元達について後でさらに分かった事だが、飛鳥の手紙で小野村にやってきたのは番組ディレクターが手配していた下請け会社のチンピラの様な素性のスタッフ達だった。


秋元という名前も偽名であり、特番のための準備で人海戦術の小間使いにされていた彼ら。


そして、勝手にテレビ局に手紙を送って呼び出したことはスグに校長に露呈してしまい、それに怒った校長は態度を一転して三人への説教を始めた。



「とにかくケガが無くて良かったが、あんな素性もよくわからない人間を校内に連れ込んで! 何かあったらどうするんですか君達は!」



三人に目立ったケガないことを喜ぶ校長だが、三人の生徒の身を案じるあまり感情的になってしまう。

祐希達はそろって顔を俯かせ、飛鳥は自分が悪いと校長に告白した。



「ごめんなさい校長先生。私があの人達を呼んだんです…全部私が悪いんです! だから二人のことは許してください」


「立花さん。誰が悪いなどは関係ない…今回のことはみんなに責任があるんだよ」



秋元達を旧校舎に招いたのは自分だと告白する飛鳥に、悪いのは飛鳥だけではないと伝える校長。

そして、事情を知った校長は警察沙汰にすることは生徒達にとっても逆効果だと判断し、さらに三人への処遇については担任の南雲に任せることにした。



「今、南雲先生を呼び出したから、後は先生と話しなさい。ここに居ることは伝えておいたから20分もあれば来てくれるだろう。それと、君たちへの処罰は南雲先生に任せることにする。…だが次は私も庇えないぞ。今日のことを反省して、明日からまた勉学に励みなさい…あのラジオのこともキレイに忘れてね」


「…」



そう言いながら保健室を後にする校長。

時代的な背景もあり、騒ぎは校長の独断でもみ消されたのだ。


この件は警察に通報されることはなく、秋元達が逮捕されることもなかった。


そして、遠回しにラジオの調査は止める様に三人に警告する校長。

だが、程なくして完全に校長の気配がなくなると飛鳥は先ほどのことについて話し始める。



「ねぇ、さっきは言い出せなかったけど…校長先生…ラジオを持ってたよね? それにどうして私達がラジオのこと調べてるの知ってたのかな?」


「あぁ…しかも、あの声がラジオから聞こえてたぞ。校長はあんなもん持って旧校舎で何をしていたんだ?」


「…なぁ、もう止めよう! 注意されたばっかりだろう!?」



飛鳥と健介がラジオの話で盛り上がる中、祐希だけはもうラジオの話は止めようと二人に語り掛ける。


危うく警察沙汰になり、両親に迷惑がかかると思った祐希はもうラジオの件から手を引こうと考えていたのだ。


だが、そんな祐希の心中を知らない飛鳥は校長の怒りは秋元達に原因があり、ラジオは関係ないと反論する。



「それは秋元さん達のことでしょ…でも、あの人達のことはホントにごめんなさい。あんな危険な人達だったなんて思わなかったわ…それにユズの人達でもなかった」


「いやぁ、あのババァ怖かったよな! ラジオの方がまだいいぜ」


「それは…そうだけど…ホントに危なかった。俺もすっかり騙されてたよ…でも立花…もうラジオのことを調べるのは止めよう」



俺だって立花の言っていることは理解できる。

だけど、校長先生が関わっているなら尚更ラジオのことからは手を引くべきだと思った。



校長とラジオの関りがハッキリした今、これ以上の詮索は自分達の立場を危うくすると考えた祐希だが、飛鳥は逆に校長が何かラジオのことを知っているという新しい情報を得られたことでより熱くなっていた。



「どうして!? もう校長先生が何か知ってるのはあきらかでしょ? 一人でラジオを持って旧校舎を歩いていたのよ…私達を見つけたのも偶然だし、本当は別の目的で旧校舎に居たのよ!」


