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第4章 第3話 二度と戻れない日常

「つまり何で異世界転生できたのかはわからない、ってことだね? イセ・ショウコさん」

「うん。なんか気づいたらここにいた、って感じ」


 人間を支配する能力を持つショウコを殺すことはフィアたちには不可能ということが判明し、とりあえずは放置を決めた私たちは、家の中でショウコの事情を詳しく聞くことになった。



「異世界転生のやり方はわからないんだ」

「当たり前じゃん。私たちの世界では異世界転生はあくまで物語の中の話。こんなことになるなんて私が一番驚いてるんだから」


 学校に向かう最中、トラックという鉄の馬に轢かれたというショウコ。もしやノエル様にまた会えるかもと思ったが、現状は無理なようだ。



「ところでショウコは帰れるなら元の世界に帰りたい?」

「まー帰れるなら帰りたいかなー。でもしばらくは異世界で遊びたいっ!」

「ふーん、そっか」


 ショウコと話していていくつかわかったことがある。言葉は通じるが、文字は読めない。人を操る能力は制御不能。そして、



「お紅茶のおかわりをお持ちしましたっ」

「ありがとござまーすっ。いやー、本物のメイドさんにお世話してもらえるなんてマジ幸せっすわ!」


 ショウコがいた世界とモンスターの世界観はそっくりだということだ。


 私が召喚した人型モンスター、メイ。彼女の着ている衣服、メイド服はこの世界には存在しない衣服。それにおむらいすや、からあげなんかの料理も向こうの世界のものらしい。私がセレクトコスチュームのトラップで作ってあげた、元々着ていたのと同じ白いセーラー服もこの世界にはないものだ。



 色こそ違うが、私はセーラー服を着ている生物と三回会ったことがある。まずダンジョンブックで呼び出せるモンスター、セーラ。目の前のショウコ。そして、ダンジョンブックの中で出会った、謎の少女。


 その少女の下へは何度アクセスを試みてもできなくなったが、何か向こうの世界と関係あることは間違いない。



「オープン、セーラ」

「わ、めっちゃひさしぶりっ。ご無沙汰してます、先生!」


 私は人型モンスター、セーラを召喚する。メイたちとは違って何の能力も持たないためほとんど呼び出すことはなかったが、話が変わった。白のショウコ、黒の少女とは違い、紺を基調としたセーラー服を着ている彼女に訊ねる。



「セーラって人間?」

「いいえ、モンスターです」


「異世界のこと何か知ってる?」

「いいえ、なにも」


「どのフロアに住んでるの? 人型モンスターは普通にダンジョンを進んでも出会えないよね」

「うーん、普通の家ですけど」



 だめだ、話にならない。ダンジョンマスターである私の指示は絶対。嘘をつけるわけはないのだが、何だかはぐらかされている気がする。



「オッケー、ありがとう。セーラ、クローズ」

「はーいっ! また呼んでくださいねー先生っ!」


 もう二度と召喚することのないであろうセーラを元の場所に戻し、情報を整理する。



 ショウコの出現により疑問が顕在化したが、その前からずっと疑問には思っていた。知識欲を必死に抑え、無視していた疑問。



 人型モンスターは何者なのか。



 メイやセーラのような人型モンスターは野良では生息せず、ダンジョンの中にしかいない。なのにもかかわらず、普通にダンジョンを進んでいても出会うことはない。ダンジョンブックに載っているだけの不思議な存在なのだ。


 それに加え、人型モンスターには独特の風習が存在している。この世界には存在しない衣服、料理、道具。だがこれは異世界のものだということが発覚した。


 以上のことをまとめると、人型モンスターと異世界転生者には、何らかの繋がりがある。が、そこまで。それ以上を調べることはどうやったってできない。たった一つの手段を除いて。



「……よし、図書館に行こう」

「ユリーさんが自発的に外にっ!?」


 徹底的に調べ上げる決意を固めると、少し離れたソファーに座っていたフィアが立ち上がった。まぁ驚くよね。私だって本当はそんなことしたくない。



「ショウコのことがなくても元から行くつもりだったんだよ。私には100年分の外の知識がない。それを補うには図書館で全部調べるのが効率的だからね」


 だが私の目的地は普通の街中にある図書館ではない。



「クルクルトラップダンジョンに行こうと思う」

「やめた方がいいと思いますよー」


 私の言葉を即座に否定したのはソファーの上でマスケット銃を肩にかけてだらけているイユ。



「イユちゃんもいつか行きたいと思ってましたけどー、いかんせん危険すぎる。だってあそこは……」

「大丈夫、私にはダンジョンブックがあるから」

「……なるほどー。確かにそれなら何とかなるかもですねー」

「あの、わたしたちにもわかるよう説明してもらっていいですか?」


 二人で勝手に納得していると、フィアが困ったように手を挙げた。その言葉に答えたのは、壁にもたれかかっているミュー。



「クルクルトラップダンジョン。ダンジョンと名がついているが、その実態は森だ。モンスター除けと、魔法封じの結界が張られている特別な聖域。その中央にあるのが、この世の全て。この世界の情報全てが纏めてある図書館、ライブラだ」

