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【5月31日 16:20分】

旧校舎での張り込みが始まって既に四日が経過。

校長はおろか、旧校舎を訪れるものは皆無だった。



「今日で四日目か…流石にやる事なくなって来たよな」


「あら、授業の予習でもすればいんじゃない?」



流石に暇を持て余し始める三人。

もし、日中に校長が旧校舎を探索していれば全て無意味なのだが、この張り込みは三人が現状で行える唯一の対応策だった。


更にこの日は週末の金曜日でもあり、この日現れなければ土曜と、特に日曜の張り込みは憂鬱そのものだった。


する事がなくなり、飛鳥は健介に授業の予習を進める。

だが、健介はその提案を一蹴しようとしたその時だった、遂に四日間の張り込みが報われ、調査が進展する時が訪れる。



「嫌だよ!なんで放課後まで勉強―」


「静かに!…誰か来た!」



物音に反応した祐希は健介を黙らせると、隠れ潜んでいた空き部屋の扉を覗き見る。


すると、祐希の視線の先にはラジオを持って旧校舎に入って来た校長の姿があった。


さらにその手にあるラジオからはジージーとノイズ音も響いている。



「!?」



静まりかえった旧校舎に響く校長の足音とラジオのノイズ音。

その光景に思わず笑みを浮かべる三人。



「見ろよ…ついに校長がやってきたぞ…」


「ラジオも鳴ってるわね。何処に向かっているのかしら?」



三人はゆっくりと潜んでいた部屋から抜け出すと、物音を立てないようにこっそり校長の後をつける。


幸いにもラジオのノイズ音が助けになって多少の物音では気付かれることはなかった。



「…ケテ…テ」



以前の様に、最初はノイズ音しか聞こえなかったが、徐々にその音量や内容が変化していく。


次第に【あの声】が廊下に響き渡る様になり、祐希達の耳にも不気味な声がハッキリと聞こえる。



「…アツイ…チカ…タスケテ…」


「今の聞いた!? チカ…人の名前?」



初めて聞こえた単語に反応する飛鳥。


人の名前ではないかと考えるが、健介は地下のことではないかと指摘する。



「人の名前じゃなく地下の事じゃないか? どうなんだよ立花。お前は村生まれだから詳しいだろ?」


「そ、そうだけど…でも、旧校舎に地下なんてあったかしら…聞いたことないわ」



だが、飛鳥の知る限りでは旧校舎にそもそも地下など存在せず、そんな話も聞いたことがないと返答する。



「クルシイ…アツイ…タスケテ……ハ…チカニ…ニゲテ…」



やがて校長は階段下にある小部屋の前で歩みを止める。


そこは以前に祐希達が担任の南雲とひときわ大きなラジオの声を聞いた場所の近くだった。


校長はその部屋の施錠を解除すると、部屋の中にラジオを持ったまま消えていく。



「あの部屋の中に何があるんだ?」



三人は校長が部屋の中に入ったのを見届けると、そっと扉の前に近づいて耳を当てて中の様子を探る。

すると、ラジオの声に混じって校長の話声が聞こえて来た。



「ごめんね…ホントにごめんね知也くん…一人で寂しかったよね…」


(…トモヤ?…誰かの名前なのか…)



中からは校長先生の声しか聞こえなかったが、あきらかに何者かに話しかけている様子だ。


だが、室内からは校長の声しか聞こえない。



「もう少しで準備できるから…そしたらちゃんとおくってあげるからね…」


(何を言ってるんだ校長先生は??? ラジオと話してるのか???)