「…親に迷惑かけたくないんだ。今日だった下手すれば大変なことになってたんだぞ!? 立花だって親に怒られるのは嫌だろ?」


「でも、あと少しなのに…」



祐希の主張はもっともであり、勝手にテレビ局との話を進めて事態を最悪な状況にしてしまった飛鳥は思わず口ごもってしまう。


だが、結果的には最悪の展開となってしまうものの、この一件がきっかけで難航していたラジオの調査にまさかの進展が訪れることになったのも事実だった。


行方不明だったラジオは校長が所持しており、しかもそれを利用して旧校舎で何かをしていたのがあきらかになったのだ。


そしてその直後、険悪なムードの祐希と飛鳥の元に担任の南雲が慌ててやって来た。



「おい! 何やらかしたんだお前ら? 校長先生が電話でカンカンだったぞ…」


「先生!」



保健室に勢いよく駆け込んできた南雲の介入で二人の言い争いは断ち切られ、一旦南雲による事情聴取が執り行われることになった。


休みだった南雲は校長に電話で呼び出され、大体の事情は電話で共有を受けていたのだが、改めて三人から話を聞くことにする。



「さぁ、洗いざらい話してもらうからなぁ…」



その後、ラジオの調査や番組スタッフとのトラブルのことなど、三人から直接聞き出した南雲。

本来であれば頭ごなしに怒鳴りつけてもよかったのだが、何故か南雲はやけに落ち着いていた。



「まさか、優等生の立花がそんなことするなんてなぁ…先生もビックリだよ。里中に工藤は相変わらずだけどな…」


「すいませんでした」



面談次第では南雲の判断で三人の保護者に連絡する話になっていたのだが、南雲は最初から保護者にも連絡するつもりは無かった。


特に厳しく叱ることもせず、優しく三人を励ます南雲。

だが、その態度には理由があった。



「まぁ、お前達は悪い大人に騙されただけなんだ…怖い目にも遭って十分反省しただろう? これも社会経験の一つだ…けど、次はないからな!」


「…それ、校長先生にも言われました」


「そ、そうなのか…だったら尚更肝に銘じておけ!……で、あれから三人で色々調べてたんだろ? あのラジオのことでなにか分かったのか?」


「?」



先生からも凄く怒られると思っていたけど、何故か先生はテレビ局の人達とのトラブルのことよりも、俺達からラジオのコトについて聞き出そうとする。


俺はそのことを深く考えもせず、これ以上怒られるよりはマシだと思って三人で調べた内容のことを先生に素直に話した。



「いや、それは―」



祐希から語られたのは調査と言えるほどの進展も情報も無いものだったが、南雲はその中でもラジオが代替えできないという情報に食いつく。



「へぇー、やっぱりあのラジオじゃないとダメなのか…」


「…やっぱりってどういうことですか?」


「いや、先生も実はラジオのこと気になっててな。旧校舎の見回り当番の時に、荷物整理が終わって出てきた職員室にあるラジオで試してみたんだけど全然ダメでなぁ」


「!?」



実は南雲自身も独自にラジオのことを調査していたことが語られ、それを聞いていた飛鳥が驚きつつも二人の会話に割って入る。



「えっ、先生も気になってたんですか!? あのラジオ、さっき校長先生が持ってたんです!しかも、それを持って旧校舎で何かしていて…」


「おいおい、急に元気になったな立花…そういえば数人の先生達で調査していた時にどうやら校長先生だけ何か聞いたらしくてなぁ。それからスグに調査は打ち切られてラジオも保管庫行きだったんだが…まさか校長が持ち出していたなんて…それに、そもそも聞き間違いだってゴリ押ししたのも実は校長先生なんだけどなぁ」



騒ぎの当日、旧校舎の探索は校長の独断で打ち切られていたことが南雲の口から語られる。


しかも、校長だけがラジオから何かを聞き知ったらしく、後に生徒達に伝えられた通達も全て校長が指示したものだった事実があきらかになった。



「それ変じゃないですか? 自分で否定したのに…校長先生はまだラジオを持って旧校舎で何かしているって」


「まぁ…そうだな…いやでも、お前らもお手上げって感じかぁ…校長から話を聞いて何か掴んだのかなと思ったんだけどなぁ」



あきらかに校長の行動には不可解な点が多く、若い教員である南雲もそれに不信感を抱いていた様だった。


それ故にラジオのことを調査していた三人をそこまで叱らなかったのだが、三人も核心を得ていないことを知った南雲は少し残念がる。


そして、これ以上の詮索をすることで校長の逆鱗に触れたくなかった南雲は三人に調査の打ち切りを命じた。



「さぁ、もうお前らは帰れ! それと、もうラジオのことは忘れろ。なんか、お前達の話を聞いてたら先生が怖くなってきちゃったよ。校長が何か悪事をしている確証もない…これ以上首を突っ込むと俺もお前らも火傷じゃすまないぞ?」


「はぁ!? なんだよ頼りないな先生! 一緒に校長先生の秘密を探ろうぜ~」



確証がない以上は手を引けとアドバイスする南雲に反発する健介。



「だからダメだって言ってるだろう! それでさえ今日のことで目立ってるんだ…もう面倒事はゴメンだね!」


「それでも先生ですか!? 絶対変ですよ!」


「とにかく今日はもう帰ってくれ! あのな、先生は今日お休みだったの! 休みたいの! グチグチ文句言うなら親御さんに連絡するぞ!」



南雲によって強引に話は打ち切られ、保健室を押し出さされる三人。


時刻は既に18時を過ぎた頃だった。

そのまま三人は家路につくハズだったが、祐希と健介は朝方にファミレスに自転車を置いてきてしまったことを道中で思い出す。



「あっ…健介。自転車!」


「あぁ!忘れてた!あのババァが帰りに寄ってくれるって言ってたんだっけ、面倒だなぁ…でも、アイツ等が待ち伏せしていたらどうする?」


「もうとっくに県外に逃げたんじゃないのかしら? それに、万一にも戻ってくるなら旧校舎しか考えられないわ…それもまずないと思うけど」



慌ててファミレスに自転車の回収に向かおうとするが、その際に健介が秋元達の待ち伏せを危惧した。


だが、飛鳥は冷静な態度で待ち伏せはあり得ないと健介に話す。



「どうしてだよ?」


「私達は通報してないのを知ってるけど、あの人たちはそのことを知らないでしょ? 普通ならこの辺に留まる選択なんてしないと思っただけよ」


「あ、そうか…」


「…」



俺はこの時黙っていたけど、もしかしたらアイツ等はまだこの辺に潜んでいるんじゃないかと思った。


何故なら番組スタッフ…というより秋元の執着が異常だったからだ。


あの人はまともじゃない。

普通じゃない人が普通の判断をするだろうか?


