なんでも叶う世界
僕はドアの外に出るのは初めてだったのですごく怖かったけれど、なんとなくアルフレッド少年と一緒に外に出てみることにした。
奥の部屋からジャケットと帽子とステッキを持って準備は完了だ。
「行こ!」
「参りましょう」
相変わらず大人びた言葉使いのアルフレッド少年がドアをゆっくりと開ける。
ドアの向こうには荒野が広がっていた。
延々と続く荒野の地平線には夕陽が沈みかけている。遠くから鋭い鳥の声が聞こえてくる。
パタン、とドアが閉まる音がして慌てて振り返るとドアがスゥッと消えていくところだった。
「ええ〜っ!待って!消えないで!」
思わず叫ぶ。するとドアが消えるのが止まり、半透明のドアがそこに残った。
ドアノブをつかもうとするが幻影みたいに掴めない。
僕がドアノブをスカスカ触ろうとしている間にアルフレッド少年はドアの向こう側に回ったり地面を調べたりしている。
「見えているけれどここにはないようですね」
「ヤダヤダ!いますぐ部屋に帰りたい!」
僕が叫んだ途端に、目の前の景色がシュッと消えて元の部屋に戻っていた。
どういうこと?
僕とアルフレッド少年は揃ってあちこちをキョロキョロ見回した。だが体にも部屋にも特に異常はない。
「もう一度行ってみましょう」
そう言ってドアを開く。先ほど見たのと同じ景色が目の前に広がっていた。パタンとドアが閉まる音がして振り返ると、今度はドアは消えていなかった。
僕は喜んでドアを開けてみる。しかし向こう側にあるのも荒野だった。
ドアを何度潜っても移動はしない。荒野にただのドアがあるだけだ。
「地図でもあれば助かるんですが」
アルフレッド少年がつぶやくとバサリと何かが落ちてくる。地図だ。
「えっ、どういうこと!?」
僕は驚いてしまって地図を太陽にかざしてみたり少し舐めてみたりしたけれど特におかしなところは見つけられなかった。
その様子を見ながら何かを考え込んでいたアルフレッド少年は「あ」と声をあげた。何かを思いついたようだ。
「テーブルにティーセットが欲しい」
そう言った途端、目の間にポンポンッとテーブルにセットされたティーセットが現れる。
「椅子も欲しいな」
ポンっと椅子も出てきた。「なるほど」とアルフレッド少年は顎を撫でながらうなずいている。
「何がなるほどなのさ」
僕が尋ねるとアルフレッド少年はピンと指を立てて笑顔で答えた。
「欲しいと思ったものが出てくるようです」
「え、それだけ?」
欲しいものが出てくるのは当たり前じゃないか。
「でも、いま何が必要なのかがわからないよ」
「馬車が必要です」
ポンっと乗り心地の良さそうな馬車が現れる。
「馬を二頭と御者も必要ですね」
ポポンっと馬と御者が現れた。
「さあ、行きましょう。御者さん、出口までお願いします」
「かしこまりました」
御者はうやうやしく頭を下げた。
馬車の中はふかふの椅子と気持ちのいいクッションが置いてある。時々がたんと揺れるのを除けばとても快適だ。
「僕、馬車に乗るのはじめて」
小さな小窓から外を覗くと所々に生えている木が勢いよく通り過ぎていくのが面白い。
いつも窓から見ていた緑の地面を走ったら、どんな気分かな。
そう考えたら、外のカラカラに枯れていた地面に緑の草が生え始めた。そして所々で白い動物が草を食んでいる。
すべての景色がビュンビュン通り過ぎて面白い。
「これは貴方様が求めたもので?」
「うん、そうだよ。いつも窓から見ていた景色なんだ。本で見た木々が並んでいたらもっと楽しそうだな」
すると、今度は馬車が走っている両脇にとても高い木が生え始めた。枝のない長い木の上の方にだけ葉っぱが生えている面白い形をした木だ。
等間隔に並んだ木がビュンビュン通り過ぎていくのが面白い。
「ウワァ、楽しいな」
「いつになったら、出口につくんでしょうね」
アルフレッド少年は外の景色に飽きたようで前を向いて座り直した。僕は外の景色を見るのに満足すると、同じように足を揃えて椅子に座った。
「そうだね、そろそろ出口に行きたいね」
ギッ、と音を立てて馬車が止まる。
僕たちは同時に前のめりになって転びそうになってしまった。
御者が馬車の扉を開き
「到着いたしました」
と声をかけた。
二人で外に出ると目の前にポッカリと穴が開いていて、そこには下りの階段があった。