それから暫く校長は部屋の中で黙り込む、その間もラジオからは大きな音で悲痛な声が響き続けた。



「タスケテ…クルシイ…アツイ…モウダメダ…ダレカタスケテ…ハ…チカニ…ニゲテキタ…ナイ」



助けを求めながら、地下で熱さに苦しんでいることを伝えるような声。

そしてそれから暫くすると、中から何かの軋む大きな物音が響き渡る。



「あぁ…これだったか…はぁ…年を取ると何をするにも不便だなぁ…けど、これで…」



何かをやり遂げた様な校長の独り言。

それ以降、扉の奥から校長の声だけでなくラジオの音も何故かパタリと聞こえなくなってしまう。


三人はそのまま暫く扉の前で聞き耳を立てていたが、程なくして飛鳥が答えを求めるが余り我慢出来ずにドアノブに手を伸ばす。


祐希と健介は慌ててそれを静止しようとするのだが、一瞬遅くゆっくりと木製のドアが開かれた。



「ッ!!…」



ドアが開いた瞬間、咄嗟に目をつぶる祐希と健介。

逆に飛鳥はジッと室内を凝視する。


だが、室内には飛鳥が期待していたような光景は広がって居なかった。


遅れて二人も目をあけて室内に足を踏み入れるが、そこは見当たす限りなにもない空き部屋だったのだ。



「どうして…この部屋に何かあると思ったのに…なんで!?」


「校長先生も消えた? 確かにこの部屋に入ったよな?」



忽然と消えた校長を探して暫く三人はその無人の部屋を探索するのだが、室内が薄暗いこともあって地下への入り口なども見つからず途方に暮れてしまう。



「あと一歩だったのに! それに校長先生は絶対旧校舎の地下に何かを隠してる! そしてそれは口外したくないもの…だからスグに調査を打ち切って聞き間違えなんて言ったのよ」


「地下には何が…もしかしてやっぱり生徒の死体とか!?」


「だからそれは…どうなんだろう。あのトモヤって名前は生徒名前なのか?」


「きっと殺したから謝ってたんだよ!でも、許してもらえずにあの世に連れて行かれたんだ校長先生は!」


「そんな馬鹿な!」



どんどん話が飛躍していき、ついには校長が児童を殺害して旧校舎地下に埋めているという話にまで発展してしまう。


しかも、健介は校長が急に消えたのは神隠しだと騒ぎ出す。


祐希はそれを否定するが、飛鳥は真剣にその説を考察した。


「でも、あり得るかもしれない。それと、殺された生徒の霊がラジオにメッセージを送っているのよ! この床の下…どうにかして調べられないかしら…絶対に何かあるハズよ。それに…もう校長先生が関係者なのは確実」



特定のラジオでしか声が受信できないという謎も多く残っているが、校長がラジオの件について何か関係があるのは明白となる。


謎の解明に迫る三人だが、その瞬間に部屋の外から三人を呼ぶ声が室内に響いた。



「…あっ!やっぱり帰ってなかったなお前ら! 放課後に旧校舎に入っていくのを見かけたから見回りのついでに来てみれば…もう下校時間は過ぎてるぞ!」


『せ、先生!?』



それは担任の南雲の声だった。

南雲は三人が放課後に旧校舎に入り込んだのを偶然見かけていて、まさかと思い校内巡回のついでにわざわざ旧校舎にやってきていたのだ。


三人を旧校舎の中で見つけると、下校時刻は過ぎていると告げて校舎から追い出そうとする南雲。


校長の尾行に夢中になっていた三人は、とっくに下校時刻を過ぎているの事に気が付いていなかったのだ。


辺りも気付けば薄暗くなっていて、旧校舎の中は暗闇に包まれようとしていた。


しかし、今はそれどころでは無いと三人は南雲に駆け寄る。



「先生!それよりも聞いてください! 校長先生が消えて!それで、この部屋の地下にー」


「はぁ!? な、なにを言ってるんだ立花!」


「この地下に生徒の死体があるんです! 調べてください先生!」



余りにも非現実的な発言に戸惑う南雲。

消えた校長に地下室や死体のことなど、三人の証言は到底信じられないような内容ばかりだったからだ。



「旧校舎の下に死体だって!? そんなバカな!適当なことを言うんじゃない!」


「本当なんです先生!トモヤって子が地下に居るんです!」


「ト、トモヤ? どこのクラスの生徒だ? 知っているのか?」



具体的な生徒の名前を聞き、何処のクラスの生徒か尋ねる南雲。

少なくとも自分が把握している限りでは聞き覚えの無い名前だったのだ。



「いえ、校長先生がそう言ってて…」


「…騒がしいですね……はぁ、やはり君たちですか…それに南雲先生まで」


『!?』



室内から消えた校長の声が響く。


ふと祐希達が声のする方に振り向くと、突然床板の一部が外れ、なんとそかこら校長が姿を表したのだ。



「こ、校長先生!? ど、どうして床から…ま、まさか本当に地下で生徒を!?」


「? 何を言ってるんですか南雲先生」



地下から現れた校長を目にした南雲は、本当に校長が地下で児童に何かしているのかと思い恐怖でガクガク震え始める。


だが、現れた校長の様子はどこか落ち着いていた。

そして、不意に現れた校長は驚く四人を暗い表情でジッと見つめながらボソりとこう静かに呟く。



「…さてさて、どうしましょうかねぇ」



今更だけど、俺達は知ってはいけない事を知ってしまったのかもしれない。


実在した地下室や、そこに隠されている何か…ついに俺達は怪奇現象の正体に迫ることに成功した。


だが、それと同時にこのまま無事に帰るのかと考えてしまう。

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