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第4章 第9話 3つの真実

「なんか表ですごい音したけど大丈夫ー? あれ? ユリーちゃんたちどったの?」


 ライブラを目指して旅立ったユリーたちは7時間後、元いた入口の小屋へと戻ってきていた。



「人攫いに売られそうになってたところをメアに助けてもらった」


 小屋の中でのんびりくつろいでいたショウコに簡単に事の顛末を伝え、ユリーもショウコが入っていた妙なテーブルの中に足を入れる。



「何これ? なんかぬくいんだけど」

「あーこれコタツって言って、私のいた世界では冬にこうやって温まってたんだよ」

「へー! いい発明があるもんだねー!」


 コタツの中に頭を突っ込み、仕組みを確認するユリー。なるほどなるほど、火の魔法石をテーブルの下に入れて、毛布で熱を閉じ込めてるのか。これは中々画期的だ。



「青の悪魔さーん、ちょっと相談なんですけどー、ここにいる間だけでも不用意に行動するのやめませんかー?」


 森の外に出たことで制限呪が戻り、元の眠そうな瞳になったイユが慎重にコタツに脚を入れながらそう口にする。



「うん……ちょっと調子に乗ってた」


 思い返してみれば、クルクルトラップダンジョン内でダンジョンブックを使えないということは、入る前に予想できていたことだった。


 ダンジョンブック製の服では入れない。メアのその発言を深く読み取ると、ダンジョンブックの能力は発動できないことに結びつく。普段のユリーなら、聞いた瞬間にそこまで考えられていたはずだ。



 だが今回、同行していたのは自分とほぼ同じ頭脳を持つイユ。イユが何も言わないということは、問題ないということだろうと勝手に思い込んでいた。ようするに、友だちと一緒に旅行できて舞い上がっていたのだ。


 それはイユにも同じことが言える。その可能性を頭によぎってはいたが、ユリーがスルーしていたので考えすぎだと結論づけていた。



「イユちゃんも油断してましたけどー、青の悪魔さんも気をつけていきましょうねー」

「そうだね。もう絶対間違いは犯さない」


 今回はたまたまメアが助けに入ってくれて、ダンジョンの薬で簡単に回復できたが、次捕まってしまったらどうなるかわからない。ここは××トラップダンジョンではない。少しミスをしただけで命を失う場所なのだ。なのに、



「トーテン、ってどういうこと?」

「そのままの意味」


 お茶を淹れてきてくれたメアに厳しい視線を向けるユリー。助けてくれた時、メアはトーテンを倒すのに協力してほしいと告げたのだ。



「最近トーテンの1体が、森の周囲を探っている。このままだといつ魔除けの結界が破壊されてもおかしくない」

「トーテンってなに?」


 事態の重さをわかっていないショウコが呑気にお茶をすすりながら訊ねる。



「トーテンっていうのは、魔王軍大幹部の10体のこと。1体倒すだけでも私たち5人がかり、しかも死なない××(チョメチョメ)トラップダンジョン内でなんとか、ってくらいとんでもないモンスターだよ」

「それにニェオは7番ですしねー。それより上が相手だとさすがにきついかなー」

「7番?」


 今回疑問を浮かべたのは、ショウコではなくユリー。トーテンは100年以上前から存在していたが、番号があるなんて聞いたことがない。



「えっとー、トーテンって魔王から1~10番までの番号が振られてるんですよー。1~4は特別枠で、情報はないし必ずしも強いってわけではないらしいんですけどー、5~10番は若い方から強さ順になってます。つまりニェオはちょうど中間辺りの強さ、ってことですねー」


 何度も何度も追い詰められ、奇跡が起きてようやく倒せたニェオ。それより強いモンスターが最低でも2体もいるという事実にユリーは愕然とする。



「あ、この情報世間に漏らさないでくださいねー。今のところ知ってるのはイユちゃんだけなのでー」

「え? どういうこと?」

「まだ秘書官じゃなかった頃、トーテンを倒した時に聞き出したんですよー。勇者さんくらいには言ってもいいかなーって思うんですけど、ほらー、勇者の血を引いたモンスターが7番ってちょっとかっこつかないじゃないですかー」



 トーテンを、倒した。イユが。



「ええええええええっ!?」

「まぁ10番でしたしー、1対1だから何とかなったって感じですねー」


「いやいやにしたってだよ! それにイユの魔法って味方にしろ敵にしろ複数いる時が一番強いじゃんっ!」

「んふふー。イユちゃんが手札を全て晒しているとお思いかなー? イユちゃん実はタイマンが大の得意なんですよー。収入が安定しないので秘書官やってますけどー、実はめちゃくちゃ強いんですよー」


