ウソの中のホンモノ① 舞風優視点
「神谷さん。能登印刷さんから電話です。」
「はい。わかりました。」
先輩から電話を受け取った。
(一体なんの電話だろう?)
締め切りはまだ1週間以上先だったはずだ。
「お待たせいたしました。神谷です。いつもお世話になっております。」
「え・・・締切はまだのはずでは・・・?」
「あっ・・・確かに電話いただいていました。」
「も、申し訳ございません。すぐに折り返し電話させていただきます。」
私は2週前に締め切りを早くすることが可能かという電話を受け、大丈夫と言ってしまっていた。メモを捨ててしまっていた。
(とりあえず、編集長に報告をしなければ・・・締め切りにはどうやっても間に合わない・・・やってしまった。)
これほど大きい失敗をしたのは初めてだ。
「お疲れ様。」
「お疲れ様です。」
時刻は19時前だ。今日は金曜日ということで皆、早めに帰宅したようだ。今会社に残っているのは私だけだ。
「はぁ・・・」
今日はとんでもないことをしてしまった。
編集長が印刷所に掛け合って、記事を差し替えるということでなんとかなった。
怒られて落ち込んだが、それ以上に、情けないという思いが強かった。
確かに私は最近いつでもあいつのことが頭にあった。集中できていなかった。
「もう少し仕事しよう・・・」
なんで物事が上手くいかないんだろう。
こんなに毎日必死にやっているのに・・・
「あれ・・・」
画面が滲む。
頬に涙が流れているのが分かった。
「ずっ・・・んっ・・・」
こんな時でも頭に浮かぶのはあいつのことだった。
なんで、私はあいつのことが好きなんだだろう。優しくて、ちょっと話しやすいってだけなのに・・・あんなぱっとしないやつのことなんて・・・
私は涙をこらえつつ少しだけ仕事を進めた。。
私は仕事を切り上げ、外に出た。
時間は8時を回っていた。
11月を過ぎ、12月になろうとしていた。
「寒い・・・」
今日は嫌なことがあった。ものすごくお酒が飲みたい。
いつもの居酒屋に行こうか迷いながら駅の方に向かう。
信号が青から赤に変わろうとしている。
私は止まる。
となりに、自転車が止まる。
ふと見ると、そこにはあいつ、寺沢蓮がいた。
「あ・・・」
私が声を出すと、彼も気づいたようだ。
「あっ・・・久しぶり・・・」
「うん・・・」
お互いに歯切れが悪い。
約1ヶ月前に会った彼より、なんだか悩んでいるような感じがした。
そして私も彼と話したかった。
頭の中には千愛希の顔が浮かんだ。
彼女のことを思えば、ここは別れるのが正解だろう。
わかっている。わかっているのに、彼と話したいという思いが止まらない。
(千愛希・・・ごめん・・・)
「ねぇ・・・時間ある?」
私は自分の気持ちに素直に従った。
この選択がたとえ後に大きな後悔をするとわかっていてもだ。