でも、俺も自転車を取りに行きたかったら二人にこの話はしなかった。



その後、三人は南雲との会話を振り返る。



「そういえば、ホントに先生って頼りないよなぁ…そうそう、あの時なんで祐希はずっと黙ってたんだよ? 校長先生の件とか納得してないだろう?」



健介の問いに、ため息を吐きながら答える祐希。



「はぁ、だからさっき言ったろう…親を巻き込みたくないんだって」



南雲の到着で話が中断されていたが、改めてラジオの調査を打ち切ろうと二人に告げる祐希。


だが、それを聞いた飛鳥の口からは祐希が思いもしていなかったことが告げられる。



「…分かった。それじゃ後は健介くんと調査するわ」


「!?」



願ってもいない申し出のハズなのに、それを聞いた祐希の表情が強張る。



そもそも、立花にラジオの調査をしないかと誘われたのは俺だったのに…今はまるで俺が健介のオマケの様に感じられた。


別に立花がどうって訳じゃなかったけど、それを聞いて無性に悔しさが込み上げてくる。



「だって、祐希くんはここまで来たのに諦めるんでしょ? 私は無理。確かに取材の件は私の責任だけど…あと少しでしょ? ほんのあと少しじゃない…」



飛鳥は飛鳥なりに、指先が真実に触れかけている状態で調査をやめることなど考えられなかった。


ある程度のリスクは覚悟してでも、この怪奇現象の真実を解き明かしたかったのだ。


もうそれは探求心よりも意地のようなモノに近く、引くに引けなくなっている状態だった。



「それに、別に問題を抱えているのは祐希くんだけじゃないんだからね…」


「えっ?」


「何でもない!」



何かを祐希に言いかけて話すのを止めた飛鳥。

実は飛鳥は、二人には伏せていたが両親とテレビ局の取材の件で揉めていたのだ。


この日の朝、祐希に電話していた内容を両親にたまたま盗み聞きされ、取材のことで問い詰められていた飛鳥。


その際に両親の制止を振り切る様にして家を飛び出していたのだ。


だが、それは自ら撒いた争いの種であることを自覚している飛鳥は自業自得なだけだと思い二人に話していなかった。


それ故に両親の顔色を伺っている祐希に苛立ってしまい、つい薄情な態度を取ってしまったのだ。



「………なんだよ…」



一方の祐希も本心では調査を続けたいとは考えていた。


そして、直後に飛鳥が改めて祐希の意思を再度確認する。



「…どうしてもダメ?」


「っ!?」



想像をしてなかったことが起きた。

立花が僕の手を取って握ってきたんだ。


さっきまで健介と二人で調査するなんて言ってたクセに…俺のことが必要だって眼差しで見つめてくる。



突然の飛鳥の心変わりに困惑しつつ、思わず手を握られて赤面してしまう祐希。

その様子を間近で見ていた健介も驚いていた。



「…じゃ、あと少しだけなら…」



祐希は思わず調査の継続を口にしてしまう。

気にかけていた飛鳥の頼みを断れなかったのだ。


それを聞いた飛鳥は満面の笑みを浮かべる。



「ホント!? ありがとう祐希くん!」


「なんだよ立花!俺と二人じゃ嫌なのかよ…それにお前…祐希が好きなのか?」


「!?」



別に祐希が抜けることを望んでいた訳ではないのだが、二人の関係に嫉妬した健介がそう言いながら会話に割って入る。


すると飛鳥は慌てた様子でそれを否定した。



「そ、そうじゃなくて! ここまで三人で調べてきたんだから最後まで三人で続けたいだけよ! …まぁでも、健介くんが抜けるなら私と祐希くんで進めるけど~」


「はぁ!なんでそうなるんだよ!変だろ!」


「…」



健介のヤツが突然変なコトを言い出すから心臓が止まるかと思った。


その直後に立花がそれを否定したのは少し残念だったけど、本当は俺のことをどう思ってくれてるのだろうか。



自分が本当に飛鳥から求められているモノを気にする祐希。

少なくとも祐希が飛鳥を気にする気持ちは以前よりも強まっていたのだ。


なんにせよ結果的にラジオの調査は三人で続けられることになり、三人は翌日も放課後に集まって話し合うことになった。

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