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【5月26日 12:13分】

なんとか秋元達を旧校舎に忍び込ませることに成功した祐希達。


その日は日曜日ということもあり、旧校舎はおろか新校舎の方も静かだった。


若干の生徒の姿は校庭の方にあるものの、球技に夢中で旧校舎に向かってくるような気配は皆無だ。


健介は旧校舎の裏口から校舎内に入ると、人目を避けるようにして案内を続ける。



「この部屋で声が聞こえたのね?」


「…ここで見つけたラジオから変な声が聞こえたんだ」



健介が秋元達を案内したのは、初めて祐希と一緒にラジオを見つけた二階の倉庫だった。


本当は一階の階段付近が一番強く例の声が聞こえて来る場所だったのだが、健介は人目につきにくいという理由から二階にある倉庫に案内したのだ。


加えてこの時点で既に三人はラジオの声のことなどはどうでもよく、さっさと秋元達から解放されたいという気持ちの方が寧ろ強くなっていた。



「さて、どんな声が聞こえるのか楽しみね。お願いだから無駄骨だけはゴメンよ。それにしてもこの校舎…雰囲気だけはバッチリ♪」



秋元は旧校舎のロケーションに満足すると、さっそく取材スタッフ達に持ち込んだ音響機材の設置などを命じる。


こうして怪音の調査が祐希達の望んでいた形とは異なる状況で開始されることになってしまう。



「さぁ、問題の旧校舎にやってきました…昼間だというのに不気味な雰囲気ですね。これから声が聞こえたという部屋に高性能な―」



秋元達はその場でロケを始めると、持ち込んだ機材の説明をしながらそれを室内に設置していく。


だが、どれだけ高性能な音響機材を設置してもラジオから聞こえた様な音を拾えることは無かった。


そして、調査が始まってから約四時間。

ついに痺れを切らした秋元が飛鳥に詰め寄るという最悪の事態になってしまう。



「……ねぇ、ホントに声なんて聞こえたの? どの機材もパターンも場所も全く反応しないじゃない!…どうなの飛鳥ちゃん?」


「そんなこと言われても…」



倉庫だけに限らず、結局は人目につくリスクを抱えながら旧校舎の様々な場所を調査した秋元達。


例の階段周りも調査されたのだが、特に機材に反応は無かった。


あれ程にラジオが異常な反応を示した場所も沈黙しており、結果的にラジオから聞こえたという声は未だに拾えてはいなかったのだ。



(やっぱりあのラジオじゃないとダメなのか? それとも声が聞こえなくなっただけなのか…いや、今はそんな事よりこの人達だ)



このまま諦めて帰ってくれれば良かったんだけど、秋元さんは諦める所か逆にムキになって飛鳥に理不尽に詰め寄る。



「ねぇ! 飛鳥ちゃんを信じて調査してるのよ!」


「えっ…それはラジオがないとダメだって…それでも試したいって言ったのはアナタ達で…」


「はぁ? だったらそれ持ってきてくれない? 手ぶらで帰る訳にはいかないのよねぇ」


「えっ…」



ラジオが無いと声は聞こえないという飛鳥に、それなら秋元はラジオを持って来いと無茶な命令をする。


すると飛鳥は涙目を浮かべながら困った顔で無理だと即答した。



「そんな! 無理よ! 先生達が持っているのは確かだけど…何処にあるのかまでは分からないし…」


「…だったら職員室にでも忍び込んで探してきなさいよ! 早く!」


「いやぁ…」



大人げなく飛鳥に詰めよる秋元。


完全にストレスでタガが外れている様子であり、秋元の本来の歪んだ性格がどんどん表層に現れて来る。


一方の飛鳥は、秋元に詰め寄られて思わず恐怖でその場にしゃがみ込んでしまった。


それに怒った祐希は二人の間に割って入り、勇気を振り絞って秋元に意見する。



「ちょっと待ってください。ラジオを持ってくるなんて約束してないじゃないですか! いい加減にしろよ!」



もともとそんな約束じゃなかったと主張する祐希だが、既に秋元はまともに話が通じるような様子では無かった。


子供相手に更に無茶苦茶な要求を付きつける。



「それなら今すぐ声を聞かせなさいよ! こんな田舎までわざわざ来てるのよ…これじゃユズテレビに映像売れないじゃない! 途中で成果だせないと打ち切られれるし…あぁーもう!」



