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第4章 第6話 ハロウィン

「それじゃあ、いってきます」


 ギルドカードを作成した翌日朝10時。私たちはミューの暮らす屋敷に集まっていた。今日クルクルトラップダンジョンに出発するのは私、イユ、ショウコの三人だけ。翌日に出発するフィア、ミュー、スーラのためにテレポートゲートを残しておかなければならないため、外の世界を基点にする必要があったのだ。



「大丈夫か、ユリー。食料は持ったか? 水に……怪我薬も……」

「心配しなくていいって。何かあったらテレポートゲートで脱出するし」


 クルクルトラップダンジョン内では魔法は使えないが、魔力を使わないダンジョンブックの能力は使えるはず。だから私には何ら問題はないのに、和解後急に過保護になったミューがやたらと荷物を持たせようとしてくる。



「そうですよっ。ユリーさんはわたしが守りますっ」

「いやフィア行くの明日じゃん……」


 なぜかドヤ顔で大きな胸を張っているフィア。本当なら私もイユなんかじゃなくてフィアと一緒に行きたいけど、人間を操る能力が効かない私じゃないとショウコは制御できないのでこういう組み合わせになったのだ。



「でも約束したじゃないですか。外にいる間はわたしがユリーさんを助けるって」

「ああ、ミストタウンに行く前ね。まだ有効なんだ」

「当然ですっ。ユリーさんはわたしの命の恩人なのでっ!」


 命の恩人、ね。なんだかんだ私の方がフィアに助けられた数は多いと思うんだけどなぁ。



「じゃあ危なくなったらフィアを呼ぼっかな。絶対助けてね」

「はいっ。お任せくださいっ!」



 よし、これでやるべきことは済んだ。後は知識欲に身を任せるだけ。



「いくよ。イユ、ショウコ」

「はいはーい」

「っしゃぁ、ファンタジー!」


 そして私たち三人は魔法陣を抜け、遠く離れた図書館へと向かう。だが目の前に飛び込んできたのは、



「何これ……」


 場所は地図で確認したクルクルトラップダンジョンのはずだし、事前情報通り先に鬱蒼とした森が広がっている。でもその前。小さな家屋の手前にある物体の知識がない。



 赤い門。そう形容するのが一番正確な気がするが、扉が存在しない。石でできた道を挟むように二本の柱が建っており、上部が二本の赤く塗られた木で繋がっている。こんな門、見たことがない。というか存在意義がわからない。テンションフルブースト! また調べる楽しみが増えた……!



「鳥居じゃん。異世界にもあんだね」

「うえっ!?」


 正体不明の門にテンションを上げていると、ショウコが興味なさげにつぶやいて一人先に進んでいってしまった。



「ちょっ、ちょっと待ってっ! ショウコこれ知ってるのっ!?」

「え? まぁ普通に……」

「イユはっ!?」

「んにゃー、知りませんねー」


 ということは、ショウコがいた世界にしかなかった物体ということになる。でもなんで? なんでそんなものがここに……。



「いらっしゃい」

「うわっ!?」


 鳥居という大きな門を見上げていると、小屋から女の子の声がした。



「ここは普通の人は入れない。冷やかしなら帰って」



 そう冷たく伝えてきたのは、小屋から出てきた少女。ぱっつんの前髪に、髪を後ろで纏めた12歳くらいの少女は、それだけならどこにでもいる普通の子どもだが、服装がどうにもおかしい。


 白いシャツのような服は、人型モンスター、セイバのものと似ている。あれは和服というこの世界には存在しない衣服のはずだ。しかしそれがワンピースのように腰下まで繋がっているのではなく、裾が大きく広がっている赤いミニスカートを履いている。しかしその形状も普通のものとは大きく違う。紐のような布を腰に巻いており、やはりこれも意味不明な……、



「巫女さんもいるんだ」

「うぇっ!?」


 ま、またショウコだけ知ってるもの……!? どうなってるのここ……!