「? モンスターが出ないなら世界で一番平和な場所じゃないですか。それにそんなものがあるなら誰でもユリーさん以上の知識を持てると思うんですけど」



「あの森には人間を惑わせる結界も張ってあるからな。わかりやすく言えば、迷いの森。中央に近づけば近づくほどその力は強くなり、いまだかつてライブラに辿り着けた人間はいないそうだ」

「それにー、非武装地区なんで武器の持ち込みが禁止されてるんですよー。魔法も使えない、武器も使えない。そんな丸腰の人間を襲うのは、人攫いグループです。あそこはどこの国にも属していないので、法律がないんですよー」



 決してクリアできない未踏の地。まるで××トラップダンジョンのようじゃないか。それを突破できるのは、同じく誰もクリアしたことのなかったこのダンジョンを踏破した私だけだ。



「でも私にはダンジョンブックがある。これは魔法じゃないからクルクルでも使えるはずだし、迷いの森って言ったって必ず法則はある。私の頭脳があれば必ずクリアできるはず」


 ただクルクルトラップダンジョンに行くには一つ問題がある。まぁそれも今の私ならクリアできる関門だ。



「クルクルトラップダンジョンには一つしかないゲートからしか入れない。しかも入れるのは、それなりの地位を持った代表一人と、同行者二人だけ。ということでミュー、ついてきてくれるよね?」


 勇者であるミューならその条件をクリアしている。同行者は私と、現状私しか止めることのできない、人間を操る能力を持つショウコだ。フィアと離れるのは苦痛だが、この知識欲を満たすにはこれしか方法がない。だがミューはなぜか渋い顔をしている。



「本当なら私が行きたいところだが、明日は午後からどうしても外せない会議があるんだ」

「別に明日じゃなくてもいいよ。明日明後日が休みだからちょうどいいと思ったけど、また次の休みにでも……ああああああああっ!」

「どうしたんですかユリーさんっ!? まさかこの女に毒を……!」

「仕事を基準に予定を立てていた自分がっ! 許せないっ!」


 私は何を考えてるんだっ! こんなっ! こんな仕事人間になんか絶対になりたくなかったのにぃぃぃぃ……!



「とりあえずユリーは明日行ってくれ。おそらく勇者の秘書官であるイユでも入れるはずだ」

「「えぇ……」」


 私とイユの声が重なった。お互いに苦手意識を持っていることはわかりきっている。今日会ったばかりのショウコとイユとの三人で旅だなんてごめんだ。



「安心しろ。明後日にはフィアとスーラを連れて合流する」

「やですよー。イユちゃんの仕事は勇者さんの秘書官だしー、そんな危険な場所行きたくないでーす」

「危険手当で50万出そう」

「よーし、イユちゃんに任せとけー!」


 相変わらずの守銭奴ぶりだ。やっぱ嫌いだなー。でもすぐにフィアたちが来てくれるなら我慢するか。



「なら決まりだな。明日の午前中に、クルクルに入るのに必要になるユリーとショウコのギルドカードを作成し、午後に出発だ」

「あー大丈夫。私は持ってるから」

「100年前のだろう。今でも通用すると思うなよ」


 え、これ使えないの!? 今でも大事に携帯してるのに……。せっかくなのでみんなに見せると、フィア、スーラ、イユが笑ったり、哀れんだり、煽ったりしてくる。



「それ、ただの紙じゃないですか。今のはかざすだけでお買い物もできますよ」

「えぇっ!?」


「しかも更新されてない……。100年前のは自動更新機能もないのね、不便な時代」

「ふぎゃっ!」


「でも青の悪魔さんに最新の機能が使えますかねー。なんたって117歳のおばあちゃんなんだしー」

「あぁんっ!?」



 むかつきながらも、楽しくじゃれ合うこの時の私には知る由もなかった。



 この旅で、この中の一人が命を落とすことになることを。

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