第4章 第19話 女王
「3体目の……トーテン……!」
トーテンの内の1体を倒したユリーたちの前に現れた少女のようなモンスター、サーキュン。彼女も魔王軍大幹部の内の1体だった。
(でも8番……ケードやニェオより弱い。魔法は使えないけど、ダンジョンブックだけで何とか切り抜けられるかもしれない)
レディーステンタクルの体液を飲み込み身体が強烈に火照っているとはいえ、ユリーの頭はまだ正常に働いていた。アルハナの時にも発揮した薬物耐性を持っているからだ。
(あのだらしない顔を見る限りイユはもうアウト。私が何とかしないと)
堕ちたフリのためにイユの真似で涎を垂らしながら、ユリーはサーキュンの様子を窺う。彼女はユリーたちを奴隷にすると言っていた。殺されないならチャンスはいくらでもある。
「ごめんなさい、少し待っていてくださいね」
ユリーの視線に気づいていないサーキュンは、丁寧に頭を下げると周りを囲っているゴブリンたちを見渡した。
「みなさん、わたくし言いましたよね? かわいい女の子を襲ってはダメだと」
さっきまでユリーたちに向けられていた柔らかな声とはうってかわり、彼女が歴としたモンスターであることを再認識させるようなドス黒い声音。それが鞭で地面を叩く音と重なり、背中側にいるユリーにも恐怖の感情が押し寄せてくる。
「かわいいは最強、という言葉を御存知でしょうか? そうです、魔王様がおっしゃっていたお言葉です。わたくしその言葉にとても感銘を受けましたの。まさしく真実、この世の真理! かわいい女の子たちを侍らせることに勝る幸福はないっ! ……それなのにあなた方は、そのかわいいを傷つけようとした。あなた方のような不細工なモンスターがです。万死に値する」
誰も寄せつけない演説が終わるや否や、腕を振るってもいないのに、サーキュンが持つ鞭が俊敏に動き、全てのゴブリンをはたいた。
(この子、攻撃力はたいしたことないな……)
叩かれたゴブリンたちの様子を見て、ユリーは笑みをこぼした。あそこまで言っておいて手加減したということはないだろう。それなのにゴブリンたちは生きている。おそらくフィアの初級魔法以下の火力。トーテンである以上何か特殊能力はあるだろうが、展開したままのテレポートゲートに入り込めれば勝ちなんだ。多少ダメージを受けてもいいというのはかなり大きい。
「バー……」
背中を向けている今がチャンスとユリーがモンスターを召喚しようとしたその時。
全てのゴブリンの身体が弾けた。
「なっ……!」
「わたくしの鞭、ハートウィップに叩かれたものは全てわたくしの奴隷になっちゃうんです。御主人様が死んでほしいと願ったら死ぬ。当然のことですよね?」
言葉を発したユリーへと振り返り、くるくると鞭を回して見せるサーキュン。レディーステンタクルがダンジョンマスターのユリーを裏切ったのもそのため。おそらく後出しでサーキュンの洗脳が上回ったのだろう。
(前言撤回……めちゃくちゃ強い……)
サーキュンが言っていることが全て事実なら、人間やモンスター、それ以外の生物に加え、無機物も操ることができる。発動自体はショウコに劣るが、範囲が尋常ではない。しかも口に出さなくても効果が発動する辺り、一度でも受ければアウト。実質的な伸縮自在の勝者の十字架だ。ならば動くのは今しかない。
しかし遅かった。脳や心は無事だが、身体は着実にレディーステンタクルの効果を受けている。ユリーが言葉を発するより早く、サーキュンの鞭がユリーの太ももを叩いた。その瞬間、
「ふわぁぁぁぁぁぁぁぁっ!?」
身体の奥底から強烈な快楽が湧き上がった。それは強制的に甘い嬌声を叫ばせ、ユリーの身体を支配した。
「はぁっ……はぁっ……!」
「あぁぁいい反応っ! 最高ですわぁ!」
心とは裏腹に悦ぶユリーの身体を見て、サーキュンは涎を垂らしてくねくねと悶える。
「わかりますか? わたくしが命令できるのは、鞭を打ちつけてから一度だけ。つまり一度叩くたびにあなた方を一度強制的に達させます。さぁ、あなた方は一体どれくらい耐えられるでしょうか♡」




