第4章 第18話 R-
「テレポートゲート」
トーテン最強のモンスター、ケードを討伐したユリーとイユは、休むことなく次の行動に移ろうとしていた。
「それじゃーイユちゃんは一度帰って国王軍にトーテン出現の旨を伝えてきます。青の悪魔さんは本当にそれでいいんですかー?」
「うん。私はここに残ってライブラを守る」
まだ一体トーテンが残っていることから、ユリーはそのままライブラにいることを決めた。
ケードの時は命を優先したが、ここから先は防衛戦。トラップダンジョンの本領だ。時間の許す限りトラップを設置し続ければ、トーテンといえど確実に嵌めることができる。
「それにケードの死体確認もしないと……可能性としてはあるよね。まだ奴が生き延びてることも」
「まぁ爆発させて穴が広くなりましたからねー。横にそられたらイユちゃんの視力でも見えませんしー……でもさすがに3割程度かなー……」
「ショウコのことも気になるしね。あの能力があれば人間相手なら何とでもなるけど、他にもモンスターが来てるならやばいだろうし」
「イユちゃん的には死んでくれるなら死んでほしいんですけどねー……まぁ逆に逃げられたら事ですしー……」
「そうそう。ミューは勇者だからしょうがないとして、フィアとスーラは連れてこないでね、危険だから。……できればイユも来ないでほしい。でもどうせ短期間じゃ魔力も回復しないし大丈夫か。私が国王軍のサポートしておくから安心して」
「ユリーさんがお薬くれるなら別ですけどー……ていうか青の悪魔さん、一人で何とかしようとしすぎじゃないですかー?」
ここまで控えめに相槌を打っていたイユがユリーの判断に異議を唱える。
「ライブラの防衛はユリーさんにしかできないからいいとして、ショウコさんの捜索、ケードの死体確認、国王軍のサポートまではやらなくてもいいと思いますよ。あなた仕事嫌いでしたよね?」
確かに仕事は嫌いだ。ワードを聞くだけで吐き気がするが、それでも。
「私さ、今の生活に割と満足してるんだよ。仕事はクソだけど、フィアがいて、ミューがいて、スーラがいて、まー、イユもいる。この生活を失いたくないんだよ、絶対に。私ががんばってみんなが安全でいられるなら何だってする。仕事はクソだけど」
それは100年ぶりに手にした、好きな人と一緒にいられるという幸福。××トラップダンジョン内なら死ぬことはないが、外の世界であるここでは少し運が悪かっただけで命を落とすことになるかもしれない。そうなってからでは遅いのだ。それを防ぐためなら多少の危険は覚悟の上。いくらでも無茶をしよう。
「まぁ客観的に見ればそれが一番なので止めませんけどー……考えておいた方がいいですよー」
「? 何を?」
そう言うとイユはマスケット銃をくるくると回し、いつになく真剣な顔で自分の頭に銃口を突きつけた。
「優先順位です。欲張るのが必ずしも悪いことだとは思いませんけど、それでも何が自分にとって1番大切か。最悪何を切り捨てるかは決めておいた方がいいと思うんです」
そしてイユはトリガーに指をかける。弾は入っていないだろうし放っておいても構わないが、イユの意図を理解していたユリーは、その腕をとってライブラへと向けた。
「大丈夫、命最優先は変わってないから」
「……そういうことじゃなかったんですけどー……まぁいいです。じゃあそろそろイユちゃんは……」
突然。イユの姿がユリーの視界から消える。いや、地面に倒れていた。押し倒されていた。
「ゴブリン――!」
イユを押し倒し、服を剥ごうとしている小さなモンスター、ゴブリン。緑色の体色に、子どものような背丈。だが力は成人男性以上で、集団で人間の女を襲い子どもを産ませる最低な敵。雑魚モンスターだが、魔力が切れているイユでは対抗ができない。
「抜刀! せがっ!?」
太ももの十手を引き抜こうとしたユリーの身体にも別のゴブリンが襲いかかってきた。いや、よく見れば二体だけではない。十数……いや数十のゴブリンが、飢えた獣のような表情でユリーたちを取り囲んでいた。
(やっぱトーテンだけじゃなかったか……!)
「オープン! レディーステンタクル!」
ユリーはダンジョンブックを呼び出し、二人の中心部分に赤い触手の群れを召喚した。触手は白濁液を纏った身体でユリーとイユを襲っているゴブリンを引き剥がし、牽制するように構える。
「作戦変更! 逃げるよっ!」
「はいっ!」
レディーステンタクルはオスが嫌う成分を持つ粘液を纏っている。オスしか存在しないゴブリンには有効的なモンスターだ。
代わりにメスが飲み込むと中毒状態になってしまうが、召喚したモンスターはユリーに絶対服従。ユリーたちを襲うことはない。そのはずなのに、
「「きゃぁぁぁぁっ」」
触手たちはテレポートゲートへと走るユリーとイユの身体を掴み上げた。
「ユリーさん、これはっ!?」
「わかんないっ! とりあえずクローぐぶぅっ!?」
このままではまずいと判断し、ユリーは触手を帰還させようとしたが、大きく開けたその口に1本の触手が突っ込んできた。
「ユリーさむぅぅっ!?」
イユの口内にも侵入した触手は、メスを虜にする体液を小さな身体の中に注ぎ込んでいく。
「ぅあ……あぁ……?」
「ぁぅ……ぅあ……」
口内を責められること30秒。たったの30秒で、ユリーとイユは正気を失った。とろんとした瞳で虚空を眺め、解放された口からは自然と唾液が溢れてくる。
「こんな仕事乗り気ではなかったのですが、本当に助かりました」
そんな二人の前に一人の少女が歩いてくる。年齢的にはユリーよりも下、フィアと同年代に見える少女。しかし服装は年齢よりもいくらか大人びて見える。その手には先端がハート型になっている黒い鞭があり、ペチペチと音を立てて遊んでいる。
「本当に……本当にうれしいですわ……。こんなかわいい女の子が二人もいるなんて……。魔王様に感謝しないといけませんわ」
魔王というワードを聞く前からこの少女は人間ではないとわかっていた。一見すると14、5歳ほどのかわいらしい少女にしか見えないが、スカートの下から鞭と同形状の尻尾がフリフリと揺れていたからだ。
「あっ、自己紹介をしなくてはいけませんね。わたくしはサーキュン。サキュバスとインキュバスの子、カンビオンのサーキュンと申します」
そして彼女は、触手に囚われた二人をうっとりとした瞳で眺めながら笑った。
「トーテンの8番で、今日からあなたたちの御主人様になります。覚えておいてくださいね、奴隷さん♡」




