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第4章 第16話 詰み

(さすがに厳しいな……)


 ケードのこうげきをイユに助けてもらう形で避けたユリーは、今の戦局を見て冷や汗を垂らしていた。



 現在ユリーたちは、宙を浮く手による不意打ち以外のダメージは負っておらず、それもアドレナリンで忘れている。それに対してケードは度重なる突きと銃撃を受けてボロボロ。しかしボロボロになっているだけなのだ。



(いつまで経っても奴が倒れる気配がない。私とイユが惜しげもなく大技を使っているのにだ。このままだとそろそろ魔力が切れちゃう)


 ユリーの魂の融合(フュージョンソウル)、イユの天使の輪(マカロン)は、トーテンと渡り合うのに必須だが魔力消費が激しい。近接戦闘が始まって約2分。あと新たに使えるのは、お互い大技1つに小技2つといったところ。既に限界は近づいてきていた。



亀刻(きこく)!」

(十の手を狙いにいった方がよかったかな。いや、亀刻(きこく)で結界を封じてないとさすがに厳しかったよな。やっぱりこれが正解だったと思う)


 イユに転送してもらい、ケードの左腕に能力封じの刻印を打ち込んだユリーはイユを横目で見る。



(一応ここからでも勝てる作戦は考えたには考えたけど、いかんせん不安材料が多い。賭けてみるか、ケードの頭の出来に)



「イユ、ごめん!」


 イユを見たまま謝罪の声を上げるユリー。その意味を素早く察したイユは、眠そうな顔に焦りの表情を滲ませた。



(何だ……? 何を謝っている……?)


 トーテン最強でありながら、トーテンの頭脳を担っているケードは考えを巡らせる。ユリーたちの魔力量など知る由もないケードには、今の状況は圧倒的に押されていると思っている。だからチャンスとなり得るこの発言を聞き逃すわけにはいかない。



(青い方がやったことと言えば、腕への突き。そういえば今まで腹や背に攻撃をすることが多かったが、腕に当ててはいけないという縛りでもあるのでしょうか)


 ケードはそう考えながら、攻撃を受けた左腕を見る。



「これは……!」


 なるほど、そういうことか。ケードはニヤリと口角を上げると、何の躊躇もなく、右手による手刀で、自身の左腕を切り落とした。



「ぐぅっ! は、ははぁ……助かりましたよ……敵がどうしようもない馬鹿で)


 ケードが見つけたのは、左腕に刻まれていた亀の甲羅のような刻印。これが能力封じのカラクリだと気づいたケードは、それを無効化するために刻印ごと左腕を切り外したのだ。


 今まで腹や背中に攻撃を当てていたのは、自分で切除や、そもそも気づかせなくするため。だから戦闘の最中でも見れる腕に当ててしまったユリーは謝罪した。


 激しい痛みに加え、同時に結界を作ることができなくなったが、それでも問題ない。魔法を封じる結界に閉じ込めてしまえば、厄介な位置交換はできなくなる。そうなれば純粋な格闘勝負。負ける要素はない。ただしこれは、



「ほんと助かったよ。敵がどうしようもないくそ馬鹿でっ!」



 全てユリーの想定内である。



(ウイラ)っ!」



 ユリーはここで初めて汎用魔法、風を使う。しかしランクは初級。トーテン相手には何の障害にもならない。ただ魔石弾が巻き上がっただけで……。



「しまっ……!」

天使の翼撃(バアムクウヘン)っ!」


 宙に浮いた無数の魔石弾とランダムに位置を変えさせられるケード。全く身動きが取れず、急激な視界の移動に吐き気が押し寄せてくる。



(これで結界は再び使えなくなった……そう思っているのでしょう)


 確かに1秒ごとに位置が変わるこの魔法に巻き込まれれば、自分や相手の座標はわからなくなる。だが最初に言ったはずだ。



「私の結界にサイズの制限はない! マジックロックっ!」


 ケードを中心に半径1キロが結界の中に包まれる。その効果は魔力の制限。これで位置交換はなくなり、結界も張れるようになった。それはいいが、



「どこに行った……!?」


 天使の翼撃(バアムクウヘン)から逃れたケードは、着地すると辺りを見渡す。さっきまでここにいたユリーとイユの姿が見えないのだ。半径1キロの結界から走って逃れるなんて、ニェオですら無理なはずなのに。



「私が飛ばされている間に転送魔法で逃げたのか……?」

「大ハズレ。やっぱりあなた、頭悪いね」


 心底馬鹿にするような声がしたのは、あろうことかケードの真下。土の中だった。



「何だと……!?」

「どーもー。腕ないけど大丈夫ですかー?」


 人二人がギリギリ入れるほどの大きさの穴に座り、元の秘書官服に戻ったユリーとイユが何らかのポーションを飲みながら頭上のケードに手を振っている。



 結界はどこまでいっても四角形。つまり地面に這う底辺のさらに下には結界は及ばない。だからこそユリーはダンジョンブックで落とし穴を召喚し、土の中に身を隠したのだ。



「大丈夫に決まってるでしょ。だってあのピエロ、瞬間移動の結界だったり回復の結界なんかも作れるだろうから。もっとも途中で効果を変えることはできないみたいだけど」


「そうですねー。1つしか作れない結界を解いてしまえばすぐ新しい結界を作れますもんねー。まぁもちろんその前にちょー強力な爆発を引き起こす魔石弾が撃ち抜いちゃいますけどー」


「でもあの結界があったら弾丸は通らないよね。このまま粘られたら私たちは攻撃できないよ。その場合はなくなった腕から失血死しちゃうだろうけど」


「舐めちゃいけませんよー、青の悪魔さん。相手は魔王軍大幹部、トーテン。しかもその中でも最強のケードさんです。こんな魔石弾じゃ仕留めきれませんよー。このポーションで完全に体力と魔力が回復したイユちゃんたち自身が倒すしかありませんよー」



「クソ人間ども――!」



 ケードは今更になって自身の過ちに気づく。



 腕に亀刻(きこく)を当てたことから始まり、腕を切らせ、結界を張らせてこの状況に持ち込むことまで、全てがユリーたちの作戦。



 ユリーたちの言う通り、別の効果の結界を張るには一度この結界を解かなければならない。だが解けば強力だという銃弾に撃ち抜かれる。普段ならまだしも、片腕を失いボロボロにやったこの身体では受けきれないだろう。たとえ耐えきれたとしても、体力、魔力が全快した二人が待っている。このまま悩み続けても血が抜けすぎて死んでしまうだろう。



 つまり、詰み。



 最強モンスターの敗北は、トドメを刺されるまでなく決まった。

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