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第4章 第4話 遺影

「ファンタジーだぁぁぁぁっ!」


 私が外出を決めた翌日。六人で王都を訪れると、突然ショウコがわけのわからないことを叫んだ。



「テンションフルブースト! ファンタジーってなにっ!?」

「んーと、私もよくわかんないけど、なんか中世西洋的なやつ?」


 中世……西洋……。よくわからないけどこの街並みのことを言うのだろうか。



 ××(チョメチョメ)トラップダンジョンがあるカウン王国の中心地、王都。その街並みは、100年前とあまり変わりはない。


 石造りの建物、張り巡らされた清く穏やかな川、一際高くなった場所にそびえる王様や勇者が暮らす宮殿。私はずっとノエル様の御屋敷の中にいたからあまり出歩いた記憶はないのだが、それでもお使いなんかの今まで記憶の隅に置いていた細やかな思い出が滝のように溢れ出てくる。あ、あの武器屋まだあったんだ。真似がしたくてノエル様に玩具の大剣を買ってもらったっけ。



「ユリー、これを渡しておこう」

 ギルドまでの道を歩いていると、ミューが革製の財布を私に手渡してきた。



「金がないと不便だろう。10万ほど入れておいた。足りなくなったら言ってくれ」

「え、普通にありがとう。どしたの急に」

「なに、当然のことをしたまでだ。ユリーにはたくさん世話になったからな。これくらいはさせてくれ」


 そう言われても……。ていうかこの財布、かなり上等なものの気がする。守銭奴のイユが涎を垂らしながら見てるし、ひょっとしたらお札よりも高額なのかもしれない。



「なんかミューさんキャラ変わりましたね。前はユリーさんを殺そうとしていたのに」

「あたしたち四人とも一度はユリーちゃんを殺そうとしているでしょ」

「そういえばそうですね! あっはっはっ!」


 フィアとスーラが笑っているが、私には笑いごとじゃなかったんだよなぁ。まぁ今はイユ以外とは仲良くなったし、ノエル様と同じ顔のミューに優しくされるのはめちゃくちゃいい気分。割と今の生活、悪くないんじゃないだろうか。仕事さえなければ!



「ここだ。予約はしておいたからすぐ終わるぞ」


 王都を歩くこと数十分。ようやく到着したのは、100年前から全く見た目が変わっていない大きな建物、ギルドだ。



「ほんとにギルドなんてあるんだー! ゲームでやったことあるけど、ここで仲間を作ったりクエストを受注することができるんだよね?」

「大まかにはそんな感じかな。冒険者はまずここでギルドカードを作るとこからスタートするんだよ。まぁギルドカードは身分証明書としてかなり便利だから冒険者以外も作るケースも多いけど」


 ショウコに軽く説明し、ギルドの中に入る。外装こそは前と全く変わっていなかったが、中身はかなり綺麗になっている。昔は野蛮な冒険者の拠点らしく全体的に小汚かったが、今は真っ白。高級な宿のようだ。綺麗な受付に、整えられた掲示板。奥にある酒場も気持ち上品になっている。



「お待ちしておりました、勇者様」

「ああ。この二人のギルドカードの作成を頼む」


 出迎えてくれたのは、イユと同じ赤い秘書官服を着た女性。本来の秘書官は各地のギルドに所属し、冒険者のサポートをするのが仕事。私とイユのような、能力を買われて個人に就くタイプは異例なのだ。



「では青……ユリー・セクレタリー様、こちらへお願いいたします」

 女性は私に受付の中に入るよう促すが……。



「この服着替えた方がいいですか?」

「い、いえ! 申し訳ありませんっ!」


 ……やっぱりそうだ。私、恐れられている。



 現在使われていない青い秘書官服。それは人間にとって恐怖の象徴だ。××トラップダンジョンに潜む青い悪魔として、私は100年間恐れられてきた。ミューが私の事情を国民に説明してくれたとはいえ、やはり信用はできないのだろう。当然だ。今の私は、飼い主が安全だと言い張っている猛獣そのもの。そんな化物が街中を歩いていたら誰しも関わりたくないだろう。



「ならイユちゃんが代わりに受付しますよー。イユちゃんも資格持ってるしー、青の悪魔さんなんかに負けませんしー」

「私にボコボコにされた奴がなんか言ってるよ」

「三人がかりで勝ててそんなにうれしいですかー?」

「はいはい、強い強い。……ありがと」

「いえいえー」


 いつもの調子で悪態をついてしまったが、正直すごい助かる。女性に深く頭を下げ、私たちは受付の奥の真っ白い壁の部屋に入る。



「じゃあまずは全身写真撮るのでー。かわいくポーズとってくださいねー」

「え? 普通胸から上で真顔じゃないの?」

「今は魔法で顔くらいは他人のにできますからねー。その人の表情や体勢なんかの細かい部分を記録するために全身を撮影するんですよー」


 そう言うとイユは自分のギルドカードを見せてきた。いつも通りの眠そうな目に、ぽけーっとした表情と体勢。一生残るものなのにこれでいいんだ。



「でもどういうポーズにすればいいんだろ……」

「ウェイウェイしちゃおう、ウェイウェイっ!」

「ウェイウェイ……?」


 またショウコがよくわからないことを言い出した。とりあえずショウコの言う通り両手でピース作ったけど……。



「なんか、恥ずかしいんだけど……」

「かわいいですよ、ユリーさんっ」

「ああ。すごくかわいいぞっ!」

「……やっぱりあなたキャラ変わったわよね」

「もっと笑って笑って! ウェイウェイっ!」

「はいはーい、じゃあ撮りますよー」


 イユが構えたカメラが大きなシャッター音を鳴らす。



「うぇ、うぇーい……!」



 そして出てきたやけに照れている私の写真を見て、みんなでひとしきり笑った。

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