夢のような世界
目を開けると、僕たちは白くてふわふわの綿の上に寝転んでいた。
どこまでも白い空間が広がっている。全て真っ白だ。
起き上がって隣に寝ているアルフレッド少年を見ると、髭も髪も眉毛も白くなり、少し背筋が曲がっていた。
「アルフレッド、おじいちゃんになったね」
「アルフレッドさんは、少年のようですよ」
そう、アルフレッド少年の姿は、書斎で出会った僕と全く同じ姿になり、僕は書斎の扉から顔を出した時のアルフレッド少年と同じ姿になっていた。
「行きましょうか」
老人の姿をしたアルフレッド少年はゆっくりと歩き出した。僕は「どこへ」とは聞かなかった。もうすっかりわかっているからだ。
なぜなら僕の仕事は未来を書くことだから。最初から全部知っている。
「長いような、短いような人生でした。手に入れたと思ったものは虚構で、けれど手に入れたものは確実にあるのに、手元には残らない。それでもとても暖かい気持ちです。」
アルフレッド少年は晴れ晴れとした顔をしている。
「お茶にしよう」
立ち止まってそう声をあげると、目の前にはティーテーブルがセットされ、湯気をあげる美味しそうなお茶のセットが現れた。
アルフレッド少年は僕の分のお茶を淹れてくれた。
出来立てのビスケットを半分に割ってたっぷりのクロテッドクリームを塗る。
「おいしい」
僕たちは同時に言った。
「これは僕の母の味なんだ。もう一度食べられて本当に幸せだよ」
二人でゆっくりとお茶の時間を楽しむ。
ふわふわした綿の空間はちょうどいい暖かさでとても居心地が良かった。
カップから最後の一口を飲み干す。アルフレッド少年が満足そうに息を吐くと、シュッと大きな扉が現れた。
「ここを出たら外の世界だ」
アルフレッド少年はゆっくりとドアノブを回す。僕のことを振り返りもせずに、するりとドアの外へと出ていった。
しばらくすると、開きっぱなしのドアから泣く声が聞こえてきた。
「パパ、パパ、目を覚まして」
「おじいちゃん、いやだよ行かないで」
僕は目を閉じた。
* * *
目を開けると、いつもの書斎の机に向かってペンを持っていた。
姿も元の老人に戻っている。
僕はペンを置くとパタンと本を閉じ、壁一面にある本棚の空いているところに本を納めた。
そのあとは、部屋を掃除して、私物を片付け、外出着に着替えて帽子をかぶった。
コンコン、とノックの音がして外へと繋がる扉が開く。
後任が来たようだ。
僕はゆっくり目を閉じた。