うっかり口を滑らせた秋元。

実は秋元達は正規のユズテレビに勤務しているスタッフでは無かったのだ。


車内での電話は番組ディレクターからの催促の電話であり、上物のネタが手に入らないなら手を引くと脅されていたのだ。


既に20県近い地域で怪奇現象の取材を進めてきた秋元達は、ここで仕事を打ち切られれると取材費用は経費として精算できず大損してしまう状況だった。


そして、秋元達がユズの社員でないことにいち早く気が付いた飛鳥は顔を上げてすぐにそのことを指摘する。



「!? どういうことですか? 秋元さん達はテレビ局の人じゃないんですか?」


「そ、そんなことどうでもいいでしょ…そうだ、健介くん…そこで苦しそうに泣いてみてよ。アンタが一番コスト掛かってるんだからさぁ!」


「か、勝手に奢っておいてセコイぞブスババァ! それに、そんなことしていいのかよ!」



飛鳥の指摘に話題を反らそうと考えた秋元は今度はその矛先を健介に向け、なんと健介にその場で声の泣き真似をしてみせろと要求し始めた。


完全に暴走し始め、今度はやらせを命じる秋元に喧嘩腰で反論する健介。


すると、怒った秋元は取材クルーの制止を振り払って健介の胸元を両手で締め付け始めた。



「誰がババァですって!? このクソガキ!私はまだ二十代のお姉さんよ!イイから泣いて見せろよクソガキぃ! こっちは例のラジオの声がどんな風に泣くのか知らねぇんだよ!」


「んぐぅ…やめ…ろぉ…苦しぃ…離せぇ…」



元々イライラしていたこともあり、そんな状態で容姿を馬鹿にされた秋元は余程それが許せなかったのか、本気で健介の胸元を絞めて身体を持ち上げる。


それには取材クルーも見かねて強引に秋元を止めに入るが、秋元はムキになって決して手を放そうとしなかった。



「秋元さん! それ以上はマズいですよ! 手を出したら誤魔化せなくなります!」


「うるさい! この田舎小僧にはこれぐらいの躾が丁度いいのよ! ほら苦しいでしょ!泣けよ!泣けよ!! 苦しいって泣けえぇええええええぇ!!」


「おい! 健介を離せ!」



まるで何かに憑依されたかのように発狂し始める秋元。

祐希も取材クルーと共に秋元に掴みかかるのだが、健介を中々救い出せずにいた。


だが、そんな混沌を極める修羅場に大きなノイズ音と【あの声】が響き渡る。



「…ケテ……クル……アツ…ニゲ…」


『!?』



それは例のラジオから発せられた声だった。

その声を聞いたその場に居た全員が硬直し、秋元も健介を掴んでいた手を思わず放す。


そしてその直後、何者かの怒鳴り声がその場に響く。



「何を騒いでいる! お前達!生徒になにをしてるんだぁ!」


「校長先生!?」


「ッ!? に、逃げるわよ!」



その怒鳴り声の正体は、何故か例のラジオを持って旧校舎を巡回していた校長のモノだった。


校長は襲われているように見えた祐希達を見つけ、取材スタッフ達を物凄い剣幕で怒鳴りつける。



「何者だ!ここで何をしている!」


「急いで!アンタは時間稼ぎ!」



その声でハッと我に返った秋元は、自分で騒ぎを起こしたにも関わらず取材スタッフに退散を指示した。


そして、秋元達が慌てているスキに三人は校長の元に逃げ出す。


それから取材スタッフ達は慌てて機材を回収し、時間稼ぎを任されたスタッフは収音マイクを武器にして校長と対峙。


数で劣ると判断した校長は強引に抵抗しようとはせず、生徒達を身を挺してその身体で覆い隠してスタッフを牽制した。


また、校長が持っている例のラジオからは、両者が対峙する間も不気味な声のようなモノが周囲に響き渡る。


そこは偶然にも、例の階段に近い場所だったのだ。



「これで全部だ! ほら急げ! おいラジオなんて放っておけ! どの道こんなんじゃお蔵入りだ!」


「でも!…くっ…」



撤収の準備が整うと、スタッフ達は校長と祐希達を放置してさっさと旧校舎から逃げ出して行く。


そんな状況でも秋元だけは名残惜しそうにジッと問題のラジオを見つめていたのだが、もう放送では使えないとスタッフの一人に言われて諦めがついたのか、他のスタッフを追って旧校舎の裏口の方に走り去っていく。



やがて、完全に秋元達の気配が消えると、校長は怯える三人にケガはないかと問いかけた。


「ふぅ…どうやらそのまま逃げ出してくれたか…流石に私も大人三人相手は分が悪いからな…運が良かった…さぁ、ケガはないか君たち?」


「うぅ…校長先生ぃ…」


「ところで、どうして旧校舎なんかに? いや、まずは向こうの校舎に移動しよう…ここは色々と【今は騒がしい】からな…」



秋元達が去った後も怪音が鳴り響いていた状況だが、それどころではなかった三人は泣きわめきながら校長に縋りつく。


そして、四人は寄り添いながら日暮れが迫る旧校舎を後にした。


ラジオの怪音もやはり旧校舎を出る頃には収まっており、それから三人はケガの有無の確認も含めて新校舎にある保健室に連れていかれる。

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