異動 舞風優視点
八瑠佳と一緒にモンタ行った翌日、舞風優は職場にいた。
「神谷さん、編集長が読んでいますよ。第三会議室です。」
舞風優は内線で呼び出された。こんなことは初めてだった。
「わかりました。すぐに向かいます。」
舞風優は電話を置き、席を立つ。
舞風優は大学卒業後に、栗山出版という出版社に就職した。大学生の時に栗山出版でアルバイトでをして、そのまま就職した。
最初は時給が高いのと大学から近いということでバイト先に選んだ。しかし、文章に触れ、自身も文章を書いてみたいと思うようになり、栗山出版に就職するに至った。
仕事はしんどいことも多いが、雑誌が完成した時の達成感は何にも例えがたいものだった。
「失礼します。」
ノックをして会議室に入室した。
「急に呼び出して悪かったね。」
「いえ。でも初めてだったので、驚きましたけど・・・。」
「確かにあんまり呼び出しなんてしないよね。今回来てもらったのは、異動のこと。」
「異動ですか?」
「そうそう。確定ではないんだけど、金沢支社の人が秋に退職することが決まったみたいで、その後任を探しているそうだよ。で、退職する人が担当していたのが人物特集で、職人さんや農家さんに話を聞いて、それを記事にするというコーナーなんだよね。春の自己申告書にやってみたいことに聞き取り取材をしたいって書いてあったのを思い出して、もし神谷さんが希望するなら推薦しようかなと思っているんだけど、どうかな?」
「金沢ってことは引っ越しすることになりますよね?」
現在はグルメ系の雑誌の担当であるが、もっと人に聞き取りをして、文章を書いてみたいとも思っていた。
「それは確実だね。でも無理にってわけじゃないよ。今神谷さんが担当しているところも人気あるし、こちらも困るんだけどね・・・」
編集長は続ける。
「ただ、神谷さんのスキルアップにはなると思うよ。」
「そうですよね・・・少し時間をいただくことって可能ですか?」
「もちろんだよ。2週間以内に返事もらえるとありがたいね。」
「わかりました。早めに答えを出します。」
「うん。要件は以上。」
「わかりました。失礼します。
◇
舞風優は仕事が終わり、自宅に帰った。頭に浮かぶのは、今日の編集長との会話だ。
実は答えは金沢支社に異動で決まっていた。即答もできたはず・・・なのになぜ、私は迷ってしまったのかわからない。
私は一人暮らしだし、恋人もいない。友人も八瑠佳ぐらいしかいない。
八瑠佳と気軽に会うことができなくなる・・・それができなくなるかもしれないと思うと少し寂しく思った。
「そういえば、八瑠佳から連絡がないな・・・」
寺沢さんから返信はあったのだろうか?
迂闊に聞いて八瑠佳を悲しませるのも嫌だし、今日はメッセージを送らなくていいかな。
また、次に連絡する時に異動のことを伝えよう。




