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殺し屋空(そら)  作者: サエキ タケヒコ
7/7

7 青空



 ワタシは病院の庭で陽葵の車椅子を押していた。


「さっきの話だけど、どうして王子様へのお礼のプレゼントを私が描いた肖像画にしたと思う?」


「どうしてなの」


「見ず知らずの私のために大金を寄付してくれるなんて、私の王子様はものすごいお金持ちだと思うの。だから欲しいものは何でも持っているはずなの。だから他所では売っていない私が描いた肖像画にするの。でも、もうひとつ理由があるの」


「もうひとつ?」


「その人に会いたいの。会って直接お礼をいいたいの。本当はすぐにも会いたいんだけど、お母さんも先生もそれは無理だというの。きっと偉い人ですごく忙しいんだと思う。だから、将来私が美大に行って画家になったら訪ねて行こうと思うの」


「どうして、そんなに会いたいの?」


「だって、私の命の恩人だよ。それに、私ね。お父さんがいないの……。ずっとそれが寂しかったし、友達と比べて私は不幸だと思っていた。でも、不幸なんかじゃなかったの。だってね。本当のお父さんだって、私のような難病の手術代を出せる人なんてほとんどいないって先生が言っていた。本当のお父さん以上のことをしてくれる人が、どこかにいて私のことを見守ってくれていたんだよ。私は不幸じゃないし恵まれているの。だから、その人に一度でもいいから会って、直接お礼を言いたいの」


「そうなの」


 ワタシの脳裏に阿部孝之の最後の姿が浮かんできた。



 監視カメラが無く、人通りもないので目撃者もいない通りを打ち合わせの通り、一人で阿部孝之は歩いていた。


 ヘッドライトを点灯させて、合図を送った。


 阿部孝之は道路の中央に出てきた。


 アクセルを踏み込んだ。


 間違い無く死なすことができるように加速した。


 阿部孝之は振り向いてワタシを迎えるように両手を開いた。


 その十字架のようになった身体に車が衝突した。


 阿部孝之の身体が跳ね上げられた。


 目が合った。


 そして、阿部孝之は地面に叩きつけられた。


 ワタシは車を停車させた。


 車からおりると、手袋をした手で状態を確認した。


 絶命していた。




「阿部真理愛さん」


 ワタシは現実に戻った。


 陽葵が心配そうに車椅子からワタシを見上げていた。


「どうしたの?」


「うんうん。なんでもない」


「私の話を聞いていてくれた?」


「もちろんよ」


「だから、私、美大に進学できたら一生懸命努力して、忙しい億万長者の私の王子様に会ってもらえるような有名な画家になるの」


「陽葵ちゃんなら、きっとなれるわよ」


「本当?」


「ええ」


「嬉しい。早く私の王子様に会いたいな」


「会えるといいわね」


 陽葵を病室まで送り届けると、病院を出た。


 病院の外でウィッグや眼鏡をはずした。


 人はたくさん殺してきたけど、人を殺して人を救ったのは初めてだった。


 なんだか自分が自分でないような変な感じだった。


 風が吹いてきた。


 見上げると空はどこまでも青かった。




ここまでお読みいただき、ありがとうございました!


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