「どういう能力か教えてっ!?」

「えー、どうしよっかなー」

「お願いお願いお願いっ!」

「イユちゃん甘いお菓子が食べたいなー」

「話、戻していい?」


 すっかりテンションフルブーストモードになったユリーをメアの小さな声が収める。



「今クルクルトラップダンジョンを覆っている結界は、人を迷わすもの、モンスターを入れないもの、魔力を封じるもの、異力を封じるものの4つ。この効果を一纏めにし、森の外に設置した魔法石を媒介にして発動している。つまりどれか一つでも破壊されれば、魔王の手が全ての世界の情報に届く」

「なるほどー、かなり危険な状態なんですねー」


 事態の深刻さに似合わないイユの相槌がする中、ユリーは全く別のことに意識を向けていた。



「異力のこと知ってるのっ!?」


 そう。メアはユリーがライブラに来た理由の一つを、平然と語っていたのだ。



「異力というのは、この世界とは異なる世界。つまり異世界から伝わった能力のこと。だから異力の塊である伊勢翔子は入れないし、あなたたちがダンジョンブックと呼んでいるその力も使うことはできない」


 平然と。ただ淡々と。まるで本を読み上げるように語るメア。だが100年間共に過ごした力の正体を知ったユリーは、とても冷静ではいられない。



「ダンジョンブックが異世界の力ってどういうことっ!? ××トラップダンジョンもそうなのっ!? ていうか異世界って……!」

「私はそれ以上のことは知らない。気になるなら自分で調べるといい。トーテンを倒すのに協力してくれるならライブラに通してあげる」


 ユリーに肩を掴まれ、ぐわんぐわんと頭が揺れているのにもかかわらず、あくまでもメアは機械のような口調を止めることはしない。そんな様子にイラつきながらも、ユリーは一も二もなく答える。



「わかったっ! トーテンなんて私たちが倒してあげるっ!」

「さっき言ったこともう忘れましたかー? 不用意な行動はやめましょー。とりあえずトーテンの能力がわからないと話にならないよねー」


 止めるような口調ながらも、トーテンを倒すことに賛成の意を見せるイユ。だがメアは相変わらずの無表情で首を横に振っている。



「トーテンの情報はわからない」

「わからないってー、ライブラで本を読めば一発じゃないですかー」


「私の仕事はクルクルトラップダンジョンの受付。本を読む状況は入場希望者の過去を知ることだけで、自由に本を読むことは仕事の内に含まれていない」

「でも仕事じゃないだけで閲覧はできるんですよねー?」


「できる。でもする気はない。本なんて意味がないから」

「んー、ちょっとよくわからないんですけどー……」

「あーもーっ! その喋り方やめてーっ!」


 間延びするイユと、無機質なメアの口調に、とても冷静ではいられないユリーが声を荒げる。



「とにかく今やるべきことは、トーテンの討伐! そのためには情報がほしい! だからライブラで調べてきてっ!」

「嫌。本なんて嫌い。仕事時間外で読むなんてありえない」

「はぁぁぁぁっ!?」


 メアの発言の意味が理解できないユリーが、珍しく頭を抱えて髪をくしゃくしゃする。それでもなお、メアは何も気にせず続ける。



「本なんて意味がない。読んでも全ての情報を覚えられるわけじゃないし、時間がかかる。長時間読めば頭が痛くなるし、ほしい情報をピンポイントで探すのも無理。こんな不完全な媒体がある?」



 メアの発言は全て真実。だからこそ多くの人は本で調べるのではなく、誰かに聞いて理解しようとする。その方が楽だから。



「これだから馬鹿は嫌いなんだよ。本ほど素晴らしいものはない。自分で体験しなくても、ただ読むだけでその経験を手に入れることができる。研究者が何年も何年もかけて実証した真実を、ものの数時間で自分のものにできる。こんなにすばらしいものはないっ!」



 ユリーの発言もまた真実。ユリーは100年間、頼るべき本がないまま様々なものの開発を成し遂げてきた。本の重要性は誰よりも理解している。



「本なんて、無価値」

「本こそが、世界っ」



 異なる真実がぶつかり、激しい火花が散る。その様子を、



(そろそろ夕飯時なんだけど、どのタイミングで切り出せばいいんだろうなー……)



 途中から完全に置いてけぼりにされたショウコはつまらなそうに見ていた。なぜなら、



(ググれば一瞬で何でもわかるのに……)



 また別の真実を知っているからだ。

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