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第4章 第14話 悪魔と天使

(シューラ)


 ユリーからケードを止めるよう頼まれたイユは転送魔法の魔法陣を出現させ、その中に手を突っ込む。そして取り出したのは、片手でははみ出るサイズの巨大な魔法石。



(コーラ)


 そしてそれに縮小魔法をかけて通常の魔石弾サイズにすると、マスケット銃にセット。弾をケードへと発射した。



「そんなもの効きませんよ」


 ケードが両手を握り、自身の周囲に二重の結界を張る。外側は、防御力特化の壁。その内側には内部の魔力を阻害する結界。これによりどれだけ強力な攻撃が来ても防げる上、天使の翼(エクレア)がケードに適用されることはない。



「解除、炸裂」


 しかしイユが撃った弾丸は結界へと当たることなく、元の大きさに戻った直後、破裂する。その破片は一つ一つが小さな魔石弾。



「何をしようが無意味です」

「無意味なことにお金は使いませんよー」


 イユ特注の炸裂魔石弾。その値段は10万ウィル。値段分の仕事はしてもらわないと困る。



天使の翼撃(バアムクウヘン)



 イユが詠唱を終えた瞬間、ケードの身体は宙にあった。



「馬鹿な……魔法は届かないはぐぉっ!?」


 空を舞うのはケードだけではない。無数の魔石弾に、ケードが張った2つの結界。その内の1つがケードの背中に当たり、使い手を吹き飛ばす。だが次の瞬間にはケードはまた別の空間におり、また別の結界に弾き飛ばされ、また位置が変わっていく。



「どうですかー? イユちゃんの原初の魔法(オリジンスペル)のお味は」



 イユが使った天使の翼撃(バアムクウヘン)。それは天使の翼(エクレア)手動(マニュアル)とした場合、自動(オートマ)と言うべき魔法だ。


 対象を1秒に一度、視界内にある魔石弾とランダムに位置を変えるというのがこの魔法の能力。今回対象としたのは、ケード自身と、彼が張った2つの結界。結界自体が飛ばされれば、中に発動する効果など関係ない。


 巨大な物体が移動すれば、当然別の物体と激突する。本来なら家や木を巻き込んで使う用の魔法だが、目的を果たすにはこれで充分だ。



「ぐあぁぁぁぁっ!」


 何が起きたかは理解できていないが、とりあえず結界を解除するケード。だが自分の座標が常時変わる中では再度結界を張ることは難しく、ただ視界が揺れる酔いに耐えることしかできなかった。



「どーぞー」

「ありがとうっ」


 ケードの足止めを果たしたイユはユリーに声をかける。それに礼を言い、ユリーは顔を上げた。



 結界が張れず、せめてもの抵抗をと宙で暴れる2つの手を見据え、ユリーは十手に魔力を注ぎ込む。


 十手魔法は一の手から九の手まで連続で各10秒以内に使うことで最強の十の手を使うことができるが、今回の目的はあの激しく暴れる手の無力化。それならこの手で十分だ。



「八の手・鞭打――」



 十手の鉤部分が長く伸び、鞭のようにしなる。そしてその先を手へと放った。だがあの暴れ様。普通の鞭なら弾かれて終わりだろう。普通の鞭だったなら。



「――蛇睨(へびにらみ)っ!」



 鉤は一度弾かれるがそれで終わらず、しつこく手に絡みついていく。これこそが蛇睨(へびにらみ)の能力。一度触れれば絶対に逃がさない。強制の拘束である。



「カースロープっ!」


 両の手を一つにまとめると、ユリーはダンジョンブックから縛られれば二度と解けない縄、カースロープを召喚し、手を閉じた状態にして縛り付ける。そして近くの木の幹に括り、完全に動きを止めさせた。



「イユ、いくよっ! 三の手・棒術――」


 手早く手を行動不能にし、ユリーは棒身と鉤を連結、棍状にするとケードの元へと駆ける。



「解除。天使の翼(エクレア)


 そしてイユは視界にユリーが入った瞬間、天使の翼撃(バアムクウヘン)を解除。ケードの近くの魔石弾とユリーの身体を交換する。空中で悶えているケードはこの攻撃を防ぐ手段はない。そしてこの一撃が入れば、それで決着だ。



「――亀刻(きこく)っ!」


 長い棍の一突きがケードの背中に突き刺さる。いくら非力なユリーの攻撃といえど、無防備な状態で背後から食らってはひとたまりもない。ケードの身体が大きく吹き飛んでいく。



(なぜだ……! なぜトーテンである私がこんなガキ二人にに押される……!)


 さすがの身体能力で土埃を上げながら着地したケードは、口の端から零れた血を拭いながら余裕そうに立っている二人を睨みつける。



(落ち着け。身体能力、魔力、異力、能力。全てにおいて私の方が上回っている。冷静に対処すれば確実に勝てる相手だ。まずは、)


 服についた砂を払い、両の手を前に出すケード。たとえ一度位置交換をされても、すぐに二回目の結界を張れば問題ない。



「今の一撃で殺せなかったことがあなたたちの敗因です。後悔しながら死になさい」


 そしてケードは右手を閉じ、魔力阻害の結界を形成しようとする。どうせ防がれるだろうが、その場合は左手で終わらせる。だが位置交換は行われなかった。それどころか、



「結界が出現しない……!?」


 右手も左手も、閉じても開いても能力が発動しない。一体何が起こっている……!?



魂の融合(フュージョンソウル)――」

原初の魔法(オリジンスペル)――」



 焦り戸惑うケードへと、二人の人間がゆっくりと歩いてくる。


「――中華衣(チャイナフォーム)



 一人はまたも衣服を変え、スリットの大きく空いた青いノースリーブのドレスを纏った少女。髪は再度伸び、サイドの高い位置でお団子に纏められている。



「――天使の輪(マカロン)



 もう一人は、上下左右の宙に転送魔法と思われる魔法陣を出現させた少女。通常作り出した位置で固定される魔法陣が、付き従うように少女の周囲を浮かんでいる。



「――何だ……! 何なんだ、貴様らはっ!」


 見たこともない魔法を纏った二人に、魔王軍大幹部、表の最強であるケードは叫ぶことしかできない。



「青の悪魔」

「赤の天使」



 その答えを得て尚、ケードは少女二人の異質なオーラに気圧されてしまっていた。

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