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【5月22日 15:17分】

新校舎の中を慌てた様子で走る南雲。

その様子は多数の生徒達に目撃され、祐希達も教室に戻る際にその姿を目撃していた。



「はぁはぁ…大変です! 旧校舎で…旧校舎で変な声がぁ! ラジオがぁ!」



ガラッと勢いよく開かれる職員室の扉。

中に居た教職員達は何事かと一斉に南雲に視線を送る。


そして、職員室に駆け込んだ南雲は慌てふためきながら、その場にいた教師達に助けを求めた。


教師達がそんな南雲の様子に戸惑う中、南雲は震えた手で例のラジオを掲げる。


だが、その手に持っていたラジオは既に沈黙していた。



「このラジオから…声が…旧校舎で…事件です…はぁはぁ…」



その後、ラジオから出てくる謎の声で校内は大騒ぎになる。


南雲の証言を受け、念のために全ての学年の生徒達は各クラスで担当していた引っ越し作業を中断。


祐希達のクラス同様に全員が新校舎にあるそれぞれの教室に戻されそのまま6時間目の時間が自習となった。


幸いにも旧校舎で作業していた生徒は確認されず、その間に職員室では南雲への状況確認が行われる。



「落ち着いてください南雲先生。話を聞いた限りでは、ラジオの音というのは何処か校外の電波を拾っただけでしょう」


「は、はい…でもあれは普通じゃ…普通じゃないんです!」


「と、とにかくまずは我々で旧校舎方面の調査を―」



慌てふためく南雲に最初は大げさだと半信半疑だった教師陣だが、その後に数名の教師が揃って旧校舎に声の確認をしに行ったことで事態はさらに大事になっていく。


当初は近くで事故が起きたのではないかという話や、石炭の採掘場で落盤があったのではないという話にも発展。


だが、奇妙なことにラジオから聞こえる声の発信源はどうやら旧校舎からのものであると最終的に断定された。

 

その理由としては、ラジオの音は旧校舎の敷地を出るとパタリと鳴り止み、それはどの方角からでも同一の反応だったのだ。


このことから、電波の発信源が旧校舎であると教師陣は判断した。



「それにしても不思議ですね…あの不気味な声の様なモノは旧校舎から発信されているみたいで…」


「移転でバタバタしていなければ、他のラジオも集めて調査できるのだがな」


「所在不明の生徒などはいないそうじゃないですか? そうなると旧校舎に誰か忍び込んでいるのではないですか?」


「役場の方にも電話で確認しましたが、落盤事故の報告などは上がってないそうですね」


「とにかく旧校舎をさらに調べてみましょう。もう状況的にあそこしか考えられない…それにしても不気味な声だった…」



職員室にてそれぞれ各々の確認した情報を共有していく教師陣。


結果的に、具体的な被害がないことから事件性はないと判断されたものの、南雲も含めた一部の教師は旧校舎で聞いたラジオの不気味な声に萎縮していた。


この時点では旧校舎の隅々まで問題のラジオを持ち込んでの探索は行われておらず、次は総出で旧校舎の中にあると推測された発信元を探すべきだという声が上がる。


一方で、すぐに警察を呼ぶべきだという声も上がっていた。



「もう警察に任せた方がいいのでは? イタズラにしても万一のこともありますし…」


「何も起きていない状況で警察ですか? それこそ笑いものですよ! とにかくあの不気味な声は旧校舎から出ているんです! 今度は隅々まで探して…」


「いやいや、生徒の無事も確認されてるんですよ? 被害がないのですから放っておきましょう。きっと悪趣味なイタズラに間違いない」



意見が割れてしまい、中々結論を出せずにいた教師陣。

やがて校長が浮足立つ教師陣達をまとめ始めた。



「みなさん静粛に! とりあえず、クラス持ちの先生方は先に教室に戻ってください。それそろ下校時刻も迫ってますからね。それに、先ほどから生徒達も騒ぎを聞きつけて騒ぎ始めています。とりあえず旧校舎の方は私と教頭や一部の先生方でこれから改めて探索してみましょう。それでも問題が解決しないのであれば警察に相談…という形で連絡ですかね…」



