3 対象者との対決
「あなたを殺しに来ました」
ワタシは一人きりで会社に残って仕事をしていた対象者にいきなりそう言った。
対象者はノートパソコンの画面から顔を上げた。
「そうですか」
「驚かないの」
「いや、驚いています。あなたのような美しい女性が、そんなことを言うことに」
「それ私を口説いているの?」
「口説いているとしたらどうしますか」
「ホテルに一緒に行ってもいいわよ」
「なるほど」
「冷静なのね」
「そうでも無いです」
「まるで、私がホテルでSMプレイ中に事故であなたが死んだことにしたり、あなたが若い女性にハッスルしすぎて心臓発作を起こして腹上死したことにするのを予想していたみたいね」
「そういうつもりだったんですか」
「そういう死に方は嫌?」
「その……、腹上死はちょっと……」
「お気に召さない?」
「はい。遠慮したいです。それにしてもあなたのような若い方がハッスルなんて言葉を使うのですね」
「ああ、それは阿部さんの世代に合わせて分かりやすい言葉を選んだけよ。普段は使わないわ」
「そうですか」
「SMプレイならいいってこと?」
「できれば、ホテルでのプレイ中の事故死はやめていただけませんか」
「奥さんにそんな死に方をしたのかと思われるのが嫌なの?」
「妻とは別れました。どう思われようと構いません」
「じゃあ、別れた奥さん以外にそんな死に方をしたと思われたくない人がいるのね」
「答えたくありません」
「それにしてもあなた変わっているわね」
「そうおっしゃるあなたも」
「やっぱりそうだったのね」
「何のことですか」
「このミッションの依頼者はあなたでしょ」
ワタシはこのやり取りで確信した。
だが、対象者は沈黙したままだった。
「素直に白状しないとどうなると思う」
「分かりません」
ワタシは手袋を両手にはめた。
そして懐から自動拳銃を取り出すとスライドを引いた。
弾倉から弾が装填された。
銃口を対象者に向けた。
「あなたもそんな殺し方をするんですね」
「違うわ。この銃のトリガーはね。あなたが引くの」
ワタシは銃口を対象者のこめかみにつけて、対象者の右手をつかんだ。
初めて対象者に焦りが見えた。
「やめろ! 何をする!」
「あなたは会社の経営に行き詰まり、今晩自殺をするの。この拳銃はあなたが昔タチマチをしてた政治家が懇意にしていたヤクザから譲り受けたもの。年代物の自動拳銃だけどよく手入れされているから、死ぬのには何の問題もないわね」
「やめるんだ!」
さっきまでワタシが殺すと言っても眉一つ動かさないでいた対象者が、必死に抵抗し始めた。
目にはうっすら涙すら浮かべている。
「お願いだ。そんな風に殺さないでくれ。頼む」
「なら本当のことを言って」
「言う、何でも言うし、何でもするから、頼むからそれはだけは止めてくれ」
ワタシは拳銃を下ろした。
「じゃあ、話してもらうわよ」
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