第4章 第2話 もう一人の魔王
「魔王と……同じ存在……?」
突如××トラップダンジョンの最上階に出現した、この世界には存在しないセーラー服を着た少女。その少女は魔王しか行っていない異世界……転生……? とかいうのをしているらしい。
「ていうかそもそも魔王の詳細ってわかってないはずだよね。この世界の最も北に位置する魔王城に住んでて、あらゆるモンスターを操ることができるってくらいしか……」
「前に『移住事態』のことは教えたわよね」
そう答えたのはフィアの妹、スーラ。私がダンジョンの中にいた100年間。その間私は外の世界とは隔絶されていて、外の情報はほとんど何も知り得ない。だから今生きている人間なら誰しもが知っている移住事態について、つい最近まで何も知らなかった。
「えーと……確か50年前に魔王軍の幹部が各地のトラップダンジョンに移り住んだんだよね」
「そう。その時魔王が姿を現したのよ。どういう魔法を使ったのかは知らないけど、映像と声を全国に流す形でね」
魔王が……姿を現した……? 私の恩人。ノエル・L・ヴレイバー様の仇である、謎に包まれた、あの魔王が……!
「その時に魔王が告げたことは大きく分けて二つ。いずれこの世界の全てを支配するという宣言。そして、こことは違う世界から転生してきたという情報よ」
こことは違う、世界。つまり、異世界ということか。そんな場所で一度死に、この世界に転生した。
「だからこいつは何としてでもここで殺す。ここで逃せば、奴はもう一人の魔王になりかねない。あたしたちが死のうと、ここで絶対に……」
「テンションフルブーストっ!」
スーラが何か言っていたが、そんなのどうでもいいっ!
「異世界っ!? すごいっ、何それっ! この世界以外にも別の世界があるのっ!? しかも転生っ! 転生って! 死んでも生き返るのっ!? みんなそうなのかなっ!? ノエル様も別の世界で生きてるのかなっ!? だったら……私もそこに……! ねぇ、教えてっ! 異世界転生のことっ! 全部教えてっ!」
やばいやばいっ! テンションが上がって仕方ないっ! そんなことがあったなんて……! 調べなきゃっ! 全部調べて、全部知らなきゃっ!
「出ちゃいましたね……ユリーさんの悪癖……」
「放っておきましょー。それより早くあれを何とかしないとー。ここでは殺せないんでー、とりあえず拘束。後は外でちゃんと殺せば万事解決ですよー」
「そうはさせないよっ!」
全身を焦がされ、丸裸にされて胸を隠している少女の前に立ち、ダンジョンブックを構える。
「えっ!? なんだかわかんないけど助けてくれんのっ!? ありが……」
「この子は私が拷問するっ! 拷問して、解剖して、全部知り尽くすっ!」
「こ、こわー……」
大丈夫。ここではいくら拷問したって死なないし、痛くないようちゃんと気持ちよくさせてあげるから。
「というわけで、ちょっと眠っててもらうから。悪く思わないでね、みんな!」
「ユリーさんの頼みとはいえ、これだけは聞くことはできませんっ!」
「そうね。四人がかりならユリーちゃん相手でも何とかなるはずよ」
「イユちゃんがサポートするのでー。とりあえず青の悪魔さんからやりましょー」
「…………」
まさかこんなことになるなんて。あの四人とは戦いたくないが……仕方ない。この知識欲だけは抑えられない!
とりあえずフィアは傷つけたくないなぁ……。あとスーラも。まぁイユはむかつくから触手責めくらいはしてもいい。ミューは……ノエル様やザエフ様と同じ顔だし優しくしてあげよう。
「じゃあ、やろうか」
私たちは武器を構える。私はダンジョンブックを、フィアは杖を、スーラは四肢の鎧を、イユはマスケット銃を。ミューだけはなぜか剣を構えないが、それならそれでいい。
「はぁぁぁぁぁぁぁぁっ」
「ストーーーーーーーーップっ!」
戦いの火蓋が切って落とされたその瞬間。異世界転生者の少女が叫んだ。
「何やってんのっ!? 友だちなんでしょっ!? 喧嘩なんてだめっ!」
「そうだけどさ……ほら、向こうはやる気満々……」
のはずだった。さっきまでは、確かに。なのに、
「身体が……動かない……?」
「変です! 口以外動かせませんっ!」
四人が動かない。武器を構えたまま固まっている。それなのに私と異世界転生者はいたって普通。一体何が起きたんだ……?
「ああああああああっ!」
かと思いきや、ミューが声を上げて身体を動かし始めた。私と転生者には効果がなくて、ミューには半減。フィア、スーラ、イユはいまだ固まったまま動かない。
「いや……」
考え得る可能性。私、ミュー、転生者にはあって、フィア、スーラ、イユにはない。何だ、何だ、何がある……?
「異質……普通の人間にはない、異質さか……!」
私はダンジョンマスター。ミューには少しだがモンスターの血が流れているし、転生者は言うまでもない。
でも何で。何で急に動きが止まった? 決まっている。転生者が静止をかけたからだ。
考えてみれば当然だ。異世界転生者である魔王はモンスターを操る能力を持っている。
であれば同じ異世界転生者であれば同等の能力を持っているのが当然。つまりこの子は、
「人間を操る能力を持っている――」