「あ、でもコスプレだよ。ちゃんとした巫女さんは袴っていう足首まで届く服のはずだから」

「へ、へぇー! もっと詳しく教えてっ!?」


「んー、私も全然詳しくないけど、神聖な職業だよ。神社で祈祷とかしてるんじゃないかな」

「つまり普通の人じゃ着れないってこと!?」


「あ、でも私バイトで巫女になったことあるや」

「うぇぇっ!?」


 い、意味がわからない……! どうなってるんだ、ショウコの世界は……!



「聞こえなかった? 早く帰って」

「申し遅れました。勇者、ミュー・Q・ヴレイバーが秘書官、イユ・シエスタと申します。こちらを」


 無表情でありながら強い圧で迫ってくる少女に、いつになく真面目な口調でギルドカードを差し出すイユ。当然だけどちゃんと秘書官してるんだなぁ……。私も負けていられない。



「私は勇者直か……ミュー・Q・ヴレイバーの遣いの者、ユリー・セクレタリーと申します。……ほら、ショウコも」

「え? あーはいはい。伊勢翔子でーす。チスチス」


 職業こそ名乗らなかったものの、イユと変わらないクオリティの挨拶をした私と、なんかよくわからない挨拶をかましたショウコがそれぞれギルドカードを手渡す。



「……少し待ってて」


 三枚のギルドカードを受け取った少女は眉一つ変えないままそれだけ言うと、すぐに小屋の中に帰ってしまった。



「……とりあえずオッケーなのかな」

「どうですかねー。クルクルトラップダンジョンの管理者、メア・T・シュラインさんは不愛想で有名ですからねー」


「え? じゃああの子がここのトップなん?」

「そうなんですよー。先代管理者のご両親がモンスターに殺害されて、3年前に急遽当主となったそうです。まだ12歳なのに大変ですよねー」


 そんな話をすること5分ほど。何の前触れもなくメアが帰ってきた。



「確認し終えた。入っていい。伊勢翔子以外」


 ギルドカードを私たちに返却したメアは、ショウコにだけ出入り禁止を告げると、さっさと小屋に帰ろうとする。



「なんでっ!? 私も入りたいんだけどっ!」

「どうしますー? またの機会にしますかー?」

「だね。ショウコを一人にはできないし」

「ユリーちゃんたちも何とか言ってよっ!」


 ショウコが騒いでいるが、この結果には納得できる。私とイユには現在それなりの地位があるが、ショウコの経歴は全くの空白。それをこの時間で調べたのだろう。



 だがそれは半分正解で、半分間違っていた。



 私たちは、クルクルトラップダンジョンを。ライブラを舐めていたのだ。



「あなたたちの本を読んだ。青の悪魔はともかく、異世界転生者はクルクルトラップダンジョンには入れない」



 異世界転生者。メアは確かにそう言った。



 服装こそこの世界には存在しないセーラー服だが、それ以外は普通の人間のはずのショウコのことを、知っている。知り尽くしている。



「なんでそれを……? 本って……どういうこと……?」

「言葉通りの意味。本は過去を記すもの。伝記でも図鑑でも物語でも、本にした時点でそれは過去の出来事となる。だから伊勢翔子の本を読めば伊勢翔子の過去が全てわかる」



 説明されても理解できない。いや、理解はできるんだ。ただ納得できない。だってそれじゃあ、



「全ての人間の情報がライブラにはあるってわけ……?」

「人間だけじゃない。モンスター、××(チョメチョメ)トラップダンジョンと呼ばれるもの、魔王に至るまで。この世界。いや、全ての世界の情報を保存しているのが、ここ。大図書館、ライブラ」



 この時私は初めて恐怖を覚えた。



 だって私の魂は。際限なく広がる全ての世界の、全ての情報を。死ぬまで読んでいたいと叫んでいる。



 その底知れない自身の欲望が、恐くて恐くて仕方なかった。

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