校長はクラス持ちの教師を自分の教室に戻し、自分を含めた数人の教師で旧校舎の探索を行うと説明して問題のラジオを片手に旧校舎に向かうことになった。


それを聞いた南雲は旧校舎の探索を免除されてホっと胸を撫でおろしながら、祐希達の待つ自分のクラスの教室に向かう。



「校内でトラブルがあった件だが、今も校長先生達が調査を続けている。みんな、今日はこのまま真っ直ぐ帰宅するように! いいな!」



教室に戻った南雲は、簡単に状況を説明すると生徒達にそのまま帰宅するように指示を出す。


大部分の生徒達はそれに従って帰宅し始めたが、祐希達と一部の生徒は興味本位でHRの後に何があったのかと南雲を問いただした。



「先生!あの後どうしたんだよ? 何かあのラジオのこと分かったのか?」



あの後のことが気になっていた健介は南雲に状況を尋ねるが、南雲は調査中の一点張りでまともに答えようとしなかった。


そもそも、南雲は祐希達を引き返させた後に自分も怖くなって逃げだしており、何も状況を把握できていないのだ。


答えたくても答えようがなく、ラジオの件は校長達が調査しているとだけ健介に伝えた。



「あーそれは…校長先生達が調査中だ! 俺も詳細はまだ…」


「まさか先生…あの後ビビッて逃げたりしてないよね? さっき引き返すときとに走る先生を見たような…」



何も知らない様子の南雲に、逃げ出したのではないかと問い詰める祐希。


現に祐希達は廊下を全力疾走する南雲らしき人物の姿を目撃しており、疑いの目を向けていた。



「そ、そんな訳ないだろう! ちゃ、ちゃんと先生も…その…あの倉庫を調べたぞ…と、とにかく今日はもう帰りなさい!」



南雲は恐怖で逃げ出したことを慌てて誤魔化すと、教卓の周りに集まっていた生徒達を強引に解散させてそのまま帰宅させる。



「なんか凄い騒ぎになっちまったな祐希」


「そうだなぁ…まさかここまでの騒ぎになるなんて思ってなかったよ」



南雲に無理やり解散させられ、渋々帰路につく祐希と健介。

二人は移住組で家が近く、帰るときもいつも二人一緒だった。


道中、ラジオのことについて語り合う。



「あれさ、幽霊だったのかな? 俺、最初にラジオに触った時に別にちゃんと声を聞いて無かったんだけど、さっきのはヤバかったよな」


「えっ…健介もちゃんと聞いた訳じゃなかったのか?」



てっきり俺は健介も立花みたいに助けを求める声をハッキリ聞いたのかと思っていた。


どうやら俺と同様に健介も途切れ途切れだったらしく、ちゃんと声を聞いていたのは立花だけだったことが分かった。


すっかり人助けだと思い込んでいたけど、あの声の様子からもその可能性は完全に消える。



「なんだよ、そうなると立花のヤツが勝手に勘違いしただけかよ…まぁ、幽霊騒ぎの方が全然面白いけどなぁ!」


「明日には何か分かるんじゃないのか? 今頃、校長先生達が旧校舎を調査してるんだからさ」


「テレビ局とか取材来るかな? 最初に見つけたの俺達なんだから取材されるかな?」



ラジオの件を怪奇現象の類だと認識した健介は、今度は別の意味で浮かれ始める。


だが、祐希はどこか不安げな表情を浮かべていた。



(俺は人助けの方が良かったなぁ…こういうの苦手なんだよ…それに―)



実はオカルトの類が苦手な祐希。

健介は実害さえなければ問題ない様子だったが、祐希は苦手であること以外にも不吉な胸騒ぎも同時に感じていたのだ。


一方、旧校舎の校内では南雲の言うように校長を含めた数名の教員による調査が行われようとしていた。


しかし、どういう訳か調査が始まって間もなくして、何故か旧校舎から次々と出ていく教師達。


理由は不明だが、どうやら調査は早々に打ち切られた様子だった。

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