意味のない世界
ドスン、と尻餅をついて到着したのは、先ほどまでいた場所とそっくりの街だった。ただし空は暗く、地面や建物の壁の色も白と黒に見える。
アルフレッド少年は大きいままだったが、また少し歳をとったように見えた。先ほどまでは二十歳の青年に見えていたけれど、今度は三十歳くらいに見える。
「アルフレッド、少し歳を取ったように見えるよ」
「アルフレッドさんは、少し若返ったように見えますね」
僕は手を見てみた。確かに肌にハリが出て色艶も良くなっているように見える。
アルフレッド少年─すでに見た目は少年ではなくなってしまった─は今はいつの間にか折り目のついたベストとトラウザーズを着ていた。立派な紳士に見える。
僕たちはそれぞれの手を見たり、顔を触ったりして異常がないことをひとしきり調べてから、暗い街をトボトボと歩き出した。
何もきこえない静かな街を歩いていると急に街が途切れて砂漠が現れた。
アルフレッド少年は駆け出して砂漠の中に飛び込み、座り込んで砂を盛り上げ始めた。
「アルフレッド、何をしているんだい?」
「山を作っているのですよ」
「なぜ?」
「何かを残さなくてはと思ったのです」
大きな体のアルフレッド少年が砂をひとすくいするだけで大きな山ができる。彼は夢中になって砂をかき集めては山を盛り上げる。
僕は少し離れたところに腰を下ろしてそれを眺めていた。
アルフレッド少年は夢中で山を高く積み上げていた。その周りには深い穴ができていく。山の高さが僕の背丈を超えて見上げるくらいになった頃、暗い空がピカッと光った。
「わぁ!雨だ!」
突然の土砂降りだ。強い雨はアルフレッド少年が高く高く積み上げた砂でできた山を押し流してしまう。
「ああ、私の作った山が壊れてしまった」
アルフレッド少年がポロポロと涙を零す。涙の分だけ体が小さくなって行った。
わんわんと大きな声を上げて子供のようになくアルフレッド少年を僕はただ見ていた。
僕の体と同じくらいの大きさになった頃、ようやく泣き止んだ。
「私のやったことは無意味だったのか」
「そんなことはない。ほら、みてごらんよ、君が堀った穴に魚が泳いでいるよ」
山を作るために掘った穴に水が溜まってそこには色とりどりの魚が生き生きと泳いでいた。
「ほんとうだ」
嬉しそうに笑ってアルフレッド少年は穴を覗き込んだ。
白とだいだい色と金色のまだら模様の魚がたくさん泳いでいる。大きな魚も小さな魚もいる。
「きれいだな」
「あっ、アルフレッド、そんなに乗り出したら落ちてしまうよ」
どんどん身を乗り出すアルフレッド少年を慌てて捕まえる。けれど僕たちは水の溜まった穴の中にボチャンと落っこちてしまった。